作品「骨の声」


骨の声                


 十日ほど前から山道に白い骨が転がっていた。おそらく鹿の頭だろうと思いつつ、いつも素通りしていた。どこかで息絶えた鹿が野ざらしになり、よからぬケモノによって頭蓋骨だけがここまで運ばれてきたのだろう。

 その日はどうしたわけか骨が僕を待っていた。「おい君、最近ここをよく通るね。おいらを何とかしてくれないかな」と話しかけられた気がしたのだ。「そうだね。何とかしなきゃね」と答え、大きな石を使って墓穴を掘り始めた。変な話だが、ここまで生き残った骨は、丁重に葬った方がよい気がした。

 森の土は固く、一緒にいた犬はうれしそうに手伝ってくれるように見えた。でも、すぐに邪魔をしだした。そこで、駄犬を少し離れた場所で待機させることにした。

 リードを木に掛け、振り返ると、土の上で白く発光する塊が目に入った。陽を浴び、骨は涼しげに光っている。僕は、その清らかさにしばらく見とれてしまった。

 ああ、そうか。
 骨は、きれいなものなのだ。

 それから、おそるおそる近づき再び穴を掘り続けた。ある程度の深さで骨を埋め、軽く土をかけた。墓標として三角形の石を置いた。

 その後、骨の声はぴたりとやんだ。
















いいなと思ったら応援しよう!