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【240/252】あおむしくん

仕事場に若者が合流した。
どうやらひと回り以上年下らしく、おののく。子どもの頃のビッグニュースといえば、地下鉄サリン事件と阪神淡路大震災だけれど、なんとその頃、生まれていない。つい、まじまじと見てしまう。
世代が違えば、常識はきっとぜんぜん違う。けれど、何でも素直に聞き入れ、気持ちの良い返事をしてくれる。けっして愛想がいいわけではないので、ますますその良さがきわだつ。おばちゃんは、いい子だいい子だと目尻を下げるばかり。
ちなみに絵描きの友だちに、少しだけ彼にまつわるエピソードを話したら、ふだんあんまりそういうことを言わない彼女が、
……なんだそいつは。年上キラーか。
憮然としていて、笑ってしまった。
おそらくご本人に自覚はない。それで年上に可愛がられるのは、よいことと思う。
若ければ経験が少ないのは、あたりまえ。足りないものを補うには、ひとに助けてもらうのがやはり強力で、手を延べられやすいたちというのは、それだけで武器と思う。
願わくばご自身のそれに気づいて、したたかにこちらを利用してくれるとよいのだけど。ひと回り以上年上の人間どもをたばねる立場として、思う。そうして、彼の上司でなくてよかった、とも思う。
何かしてあげたくなる気持ちは、危険だと知っている。よくあれ、幸あれと祈る相手ほど、踏み込みすぎるのはよろしくない。
彼と同じくらいの年の頃、出会った大人はみんないいひとだった。みんないいひとで、思慮が足りなかったと今は思う。成長を願うということに関して、そして、自他の境を分かつということに関して。
どうも、自分がしてもらえなかったことをしてあげたくなってしまう。いかんいかんと、かぶりを振る。若者はきょとんとしている。

若者はまた、魔法の手を持っている。
ぱたたたたとキーを操り、できましたと見せてくれる。ボタンを押せば、集計したデータが一瞬でグラフになる。マクロとVBAの違いもよくわからないおばちゃんは、すごいとすばらしいとありがとうを日によって使い分けている。そろそろループに気づかれる頃あいと思う。
七夕の日に、困っていることを書きだして渡した。たった二週間で、大半の困ったを解決してしまった。天の川に祈るより話が早い。織姫と彦星は、やることなくなっちゃったと眉をハの字に下げている。
物静かに、けれど勢いよく進むさまを眺めていると、エリック・カールのはらぺこあおむしを思い出す。健康な食欲、貪欲な成長。最後は美しい蝶になるんだな。
変わりたいと思いながら、なかなか変われない。昨日と同じく今日にするよう、無意識になぞってしまう。そんな中年の怠惰を、気持ちよく打ち破ってくれる。若い人がいるといいねえとつぶやくおじいさん、おばあさんの気持ちがはじめて腑に落ちる。
おばちゃんも、もすこし頑張るよ。ありがとう、あおむしくん。


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