薬剤師による起業への挑戦 #9 「医療の質向上への個人的な取り組み」
-緩和ケアチーム設立、緩和ケアマニュアル作成-
病棟では多くのがん患者が緩和ケアを必要としていた。
しかし、海浜病院には緩和ケアに不慣れな医師が多く、診療ガイドラインの記載内容と乖離した治療が度々行われていたため、病院内で認識を共有して活用できる「緩和ケアマニュアル」が必要と考えた。
そこで、緩和ケアに熱心な医師や認定看護師を学会へ誘い、海浜病院の緩和ケアマニュアルを作成することを計画した。
このマニュアルを作成するにあたり、内容の吟味や病院全体への影響力を高めるため「緩和ケアチーム」を組成することを学会へ参加したメンバーと検討した。
後日、病院に対し「緩和ケアチーム」の設立を依頼、その結果、無事に受理され緩和ケアマニュアルが作成された。
これにより医師への処方介入が抵抗なく受け入れられるようになり、看護師も治療内容がマニュアル(科学的根拠)に沿っているか、薬の投与速度が適切かなど確認できるようになった。
しかし緩和ケアチーム設立から間もない頃、人事部は西川をそのメンバーから外し、別の薬剤師に担当を任せた。
この判断に西川は納得できなかったが、組織の一員として従うしかなかった。
-看護師向け定例勉強会-
病棟では看護師の配置移動が頻繁に行われた。
海浜病院の看護師は入退職が多いため、 それに合わせた人員配置だったと思われたが、病棟は常に煩雑な状況が続いていた。
実際、がん治療にほとんど関わったことの無い看護師が薬剤の投与を行うこともあった。
この現状を問題視した看護部長は、病棟担当薬剤師である西川に相談し、週1回のがん薬物療法に関する勉強会を始めることが決定した。
毎週木曜日の業務終了後に30分程、西川は作成した資料をもとに看護師へがん薬物治療に関する知識をアウトプットしていった。
勉強会の資料は業務の隙間時間や業務終了後などに作成しており、残業手当などの支給はなかったが、医療の質を上げるために必要なことと感じており苦にはならなかった。
勉強会は半年間毎週開催され、その後は不定期に開催されるようになった。
-薬剤師の認定制度-
薬剤師という国家資格とは別に「認定薬剤師」、「専門薬剤師」といった日本病院薬剤師会など各学術団体による認定制度があった。
具体的には、がん専門薬剤師、感染制御専門薬剤師、精神科専門薬剤師、妊婦・授乳婦専門薬剤師、HIV感染症専門薬剤師などがあった。
その中でもがん専門薬剤師は取得難易度が高く、取得するための条件の厳しさと試験による審査基準が高く設定されていた。
海浜病院は2名のがん専門薬剤師が所属しており、西川もその一人だった。
しかしこれを取得するためには、業務後に症例をまとめ上げる作業、学会発表や研修会に参加するために毎年5〜10万円程の費用を自費で支払う必要があった。
海浜病院では専門薬剤師を取得したことによって昇給するなどの措置は無く、個人的な自己研鑽として扱われた。
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