金色の狼煙
明るい色合いのマスクをつけた男性のお名前は、残念ながら聞き取れなかった。とても楽しみにしていたアフリカンダンスは、座して次の機会を待ちたい。時勢を鑑みての英断と思う。それまでは安全な公園の片隅で、ぜひ頑是ない子供たちを存分に怯えさせてほしい。
舞台上の演奏者がスマホを取り出し、しまうという光景が自然で、隔世の感があった。照明が落ち、開演。
柔らかなギターから一転、腹に響く低音が心地よい「bridge」。初めて聴いたときは驚いた。見た目の線の細さから想像していた声質とはかけ離れた、男っぽいシャウトに心の真ん中をわし掴みされた女性は少なくないのではないかと思う。これを歌うのが坂爪さんであれば、おそらくここまでの意外性はない。ゆーほさんの細さと、坂爪さんの細さは性質が違う。たとえるならば、風に吹かれる柳と鍛えられた刀身だろうか。前者にはしぶとい生命力の、後者には意志の強さがある。どちらも強く、儚い。個々の好みはあることと思うが、ゆーほさんの声で聴き続けたい曲と思う。
全く関係ないが、ゆーほさんのnoteにスキをつけたときに返されるコメントが端正なので、わし掴みにされた方は是非ご自身の目で確認してほしい。また掴まれます。
今回の会場の天井は低めだ。全体に等身大の演奏者を堪能できるサイズだが、高さのあるハコで上からまっすぐ落ちる光に照らされる彼らも見てみたい、と思う。
抜けるような初夏の青空を連想させる「Because I Love You」。これと「ハイリスク・ノーリターン」のRyuさんのドラムが好きだ。メンバーの中で一番お若いというRyuさんの若さゆえのエネルギーが、今この時の演奏に一番マッチしているのではないか、と思う。楽しそうな無敵感に、聴いていて単純に嬉しくなる。年齢を重ねて気づく無邪気さでは到底太刀打ちできない天然の自由が、ある。
ここで曲調が変わり、「SARAH」「ジュリー」とスローテンポな2曲が続く。にこにこと楽しそうに揺れる坂爪さんが印象的だ。
つまらなさそうにライブをするミュージシャンも珍しいかもしれないが、今日のメンバーは全員が同じ温度の楽しさの中にいるように見えた。激しく歌うときも、穏やかに奏でるときも、根底は揺るぎなくリラックスしている。武道館に降臨する、だから今日も降臨する。否、既にしている。その言葉の実現が、この姿かと思う。
この日の衣装は、坂爪さんが白Tシャツに黒ジーンズ、ゆーほさんは上下ともに暗い色で詳細は不明。Giさんは文字の書いてある白Tシャツ(読めず)とブルージーンズ、Ryuさんは明るい紫色のTシャツ。一人だけ彩度の高いRyuさんが愛らしい。ゆーほさんは、リハーサル映像でのちょんまげ姿にもしやそのまま舞台に立たれるのかとはらはらしていたが、無論そんなことはなく、ひそかに安心する。GiさんのTシャツには「白隠」の二文字が見えた気がするが、おそらく錯覚だろう。坂爪さんのブーツの上のほうが大きく開いており、躓かないか、やっぱりはらはらする。
また曲調が、そしてボーカルが変わる。Giさんはこの日最も、わかりやすくふざけているシーンの多い方だった気がするが、他の誰にもない安定感が素晴らしい。観客を煽っていてさえ、どっしりと地に足が着いている。ベースを担うのにふさわしいお人柄と思う。
Giさんの声は当然だけれど、坂爪さんともゆーほさんとも違う。性質の違う激しさは歌詞に、声に現れる。生々しい肉と骨が目の前で臭うような詩。朗読を聞いてみたいと思わせる、世界観に引きずられない強さを持つ声。「零」「再見〜Re-member〜」共、ゆーほさんの「bridge」と同じくGiさんに歌い続けていただきたい曲と思う。
ここで、それまで寝ていた猫がむくりと起き上がると、懸命に何かを訴えだした。まるでGiさんに対抗するかのような、切羽詰まった声音がおかしい。少し撫でてなだめ、パソコンの前に戻る。
坂爪さんはバンドのほとんどの曲の詞を書いておられるから、多くの曲で坂爪さんを想起するのは仕方ない。けれどこの日は、『「I」』「I love what you love」「あふれちゃん」の一連の流れが坂爪さんで、これらこそが彼の曲だ、という気が強くした。2020年11月29日の坂爪さんの切実さが、この歌だったということだろうか。それとも今日この日のこの場を、武道館に行く、誰も置いていかないという彼の決意が音楽という形で世に示された最初の日だと、勝手に捉えたこの目がそう見せただけだろうか。
No one leaves behind inside of me
No one leaves behind inside of you
No one leaves behind inside of us
Take everyone, inside of me, of you, of us
―「I love what you love」 詞曲 Keigo Sakatsume
祈るような坂爪さんの姿にしんみりする間もなく「ハイリスク・ノーリターン」。男の人ばかりの集団は、こういう楽しさを持てるのがとても羨ましい。悪餓鬼どもが(それなりに悪質な)いたずらを思いついてエネルギーを爆発させた瞬間のような、歌。さすが、カエルとカタツムリ、子犬のしっぽからできている生き物だ。女子のはしくれとしては、参謀として手を汚さない立ち位置で参加してみたいと思わせられる。
また、これもライブの話題から外れてしまうが、切り立った崖から海に飛び込むMVも最高の爽快感を連れてきてくれる。Youtubeに上がっているので、興味の湧いた方はぜひ。
気持ちが上がりきったところで最後の曲、「黄金のままでいられるか」。Ryuさんのドラムのキレが、この日で一番だったように感じた。歌にも音にもブレがない、つまり、個性豊かでいっけん共通点のなさそうな彼らの、コアはしっかり同じところにいたと、捉えていいのではないだろうか。音楽のことは門外漢だけれど、それは集団としてひとつの理想的な状態と思う。
黄金のままでいられるか 黄金のままでいられるか
黄金のままでいられるか 君を見つけられないから
誰も聞いたことない 声を 声を 声を 聴かせて
誰も聞いたことない 声を 声を 声を 聴かせて
―「黄金のままでいられるか」 詞曲 Keigo Sakatsume
武道館に降臨する。
その決意を天に向かって報せるようなステージだったと思う。
そして彼らは問いかける。俺たちはこうだ。では、見ているおまえはどうだ。けっして恫喝ではなく、かといって優しく尋ねるでもなく。
そこでにやりと笑って、親指を立てる。
残念だったな。おまえももう、こちら側だ、と。
■ライブ情報
THE PRESENTS 「大阪降臨」
2020/11/29(日) 14:30~ @大阪・心斎橋 5th street
THE PRESENTS
guitar,vo : Sakatsume Keigo
bass,vo : Hoshina Ryota(Gi)
drums,cho : Toita Ryusuke
guitar,fuzz : Kumagai Masakuni(ufo)
MG : Kamuki Toru
photo : Mori Mitsuharu
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