作品「椿の花」
椿の花
たそがれ時
家の庭先に
花を食べる男が
現れた
大きな椿の花を
むしゃり
むしゃり
噛みしめながら
食べている
落ちた花だけを
食べるので
僕は
見て見ぬふりをした
駅前の本屋で
その男を
目撃したことがある
長く立ち読みした末に
週刊新潮を買っていた
どこにでもいそうな
黒くしずんだ
おじさんだった
頭に
ひとつ
椿の花を
載せていた
僕に気づくと
少し
お辞儀をした
なぜか花は
落ちなかった
僕はまた
見て見ぬふりをしてしまった
『言の森』(BOOKLORE)
『歩きながらはじまること』(七月堂)
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