エッセイ:息子に読んだ絵本の一文にあの日心を突き動かされた
久しぶりの投稿です!
絵本テキストや童話、エッセイを書いている、にしの桃子です。
六月中旬だと言うのに、外の暑いこと、暑いこと。
今日は息子たちと行った公園で、思わず木陰を探してしまいました。
お友達とはしゃぎまわる長男を安全地帯から眺めながら、ふと思い出したことがありました。
それは、私が絵本のテキストを書きたいと思ったきっかけ。
文:竹下文子さん、絵:鈴木まもるさんの、
「ざっくん!ショベルカー」(偕成社)という絵本に登場する、ある一文のことでした。
え? 乗り物の絵本……? と思うことなかれ。
私はこの絵本に、竹下文子さんのテキスト作家としての心意気を(勝手に)感じたのです。
この絵本を初めて長男に読んだのは、長男がまだ三歳のころ。
絵本に登場するショベルカーが、公園に木を植えるお仕事をする場面があります。
ざっくん、ざっくんと、ショベルカーがまずは穴を掘ります。
乗り物好きの子には、たまらないシーンでしょう。
長男も、もれなく食い入るように眺めていました。
開いた穴に、植木屋さんが木を植えていきます。
無事に植樹の完了です。
そこで、竹下文子さんの名文。
「なつには すずしい こかげになるでしょう。」
……しびれました。
この一文に、絵本として読み聞かせる価値がある。
ただ、重機の役割や、植樹の流れを伝えるだけではない。
「うさぎさんと くまさんは なかなおりしました」
「はんぶんこすると うれしいね」
そんな、子どもでも分かりきったような切り口じゃない。
何気ない文章に落とし込む、情操教育としての、絵本の文章を書く尊さ。
当時、絵本の文章なんてひとつも書いたことのない私でも、ひしひしと感じたのです。
あのときの衝撃と感動は、今でも忘れられません✨
(この一文に同じく感動されていた方が居たら、世界中どこまででも会いに行きたい……居るのかな?)
竹下文子さんの文章は、子どもに読み聞かせていて、スルスルと唇から流れていきます。
気持ちがいいくらい、引っ掛かりのない、まるで濁流の中で磨かれて、丸くなりきった石のような文章。
やわらかいフォルムなのに、きちんと伝えたい芯がある。
大好きな作家さんで、憧れている作家さんです。
竹下文子さんも、「え? この一文、そんなに良かった……?」と、もしかしたらびっくりされるかもしれません。
他にももっと、分かりやすく、いい文章書いているよ〜!と。
それでも私は、今は五歳になった長男に、心を込めてこの一文を読むのです。
誰かが公園にこの木を植えてくれたから、六月の真夏日でも、君たちの笑顔を見守っていられるんだよ。
そんな口には出さない想いを、感じ取ってくれる子に、息子たちがいつか育つといいなと願いを込めて。