【ショートショート】未来の感動ドッキリは感動しそうで感動しない
「まぁ悲しいけど、こんな長生きして、皆に囲まれて死んで幸せだったんやないか?」
「そうやなぁ」
「せやせや」
祖父の葬儀には親戚一同が集まり、遺影の写真はニッコリと笑っていた。
皆思い思いのことを言いながら、祖父との最後の時間を過ごした。
私はベテランのお笑い芸人である。
昨日、初七日も終え、仕事のリズムも取り戻してきている。
今日は私の地元でのイベントの営業がある。
ドーム会場を貸し切った技術市の中央のステージでのお笑いライブだ。
折角地元でやるので、親戚のところにも顔を出そうかと思っていたのだが、直前で祖父が亡くなったので意図せず親戚たちとも会うことになった。生まれ育った土地にも何度も戻ってくることになり、久々に街を眺めるとずいぶん変わったなぁと思う。
さて、今日のステージでは、よくある箱の中身を当ててリアクションを取る役目が任されている。私はこの道ウン十年のベテランなので慣れたものである。最近はバタバタして大変だったがいつも通りやれば大丈夫。平常心平常心。
「では、お願いします!」
司会の声に応じてステージの中央まで出てきた私は、勢いよく箱に手を突っ込み、「あ、何だこれは何だこれは!?」と叫ぶ。会場のウケも上々である。
「ん?人か?人が入っているぞ?え、誰?誰やこのおっさん!?」
「さて?正解は何でしょうか?」
司会に聞かれ、私は「知らんおっさんや!」と叫ぶ。
では、開けてみましょう!
そうして出てきたのは、よく見覚えのある顔だった。
「え?じいちゃん?」
会場が、ざわざわし始める。
「正解は誰でしたか?」
司会は問いかける。
「え?僕のじいちゃん?え?ええ?ナニコレ?え?」
パニックになりながら私は聞く。
「え、でも僕のじいちゃんつい最近亡くなって、、」
「ええ、ええ、そうですとも。素晴らしい!感動の再開です!これが当社の新技術です!髪の毛からデータを読み込み、人物を複製し、3Dプリンターで細胞を印刷しました!ここにいるのはあなたの、そう!じいちゃんです!」
「え?じいちゃん?うそだろ?でもどうなってんだ?」
「いえいえ、あなたが地元に戻ってきてイベントをやるのは街の人みんな知ってましたので、葬儀屋さんも喜んで協力してくれて、髪の毛を分けてくれました!サプライズです!」
「いや、そこじゃないんだよっ!!」
思わず突っ込んでしまう。芸人のさがだ。こんな真剣な場面なのに。
会場は、驚きの新技術で一気に湧き上がる。
そんな中ステージの真ん中で僕はじいちゃんと目と目を合わせて向かい合っていた。
「じいちゃん、、俺、じいちゃんにもっとありがとうって言いたくて」
「ええんやええんや」
喋り方もじいちゃんそのものだった。
感動のまま出番は終わり、舞台袖では仲間の芸人から「びっくりしたわぁ。よかったなぁ。」と言われた。
わけが分からないけど、これも一つのお笑いなのかもなと思った。
そして、じいちゃんを連れて家に戻ることになった。
じいちゃんはボケたふりをして嫁の入浴を覗き見るし、その後介護も始まってもう最悪だった。
おしまい。