WHITESTに
ジャグリングカンパニー頭と口の、第二回目にしてペア作品第一号 WHITESTが2016年11月5日、6日に催される。そして彼らはこのあと、フランスに行ってしまうので日本で目撃できる貴重な機会でもある。
この公演に期待するものを、ちょっとカッコつけた文章で書いてみた。正直に言うと、きっと、僕は、置いてきぼりにされることを望んでいるのかもしれない。
魚が飛び立つとき
荘子が言うには北の海にはコンという巨大な魚がいて北極全部を覆うような大きさだそうだ。これが長い年月を経てホウという巨大な鳥に変身して、飛び立とうとすれば大嵐のごとく全てを吹き飛ばしながら南極を超え宇宙の果ての我々の見知らぬところまで飛び去っていく。
セミと小鳥はこれを見て、なんて大げさなと陰口を言いながらも普段いる木々を忙しく飛び回るだけで近所から出ようともしないのである。
十代にして天才ジャグリング少年だった山村佑理は、難しい技をこなすそのいっぽうでボールを落としてしまうことも多かった。
これには理由がある。
彼にはジャグリングの技術を欲する気持ちがあったのではなく、彼の内にある何かをジャグリングを通じて描き出したいという表現への渇望だけがあったのだ。彼の理想はつねにもっと高い。ジャグリングの上達につれ、それに増して逃げていく表現というものをずっと追いかけ続けていたから、技術はすでに達人のレベルであっても、さらに超えたものを、彼は彼自身に要求され続けてきたのだ。
ここ数年の世界トップのサーカス学校での修練と、頭と口の出会いと経験は、肉体も精神も卓越した翼の生えた山村を作り出した。いま大きく風を押し込み離陸しようという彼は様々なものを吹き飛ばしきっと宇宙の果てに向けて、二羽で飛び立っていくのに違いない。
そしてぼくら地上の雀たちはそれをぽかんと、ただぽかんとしたままで見送るのだ。
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頭と口 : 渡邉尚、山村佑理の二人のジャグリングカンパニー。身体性、モノ、そして床を含めた空間との関係の再構築をしている。http://atamatokuchi.com/
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