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フィアース5

 2023/10/27金曜に世田谷パプリックシアターでフィアース5の公演をみた。フランスで作られた作品を2年まえに日本のキャストで公演し、その再演だった。

 とてもよかった。

 いわゆるヌーボーシルクであり、5人のフィジカルパフォーマーの演目を連続する幕間で繋ぎ1時間半の一本の作品としたものだ。サーカスとしての演目は、タイトロープ、ジャグリング、ダンス、エアリアルフープ、エアリアルストラップ、スパイダー。それぞれレベルの高い曲芸が全体の作品に切れ目なく自然と組み込まれていた。

 金曜は3日公演の初日で監督ラファエル・ボワテルとキャストによるアフタートークが30分あって、解題としてビラ等にもある七転び八起きと、精一杯もがくこととと、あらゆるものを超えた結びつきについて語られた。たしかにそれらがはっきりと示された舞台だった。

 枠物語はいわゆるバックステージもので、5人のパフォーマーひとりひとりが限界に挑戦する苦悩とそれを陰日向に支える仲間たちがわかりやすく描かれ、ラストは晴れ晴れとした表情で本番の衣装をつけ初演に立ち向かって並ぶ5人で終わる。もう、そこまでしなくてもいいんだよ、という声も聞き入れず限界まで頑張る5人の様子は本当に胸に迫るものがある表現だった。ぼくらの生きる世界のままならなさがそのまま形にされているようだった。

 監督は国際的もしくは日本らしさを出そうとした、と語っていたけれど、そこに描かれた群像はフランス的であるか、少なくとも日本の風景ではなかったように思う。5人それぞれの関係の強さと各個人の強さ独立性が際立っているところは、日本人のメンタルとしてはこんなに個人が強くないし、他者への干渉もこんなに強くない。5人のうちのある2人の関係ならばありえなくもないけれど5人全員が強いというのはなかなか見られるものではない。なにより上司師匠の類が出てこずフラットかつ協調的な組織であることに日本でなさを感じてしまった。もちろん、このストーリにはそんな日本らしさが必要なわけではないからなんの問題もない。だけど、個人が強さをもつヨーロッパっぽさを感じざるを得なかった。(それでいい)

 演出はきわめて美しく、絵画的である。どの一瞬をとっても美しい一枚の絵が成立する。ヌーボーシルクらしい特徴ともいえる。そのために5人と2人の出演者は舞台を精密に移動し、ポジションをとり、動きまくる。ライトを動かし、点滅し、ストーリーを追いかける。音楽と声すらも絵画の一部となりそうだ。

 ライト、ホコリ、ワイヤーの3つが冒頭で提示されずっと通底する。オープニングは客席に向いていた舞台きわ中央のライトボックスを舞台側に向けるところから始まる。舞台スタッフの格好のクラウンが箱を回し、いつまでも取れないほこりを払う。このほこりが実は重要なモチーフの一つだ。ラストでは大々的にほこりが舞う。

 目黒陽介とこの舞台との関係には運命的な深さを感じた。ひとことでいえば、ながめくらしつで彼がやりたかったこと、やっていたことの多くが実現していたように感じる。日本でのヌーボーシルクとくにジャグリングをふくむ一座ながめくらしつの座長である彼がオーディションからクリエーションを経て参加した理由が分かった気がした。ながめくらしつの特徴は、絵画的でありどの一瞬を取っても絵になり、意欲的なライティングにこだわり、エアリアルや体力的にハードなパフォーマンスで限界への挑戦を描き、人の関係を描き、そして空へと登っていく。スパイダーで空中に上がっていきワイヤーの上を歩く様子は、ながめくらしつ「心を置いて飛んでゆく」のラストと重なって見えてしまった。スパイダーはまた降りてくるのだけれど。

 その目黒は1ボールのジャグリングと5ボールの消耗し尽くすジャグリング、そして人をジャグリングしていた。人のジャグリングはダンスなのかジャグリングなのか演技なのか遊びなのかその境界の面白さがあった。

 圧倒的な演出の完成度、アーティストのレベルの高さ、大規模な吊りセット。

とてもいいものを見た。

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