作品「大きな鯨」
大きな鯨
二年ほど前に使っていた
黄緑色の小さなノートが本棚から出てきた
月光荘のスケッチブックを流用したものだ
ぱらぱらめくっていると
何の脈絡もなく
茶色のペンで
ぽつんと
「大きな鯨」
という言葉が目に入った
確かに私の字であるが
なぜ書いたのか
全く
思い出せない
その後
ノートに眠っていた
大きな鯨は
心の中で息を吹き返し
ゆったりと回遊しながら
私を乗せ
どこかへ向かって泳ぎ始めた
『歩きながらはじまること』(七月堂)
『フタを開ける』(書肆山田)