
黄金風景
霰(あられ)はすぐにみぞれになり、雨に変わってやんだ。厚い雲の切れ間から差した薄い日差しが、縁側にいるひとの髪に反射する。
最初に弦を揺らしたのは、小暗い和室の奥にいるひとのほう。
柔らかな音がこぼれる。ひとつひとつのおたまじゃくしは、やがて群れをなして空間をいっぱいに満たす。あくまでひそやかに、けれどあたたかなよろこびは隠しようもない。
今、ここにいることが嬉しくて仕方ない。おたまじゃくしたちの気配は、揃ってにこにこと笑っている。
奏でているひとは、きっとそんな作為をこめていない。
縁側のひとは、水面にそっと手を差し入れるような仕草でそれに応えた。
言葉はない。
音が重なる。広がる。
追う。追われる。追い抜かす。立ち止まる。
言葉はない。
流れる。
けっしてとどめることのできない、今このときという瞬間。
赤々と燃えるストーブ。
しゅんしゅんと湯気を立てるやかん。
最後の一音が長く尾を引いて消える。
顔を上げた坂爪さんが笑った。