
神が来たりて
昔、知人の結婚式で、主役ふたりのなれそめを、妄想だけで脚本化・上演するというクレイジーな余興を見たことがある。
いま、THE PRESENTSのマネージャー・カムキさんについて書こうとして、まるでそれと同じと思う。
最初にお話ししたのが電話だったものだから、まずお顔がわからない。それではまた明日と言い合ってすぐ、お名前で検索する。あった。小さな丸にくり抜かれた写真の中にいる、口をすぼめた男のひとがそうなのだろう。しかしおどけた表情だから、道ですれ違ってもわかるかどうか。
後日、写真は別人と知ってたまげた。大阪ライブの前日、宿泊先やスタジオでの映像を見て、この男のひとはどなたかしら、第六の人物あらわるだわねと思っていた自分が恥ずかしいが、これはカムキさんが悪い。
そもそもなんの疑いもなく、カムキは神来と書くと思っていた。きっと、いかめしい字面だから印象を和らげるために片仮名にした。沖縄の出身で、ご先祖様はユタ。さすが坂爪さん、風変わりなお知り合いばかりいらっしゃる。なぜそこまでストーリーを作り上げてしまったのか、さっぱり覚えていない。ほんとうはどちらが故郷なのかも、そういえばまだ聞いていない。
本物のカムキさんは、嘉向さん。お名前は、徹さん。
マネージャーでなく、MG(えむじー)と呼ばれるのを好まれる。
THE PRESENTSのバンド活動を通して、ご自身のファンの獲得をも目指す明朗快活、かつ貪欲なひとだ。
しかしながらお話をしたのは3度。内、お目にかかったのはたったの1度。
多分に妄想が含まれるであろうこと、ご容赦ください。
第一声は明るく、そして誠実さがにじみ出ていてどきりとした。思い描いていたよりは、ややお若い。年齢の割にしっかりしているひとは、いい意味で不思議な色気を持っている。背すじが伸びた。
自己紹介からはじまって、いろいろなことをとりとめなく話す。AGAPEという、THE PRESENTSの前身となったバンドのこと、今の生活のこと、バンドメンバーのこと。「これは小咄なんですが」という枕で、カムキさんはいくつか「僕が話したいこと」を教えてくださった。去年、ライブが終わって駐車場から車を引き揚げようとして、お金がなくてたいそう困った。佐渡島におうちを持っていらっしゃる。いいなと思ったのは、お昼ごはんの話だ。
今は車を出すことと、お昼ごはんを用意することくらいしか、マネージャーらしい仕事はしていない。しかし自分には、メニューを選ぶ才能があるのだとカムキさんは楽しそうに仰った。たしか、サーモンのサンドイッチと鮪丼という組み合わせが最高すぎて、自分でも震えたというようなお話だった。いわく、坂爪さんとゆーほさんは一度にあまりたくさん食べないが、GiさんとRyuさんは正反対だから選択が非常に難しい。その点、サンドイッチは取っておけるし、何よりそのふたつは、いっぺんに食べても、別々に食べても、ものすごく美味しかった。
これを聞いて、このひとは大丈夫と思った。
美味しいものを求める力のあるひとは、まず生きていく力がある。次に、美味しいものを探すことを喜びにできるのは、誰かのサポートをするという立場においては大きな、ほんとうに大きな強みになる。どちらも苦手なので、うらやましい。
その後、noteを読んでお米を作られていることを知った。ますます素敵だ。ゆくゆくは、坂爪さんのシェアハウスの裏庭で畑でもすればいいのにと思う。
忘れられない話は、もうひとつ。
結果的にAGAPEの最後のライブとなったその日のことを思い返すと、心残りがある。お客さんは、会場に到着してからそこを出るまで全部をライブとして楽しんでほしい。でも、そこまで気を配ることができなかった。だからTHE PRESENTSでは、演者ではなくマネージャーに手を挙げた。
素晴らしい、以外の言葉が出ない。
誰かに楽しんでもらうために、小さな工夫をこらすこと。それをしたいと思うこと。せずにはいられないこと。肝要なのは一番最後で、たぶん、カムキさんに眠る裏方の才能が、彼をMGに据える流れを作った。
天性とは、ある意味において非情なものだ。歌うのも大好きだという彼は、今、表舞台から退いている。両方選ぶという場は用意されなかった。少なくとも、今は。
だからこそ、この先を見たいと思う。流れをさからうことなく受け入れた潔いカムキさんが進む道に何があるのか、ご自身はいま何を見ているのかを知りたいと思う。
根っからの裏方気質を持つカムキさんに、けれど道化の仮面を見ることがある。むろん、嘘をついていると言いたいのではない。トランプならば、ジョーカー。安定した場をかき回す異分子、と書くとお人柄からさらに離れる。都合3度の邂逅で、カムキさんはいつでも優しく相手とその場を気遣っていらした。でもなぜかしら、その奥にちろりと揺らめく炎が見える。
イメージに近いのは、『風の谷のナウシカ』の原作コミックス版に出てくる、トルメキア国王に付き従う道化だ。物語のクライマックスで、彼は憑坐(よりまし)としてある重要な役割を果たす。周縁に生きる者だからこそ、境界を越える道具になり得て、さらに、彼なくしては物語は先に進むことができない。ああだから、たぶん、カムキさんがこちら側に来たのにも、そういう意味が隠されている。
人当たりの良さだけでは、足りない。
気遣いができる、だけでは足りない。
柔和な笑顔の下に、実は強烈な反骨心を秘めている。
そして、いざとなれば天の啓示に迷いなく身を委ねることができる。
それら全部がMGとしての天賦の才なのだろう。
今日で2020年が終わる。新しい年は、THE PRESENTSにとってきっと勝負の1年になる。
大晦日は、歳神さまがよっこらしょと腰を上げる日。われらがバンドのMGは、南進中と聞いた。千年の都で仕事を納めて、よっこらしょ。今頃はどこの空の下にいることやら。昨夜は同じ月を見ていたのだろうか。
話したいことがたくさんある。と書くと何だかロマンチックな感じがするが、ならべるとコロナと助成金とメールマガジンの話で、全然ちっとも素敵じゃない。でも大丈夫、穏和なカムキさんはきっと全部受け止めてくださる。
道化としての才はなく、美味しいものにも興味が薄い。
どうしようもない子分だけれど、付いていかせていただきたい。
というわけでカムキさん、落ち着いたら連絡をください。
マレビトの来訪、首を長くしてお待ちしております。