「ウラナナ」(テレ東ドラマシナリオ)
〈あらすじ〉
誰もが〈スキ〉(インスタグラムのLIKEのようなもの)を送りあう世界に、適応しきれていないナナ。守るべき、本当に好きなものを見つけ、口頭で「すき」を伝える。(原案『月がきれいですね』)
〈登場人物〉
ナナ(20)
同級生1(20)
同級生2(20)
男1〜3(面接官、30〜40代)
女子店員(20代)
〈シナリオ〉
◯黒画面
SE:シャッター音
◯駅前のカフェ、昼
リクルートスーツのナナ、スマホの画面を確認し、嬉しそうに微笑んでいる。
テーブルにはパフェとコーヒー。
ナナ、通りに面したテーブル席にひとりで座っている。
同級生1「ナナ!」
ナナ、あわててスマホをふせる。
同級生1・2が手を振りながらやってくる。
同級生1「イェーイ」と言いつつ、写メを撮る。
3人そろってピース。
同級生1「(ナナに)いっつもここだね」
同級生2「(店やパフェを見て)でもここなんか地味じゃない?」
同級生1「でも意外と美味しいんだよね……地味だけど」
同級生1、3人の写真をSNSにアップする。
その写真にたちまち〈スキ〉(インスタグラムのLIKEのようなもの)が届く。
同級生2もスマホを操作している。
同級生2「地味といえば、カホ、アキラくんと付き合ってるの?」
同級生1「“地味といえば”ってひどくない?(笑) いや、付き合ってるといえば、付き合ってるし」
同級生2「えっ、コクられたの?」
同級生1「えー、いまどきないでしょ」
同級生2「ハハ、だよね。あ、でも本当にすきなの?」
同級生1「ん?そうでもない。〈スキ〉を送りあってたら、ノリでそんな感じになっちゃった」
同級生2「あーわかる。ちょうどいいっていうの? そういう人いると何かといいよね」
ナナ、同級生1・2の話に曖昧にうなずいている。
女子店員「お待たせしました」
店員、同級生1・2のまえにそれぞれのパフェを置く。その瞬間、
同級生2「ちょっと…!」
女子店員「……失礼しました」
同級生1「あーあ、映え台無し」
同級生2のパフェ、テーブルに置かれたときに、形が崩れている。
ナナ 「あっ、でも美味しいよ、これ……」
同級生1・2、一口食べ、しぶしぶ納得。
女子店員「……(一礼して下がっていく)」
ナナ 「あ、私、そろそろ行かないと(と立ち上がる)」
同級生1「あ……」
ナナ 「え?」
同級生1「……〈スキ〉よろしくね」
ナナ 「あっ……」
同級生1「さっきの」
ナナ 「あ、うん」
同級生1「私も送ってるし」
ナナ 「ごめんごめん。すぐ送るね」
ナナ、逃げるように去る。
◯街、同
バスに乗っているナナ、スマホを取り出し、同級生1が撮った3人そろってピースした写真に〈スキ〉を送る。
ナナ、バスを降り、急ぎ足で歩く。
街中の人たちのスマホから〈スキ〉の吹き出しが(ARのように)次々に飛び出していく。
◯ビルの一室、午後
中年の男1〜3、並んで座っている。
その向かいにはナナが座っている。
男1 「えーと、香川ナナさん」
男1、PC画面を操作している。
ナナ 「はいっ」
男1 「あなたみたいな人が来てくれるとうちも助かるんだけど……」
ナナ 「はいっ」
男1 「うちの会社のこと、本当はどう思ってるのかな?」
ナナ 「……えっ?」
男1 「送ってくれてないでしょ、〈スキ〉」
男1、PC画面をナナの方に示す。
男1 「ちゃんと分かるんだから」
ナナ 「……(驚き、困惑する)」
男1 「いまどきどうなのかなあ」
PC画面には、その会社のHPが表示されている。
◯ナナの部屋、夜
ナナ、リクルートスーツのまま、ベッドに横たわる。
スマホを開き、ツイッターにアクセスし、
アカウント@urananaを開く。
ナナ、「また落ちたかも。。」と投稿。
ナナ、続けて「〈スキ〉ってそんなに大切かな」と入力する。
が、投稿はせず、テキストを削除する。
ナナ 「はあ……(ため息)」
ナナ、ふとSNSの駅前のカフェのサイトにアクセスする。
視線が〈スキ〉の入力箇所に吸い込まれていく。
◯駅前のカフェ、翌昼
ナナ、入店する。
と、騒ぐ声が飛び込んでくる。
同級生1「ありえないでしょ!(笑)」
同級生2「キモいよ…!(笑)」
同級生1と2、テーブル席で笑っている。
ナナ、近づく。
同級生1「あ、ナナ、ねえ見てこれ」
ナナ、同級生1のスマホを覗き込む。
何者かのSNSに店内や店外で女子店員が隠し撮りされている写真が大量にアップされている。
同級生1「たまたま見つけちゃったんだけど(笑)」
同級生2「どこの非モテ男子だよ?っつーの(笑)」
同級生1「全然〈スキ〉されてないし(笑)」
ナナ、青ざめる。
女子店員「(ナナに)いらっしゃいませ」
同級生1「あ、店員さーん、知ってます、これ?(笑)」
同級生2「盗撮だと思うんですけど(笑)」
同級生1「(小声で)物好きー」
同級生1、女子店員にスマホを見せようとする。
ナナ、思わず、それを叩き落とす。
同級生1「えっ?」
同級生2「ちょっと!」
ナナ、棒立ち。
女子店員、おもむろにスマホを拾い、画面を見る。
女子店員、ナナを見る。
ナナ 「……すきです」
同級生1・2、固まる。
女子店員「知ってました」と微笑む。
(終)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?