尾形亀之助詩集『カステーラのような明るい夜』のこと
2021年10月に、編集で携わった尾形亀之助詩集『カステーラのような明るい夜』(七月堂)が刊行されました。
尾形亀之助は、1900年に宮城県の裕福な家庭に生まれ、若い頃に東京で画家、雑誌編集者、詩人として活動していました。時代としては、大正から昭和初期にかけてのことです。亀之助が出版した詩集は、『色ガラスの街』、『雨になる朝』、『障子のある家』の3冊でした。最後の『障子のある家』は、私家版(手作り)70部だけ発行されたようです。亀之助は、まだ30歳という若さです。おそらく、画家をやめ、雑誌づくりをやめた亀之助は、詩集づくりもやめようとしたのかもしれません。
42歳で亀之助は亡くなりました。1942年のことです。ですから、第二次世界大戦のはじまりを亀之助は知っていました。生前のおそらく最後の作品「大キナ戦(1 蠅と角笛)」に、たいへん亀之助らしいすっとぼけた調子で自分と戦争を描いています。詩集づくりはとうの昔にやめた亀之助でしたが、詩人の魂はずっと維持しつづけていたことが分かる僕にとってはうれしい作品です。『カステーラのように明るい夜』でも、ここしかないというかんじでラストにもってきました。
「雨ニヌレタ黄色」も、どうしても収録したかった作品です。これも亀之助らしい最高傑作のひとつではないか、とおもっています。ちょうど80年前に発表された作品ですが、澄みきった美しさと幻想的な不安が混沌として、何度読んでも別世界に誘われます。ぜひ、読んでいただけたらとおもいます。
刊行から一ヶ月以上が経って、ようやく『カステーラのような明るい夜』を落ち着いて読むことができました。旧仮名遣いを新仮名遣いに変更したので、念入りに校正を重ねましたが、出版後も誤字、誤植の不安が大きくて、おちおち読むことができなかったのです。しかし、発売後、各方面から好意的な評をいただき、誤字脱字のご指摘もないことから、もう大丈夫だろう、とおもい読みはじめました。
なのに、ひとつ、「ありゃ、ありゃああ」というものを見つけてしまいました。
まつたく、なんといふことだらう!
もう、亀之助のイタズラとしかいいようのない出来事です。
本文に、間違いはありません。ところが、タイトルです。ある作品の言葉からそのままタイトルをいただいたつもりだったのですが・・・。ちょっと違っていましたね。よく読んでいただけたら、気づいていただけるとおもいます。
と、まあ、ひとりでおどろいたりしたのですが、亀之助の作品にかつて救われた僕としては、彼の詩集を編集することができて、とてもしあわせなのです。今後も、亀之助の作品が多くの人たちに読まれていくことを望んでいます。
この詩集の作製にあたって多くの方々にお世話になりました。装画の保光敏将さん、装幀のクラフト・エヴィング商會さん、校正の高松正樹さん、出版社七月堂のみなさんに感謝します。そして、担当の後藤聖子さんの忍耐強さと励ましがなければ、この「カステーラ」は焼き上がりませんでした。ありがとうございました。