見出し画像

「マーチンのブレイシングを深掘りする話」「エム・シオザキのオリジナルブレイシングの話」

 「終活ギター アコギ庵」「アコギ弾き比べサロン アコギ庵」です。
 アコギ一筋54年。アコギの終活をやろうというオッサンが、《何かアコギ好きのためにできることはないか?》というところからスタートしました。アコギ好きのための”Support and Assist”を目標に、何かしらお役にたてることがあればいいなと思っています。
 そうそう簡単に弾くことができないと思われるギターも、何本か用意しています。初心者の方用、中級者用のギターもあります。とにかく来て弾いていただいて、そこから何かが始まることを期待しております。アコギ好きの皆様とお話しすることを楽しみに、お待ちしております。

「マーチンのブレイシングを深掘りする話」
 前回の記事「マーチンのブレイシング」の続編になります。
 フォワードシフテッド・ブレイシング(Forward-shifted bracing)リアシフテッド・ブレイシング(Rear-shifted bracing) は、アコースティックギターのトップ(表板)内でのブレイシングの配置の違いを指します。これらの設計は、ギターの音響特性や演奏感に大きな影響を与えるため、製作上非常に重要です。特に、どのようにトップ板が振動するかを決定づける要素として、フォワードシフトとリアシフトの違いが音に与える影響は顕著です。

前回の記事でも使わせてもらった写真です。Xの位置が違うことがよくわかります。

1. フォワードシフテッド・ブレイシング(Forward-shifted bracing)
フォワードシフテッド・ブレイシングは、ブレイシングのX字型交差点(Xブレイシング)を、ギターのネック側、つまりギターのボディの前方にシフトさせた設計です。この配置では、Xブレイシングの交点が通常の位置よりもネック寄りになります。
特徴:

  • Xブレイシングのシフト: Xブレイシングの交点が、通常の中央の位置から前方にずれ、ネック側に近くなります。

  • トップ板の振動範囲の変更: これにより、トップ板の前方部分(サウンドホール付近)の振動が強調されます。サウンドホールに近い部分がより自由に振動し、音のレスポンスが敏感になります。

音響特性:

  • 明瞭でダイナミックな高音域: フォワードシフテッド・ブレイシングは、高音域を強調する傾向があります。サウンドホール付近のトップ板の振動が活発になるため、クリアで鋭い高音が得られます。

  • 豊かな低音: 音の低音から高音にかけてのバランスが改善され、特に低音の響きが深く、力強くなります。これにより、全体的にバランスが良く、広がりのある音が得られます。

  • レスポンスの向上: 弦を弾いたときの反応が鋭くなり、特にピッキングアタックに対して素早く反応します。演奏者のタッチが音に反映されやすくなります。

使用される場面:

  • ライブパフォーマンススタジオ録音で、高音のクリアさと豊かな低音を重視したい場合に好まれることが多いです。特に、ドレッドノートやグランドオーディトリアムサイズのギターでよく見られます。


2. リアシフテッド・ブレイシング(Rear-shifted bracing)
リアシフテッド・ブレイシングは、ブレイシングのX字型交差点をギターのボディ後方にシフトさせた設計です。この配置では、Xブレイシングの交点が、通常の位置よりもサウンドホールから遠く、ボディの後ろ側に近い位置になります。
特徴:

  • Xブレイシングのシフト: Xブレイシングの交点が、ボディ後部にシフトします。これにより、トップ板の後方部分(ブリッジ周辺)がより多く振動し、音響特性が変化します。

  • トップ板の振動範囲の変更: 後方の部分がより自由に振動するため、サウンドホールの近くの振動が抑えられ、音のキャラクターが異なります。

音響特性:

  • 豊かな低音と深み: リアシフテッド・ブレイシングは、低音の深みを強調する傾向があります。特にブリッジ周辺の振動が強くなるため、全体的に音が深く、重厚な印象を与えます。

  • 少し暗めの音色: 高音域がやや控えめになり、全体的に温かみのある音質になります。フォワードシフトと比べて、音が丸みを帯びた柔らかい印象になります。

  • 音のサステイン: リアシフトは、サステイン(音の持続)を強調することがあり、弦の振動が長く続くため、持続的で安定した音が得られます。

使用される場面:

