作品「16 ゆれる耳」



16 ゆれる耳

耳の人が用意してくれたお酒は
抜群においしかった
ひとくち含むと
そのたびに爽やかな風が
舌先を吹きすぎる
そして
上品な甘みの余韻

驚いて
 どこで手に入れたのですか と
訊くと
その人は
上機嫌に
 森の人に
 分けてもらったんだよ と
よくわからないことを言った

そのまま我々は
呑み続け
その人は
話し続けた

話の内容は
ほとんど憶えていない
でも
ひとつ
ふたつ
その人が
耳を揺らしながら
語ったことを記す

 境界付近で
 うろうろするのが僕の役割

 無用の無用は
 やっぱり無用

 










『耳の人』(BOOKLORE)
『歩きながらはじまること』(七月堂)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?