2024年5月17日 参議院本会議(民法改正案の採決)
2024年5月17日 参議院 本会議 民法改正案決議部分のみ
尾辻秀久本会議議長
日程第5、民法等の一部を改正する法律案内閣提出、衆議院送付を議題といたします。まず、委員長の報告を求めます。佐々木さやかくん。
総務委員長。法務委員長方の申し上げませんでした。申し訳ありません。改めて申し上げます。まず、委員長の報告を求めます。法務委員長佐々木さやかくん。
佐々木さやか法務委員長
ただいま議題となりました法律案につきまして、法務委員会における審査の経過と結果をご報告申し上げます。本法律案は、子の権利利益を保護する観点から、子の養育についての父母の責務に関する規定の新設、父母が離婚した場合にその双方を親権者と定めることができるようにする等の親権に関する規定の整備、子の監護に要する費用の支払いを確保するための制度の拡充、家事審判等の手続きにおける父または母と子との交流の施行に関する規定の新設等の措置を講じようとするものであります。
なお衆議院において、子の監護に必要な事項の定めに関する広報啓発、親権者の定め方等の国民への周知、施行後5年を目途とする父母の離婚後の子の養育に係る制度および支援政策のあり方等の検討等を付則に追加する修正が行われております。
委員会におきましては8名の参考人から意見を聴取するとともに、子の利益の具体的内容とその確保、DV等のおそれのある事案において適切に親権者を定めることの必要性、共同親権のもとで単独で親権行使ができる具体的な類型、養育費確保の方策、離婚後共同親権導入が子に与える影響、家庭裁判所の人的物的体制の整備および職員の専門性の向上の必要性等について質疑が行われましたが、その詳細は会議録によってご承知願います。
質疑を終局し、討論に入りましたところ、日本共産党を代表して山添委員より、本法律案に反対、立憲民主社民を代表して牧山理事より本法律案に賛成する旨の意見がそれぞれ述べられました。討論を終局し、採決の結果、本法律案は多数をもって原案通り可決すべきものと決定いたしました。
なお法法律案に対し付帯決議が付されております。以上、ご報告申し上げます。
尾辻秀久本会議議長
本案に対し、討論の通告がございます。順次発言を許します。山添拓くん。
山添拓議員(日本共産党)
日本共産党を代表し、民法等一部改定案に反対の討論を行います。
子供の気持ちを伝える場所がない状態で、この話が進んでいる。子供のために作られると、専門家は言うが、スタート地点が違うような気がする。今週月曜日のテレビ番組でMCが発したコメントは、本法案の本質を突いています。
DVや虐待から逃れ、安心安全な生活を取り戻そうと必死で生きる人々、行政や司法、医療や教育、福祉の現場から、悲鳴のような怒りの声が上がっています。国会はその声を封じてしまってはならないのではありませんか。
法案の最大の問題は、離婚する父母が合意していなくても、裁判所が、離婚後の共同親権を定めうる点にあります。夫婦関係が破綻しても、父母の間で子の養育だけは協力して責任を果たそうという関係性があり、親権の共同行使が真摯に合意され、それが子の利益にかなうケースはありうるでしょう。
しかし、真摯な合意がないのに、親権の共同行使を強いれば、別居している親による干渉支配が復活、継続する手段となり、結果として、子の権利や福祉が損なわれてしまう危険が否定できません。法務大臣は、本法案は、父母間の合意を促していくための仕組みといい、どうしても合意ができない場合は、単独でいくと答弁しています。
問題は、条文がそうなっていないことにあります。ポストセパレーションアビューズ、別居、離婚後のDV虐待、嫌がらせが深刻です。ちょっと待って共同親権プロジェクトが今月行った調査に3日で1000人が回答し、別居、離婚経験者の58%が、離婚後の虐待に遭い、その7割以上が子の面前でも被害を経験していました。
元家庭裁判所調査官の熊上崇参考人は、「本法案が成立すれば、共同にするか単独にするか、監護者をどちらにするか、監護の分掌をどうするか、日常行為かどうか急迫かどうかなど、常に子供と親が争いに巻き込まれる。それによって、親が子を安心して育てることが難しくなるのではないか」と述べました。本法案のもとで、手続きの内容、不当訴訟、リーガルハラスメントが一層広がりかねません。ところが大臣は、「そうした問題は、婚姻中別居の夫婦でも同じ」と繰り返しました。