  • フォークやブルースなど、柔らかいトーンや温かみのある音が求められる演奏スタイルに適しています。また、小型ギター(例えば、OMやOOサイズ)で、低音の深さと持続感を重視する場合に多く見られます。


3. フォワードシフト vs リアシフトの違い
特徴
フォワードシフテッド・ブレイシング
リアシフテッド・ブレイシング

ブレイシング交点の位置
ネック寄りにシフト(サウンドホール側)
ボディ後方寄りにシフト(ブリッジ側)

高音の特徴
より明瞭で鋭い高音
控えめで温かみのある高音

低音の特徴
力強いがバランス良い低音
より深みがあり、重厚な低音

音の全体的なキャラクター
明るく、アタック感が強調されたサウンド
深みがあり、温かみのあるサウンド

演奏性
ピッキングの反応が鋭く、ダイナミックな表現がしやすい
サステインが長く、落ち着いた表現がしやすい

4. どちらを選ぶべきか?

  • フォワードシフテッド・ブレイシングは、より「明るく、クリアな音」と「ダイナミックなアタック」を求める場合に適しています。特にライブパフォーマンスや、力強いアタックが重要なジャンル(ロック、カントリーなど)に向いています。

  • リアシフテッド・ブレイシングは、音の「深さ」や「温かみ」を重視し、持続的で深い低音を求める場合に適しています。特にブルースやアコースティックなソロ演奏、心地よい響きを大切にする場合に向いています。

「エム・シオザキのオリジナルブレイシングの話」
 ヴィンテージギターの世界では、オリジナルの状態がどれだけ保たれているのか?が最も大きな価値の基準になっています。ヴィンテージとしての価値は高くても、リペアやパーツの交換があれば価格的には下がってしまいます。残念ながらアコギとエレキのヴィンテージの世界は、そう言う価値観が出来上がってしまっています。個人的にはギターは弾くものと考えていますので、どれだけオリジナルの状態が残っていようが弾きにくければ何の魅力もありません。ましてや価格が高いとなれば(とんでもなく高いです!)、なおさら買って使おうという気にはなれません。(いつものボヤキです。)

 前置きはこれぐらいにして、本題に入ります。ブレイシングを中心に考えると、アコースティックギターのヴィンテージで最も価値があるとされているのはスキャロップドブレイシングの時代のギターといっても過言ではありません。時期的に見ても、古い時代のものという事実があります。(マーチンでは1944年ぐらいまで、ギブソンでは1955年ぐらいまで)その中でも筆頭といえるのが、マーチンのフォワードシフトとリアシフトでしょう。そのことを踏まえて、塩﨑さんのオリジナルブレイシングを考察して行こうと思います。

 塩﨑さんのオリジナルプレイシングは、Xの位置がフォワードシフテッドとリアシフテッドのちょうど中間あたりに来るように設計されています。良い意味で言えば、両方のええとこ取り、悪い意味で言えば中途半端と言えるかもしれません。マーチンにはないブレイシングパターンです。理屈をこねれば、賛否両論様々な意見があると思いますが、自信を持って言います。〝このブレイシングは、素晴らしい出来です。‘’
 
ヴィンテージギターの価値が"オリジナルであること、可能な限りオリジナルにに近いこと"であれば、この塩﨑さんのブレイシングは価値がないものなのかもしれません。しかし楽器という観点で見た時、素晴らしく価値が高いものです。

完成してから3年が経過、サウンドも少しこなれてきた感じです。
スキャロップドブレイシングのサウンドが、これほどはっきりわかるギターは少ないです。
バインディングはトーティス、これもなかなかシブイです。

 まだまだ話は続きますが、長くなりそうなのでこの続きは次回の記事で詳しく書きます。

 拙い文章をお読みいただき、誠に有難うございます。皆様の感想、ご意見をお聞かせください。 またアコギに関する相談等がございましたら、どんなことでもOKです。遠慮なくお尋ねください。
 アコギ庵は「ギターを弾いてもらって、ゆっくりアコギの話をする。」そんな場所です。勝手ながら、完全予約制で運営させていただいております。
お手数ですが、まずはメール、もしくはメッセージでご連絡をお願いいたします。
宛先 e-mail:mail@acogian.com または twitter(@acogibucho)にお願いします。
 FACEBOOKのページもあります。こちらにメッセージを送っていただいてもかまいません。よろしくお願いいたします。


いいなと思ったら応援しよう!