「もよる」南部菱刺しとは?
最近オンラインショップをオープンしました。
オンラインショップの一番最初に出てくるロゴの下に
「装う〈もよる〉菱刺し」というキャッチフレーズを入れています。
「装う」は分かると思いますが、「もよる」とはなんぞや?
と思われたと思います。
昨年、KOGINBANK様のクラウドファンディングの返礼品に
2468/3sunの商品を出品させて頂きました。
それを機にリーフレットを作って同封することにしました。
リーフレットを作るにあたり、2468/3sunの「ウリ」とはなんぞや?
ブランドが作りたいテーマとは?と深く考えました。
南部菱刺しは元々、農民が自由に衣類や布を手に入れるのが困難だった時代に
生活のために、家族のために、生きるために編み出された刺し子の技法です。
なので、古作にはその時代の農民たちの生きた証が刻まれた貴重なものであり、先人たちの生活を思うと尊敬の念というかなんというか、古作の迫力に押されて平伏してしまうような感覚になります。
時代が進むと、鉄道が開通し、都会から色鮮やかな毛糸が入ってきて、それに目をつけた娘達がカラフルな菱前垂れを作って身につけるようになります。
私はこのカラフルな前垂れを作った若いめらしっこたち(娘達の意)を思うととても心がキュッと締め付けられるようななんとも愛おしい気持ちになるのです。
色鮮やかな毛糸を初めて見た時はどんなに心踊っただろう。
これで前垂れを作ったらさぞかしめんこくなるのでは?!と思いついた時は小躍りしたくなるぐらいワクワクしただろう。
出来上がって、友達に見せた時はなんと自慢げな気持ちに満たされただろう。
友達と一緒に前垂れを身につけて村のお祭りに行った時は自慢げな、でも恥ずかしいような、どんな気持ちで身に付けただろうか。
でも色鮮やかな前垂れをかっちゃ(母さん)や婆さまが見た時は
「そったらだ派手なの身につけでめぐさい(みっともない)はずがしね(恥ずかしい)」など小言を言われただろうか。
でもそれをはねのけて身につけためらしっこ達の心意気を思うと頑張れ!と思わずにはいられない。
……などなど、妄想が止まらなくなるのです。
そんな当時のめらしっこ達の事を思いながら私は菱刺しを一針一針刺しています。
南部弁で「もよる」という言葉があります。
意味は「いつもより良い服を着る、着飾る、装う」という意味があり、
「はやぐもよってこい」という時は「早く着替えろ」というカジュアルな意味でも使います。
津軽弁にも同じような言葉があるかどうか調べたら、どうやら津軽弁にはない言葉のようです。
似たような言葉で「えふりこぎ」という南部弁もありますが、こちらは「見栄っ張り、着飾る」の意味があります。生活が貧しいと、良い服や着物を身につけることは贅沢で卑しいことだという意識が生まれそうですが、「もよる」という言語に関しては嫌な意味で使うのは少ないと感じました。
(ちょっとした嫌味で「もよってどごさ行くの?」とはいう)
そんな昔の娘達が村のお祭りや慶事などに菱前垂れで「もよって」行ったように
現代の生活でもどこかに出掛ける時に2468/3sunのバッグなどを持って
「もよって」出かけて欲しい、そんな気分の上がる商品を作りたいという思いから
「もよる」南部菱刺しというキャッチフレーズをつけました。
私の作る南部菱刺しは伝統的なものではありません。
伝統的な型コを使いながら、現代的に解釈して再構築したものです。
伝統的な菱刺しを作っていらっしゃる方から見たら
それは菱刺しではないとお叱りを受けるかもしれない事は
常々頭の片隅に置きながら制作をしています。
でも当時のめらしっこ達もかっちゃや婆さまから
色毛糸という新しい素材で前垂れを作ることに「それは伝統的な菱刺しじゃない」と言われながら作ったのではないだろうかと想像しています。
恐れ多くもそんなめらしっこと自分を重ね合わせて作っています。
どうぞ皆様も2468/3sunの菱刺しバッグを持って
「もよって」出掛けてみてください。
2468/3sunの文章にはちょくちょく南部弁が出てくると思います。
上京してからもう何十年も経っていて普段は都会ぶって標準語で話していますが
心の中で話すときはまだまだ方言が抜けません。
お付き合いくださると嬉しいです。