作品「13 訪問」


13 訪問

耳の人の家を訪れた日のことは
よく憶えている

彼に書いてもらった地図は
まるで頼りにならなかった

森に近い
しんとした道で
きょろきょろしていると
 よく来たね
細道の奥から声が聞こえた
木々の向こうに
その人はいた

家に通じる小径は
緑のトンネル

梅や桃
ミズナラの木が
並んでいた

おだやかな木漏れ日が
土に揺れている

近寄って
 迷いましたよ
そう言うと
 ときどき、僕もね と
耳の人は微笑んだ

トンネルを抜けると
透明な光と風が
我々を包んだ
 いいところですね
思わずそんな言葉を洩らすと
その人は
 ここが
 僕の居場所
眼を細めてそう言った

いかるの美しい歌が
 こーひーいっぱいぷりーず
森に響いた










『耳の人』(BOOKLORE)
『歩きながらはじまること』(七月堂)


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