作品「襟」



 
 
新緑の頃
林の中で
散歩屋さんを発見した
ゆったりとした斜面に
腰を下ろし
自分を忘れた様子だった
鹿たちも
彼を囲むように座っている
眠っているものもいるし
口をむぐむぐと
動かしているものもいる
みどりの小鳥が
彼の頭や肩に
とまったりしている
僕は
立ち去ることも
近寄ることも
できなかった
その時
ゆるい風が
木々をめぐり
若葉と
彼の襟を
揺らしていった






『言の森』(BOOKLORE)
『歩きながらはじまること』(七月堂)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?