全く違います。婚姻中の問題が、離婚後に持ち越され、無期限の延長戦を強いられかねません。しかも、共同親権に応じない限り、離婚しないなどと迫られる事態まで起こり得ます。こうした現実の不安に、向き合っているとは言えないのではありませんか。
本法案はDVや虐待の恐れがある場合は、単独親権としています。しかし、過去にDVや虐待があったとしても、今は止まっている。反省している。将来の恐れなしとして、父母に合意がなくても、共同親権とされるケースがあり得ます。
被害者の声はどこまで反映されるでしょうか? 証拠がないと言って、過去の被害が認められない事態が十分に起こりえます。大臣は、「話せば裁判所に通じると思う」と、素朴に述べられましたが、甘すぎます。女のスペースおん代表理事の山崎菊乃さんは、ご自身の痛切な経験を語りました。
「一度暴力を振るわれてしまうと、夫婦の関係が全く変わるのです。夫の顔色を見て、怒らせないようにと振舞う癖が私に付いてしまいました。人格を否定され、人間扱いされないような言動が絶えずある生活は、身体的暴力よりつらく、私はいつも落ち込んでいました。子供たちもいつもピリピリしていました。暴力や有形無形の支配に耐え、加害者に変化を期待しても裏切られ、どうにもならずに、別居離婚を決意し、経済的にも時間的にも多くを費やし、ようやく離婚が成立した被害者に、今度また親権者変更の請求で、加害者への対応を余儀なくさせるのはあまりにも酷ではありませんか」
憲法学者の木村草太参考人は、「過去にDVや虐待があった場合には、被害者の同意がない限り絶対に共同親権にしてはならないという条文にすべき」と提案しました。正面から受け止め、対応すべきです。本法案は、子の利益のため急迫の事情があるときや、監護および教育に関する日常の行為については、単独で親権行使できることとしていますが、実際には、どこまで単独で決定できるのか、はっきりしません。
熊上参考人は、3月の院内集会で出された。子供たちの声を紹介しています。
「何かにつけて両親の許可が必要って面倒なだけ。期限に間に合わなかったら国は責任取れますか。お父さんとお母さんが別居中に僕の手術が必要になったとき、お父さんが嫌がらせでサインしてくれなかったと聞きました。病院にお願いしても、両親のサインがないと駄目だと言われて、数ヶ月、手術が伸びた。離婚時に兄の私立が高校を辞めさせろと、父から児童相談所に要請がありました。理由は養育費がかかるから」
法務省は、父母は互いに人格尊重協力義務を負うとの規定を設けたので、一方の親権者の親権行使を妨げることは、権利の濫用に当たりうるといいます。
しかし、それが裁判で認定されるのはずっと後になるでしょう。むしろ争われるのを恐れ、萎縮し、適時適切な意思決定ができなくなることが起こり得ます。婚姻中DVや虐待を理由に子を連れて別居するケースが子の利益のため急迫の事情があるときに当たるのかは非常に重要ですが、この点さえ明瞭ではありません。
弁護士の浜田参考人は、「日常の養育に関する決定は、監護者が行い、監護者でない側は不当に妨げてはならないものとすべき」と意見を述べました。離婚後、父母の双方を親権者とする場合には、少なくとも一方、監護者に定めることを必須とすべきです。
医療現場から、現実的な懸念の声が上がっています。日本産科婦人科学会や日本小児科学会など4学会は、共同親権を導入する趣旨や理念を理解するとしつつ、父母の離婚後も両方の親権者の同意を必要とすることになれば、生命身体の保護に必要な医療を実施することが、不可能あるいは遅延することを懸念するとしています。
親権者のいかなる同意が必要であるのか判断がつかず、医療機関が訴訟リスクを恐れ、医療行為を控える事態を招くことはあってはなりません。あるべき法改正のためには、子供を主体とした親権の再定義が必要です。子供の意見表明権の保障を明確にすべきです。
裁判官調査官など、大幅増員を行う家庭裁判所の体制強化が不可欠です。親の資力等が要件となっている支援策や、親の同意等が必要とされる手続きは、法務省が昨日までに把握しただけで32項目に上ります。大臣は、関係省庁連絡会議で今後調整するといいます。
しかし、本法案のもとで、いかなる影響が生じうるのかは、審議の前に確認しておくべきです。方法は採決の前提を欠いています。木村参考人は、「日本の新しい憲法、民法が重視したのは、共同行為は合意がない限り強制できないという当事者の意思を尊重する姿勢だ」と述べました。
憲法24条2項は、「離婚や婚姻家族に関する法律の定めのあり方について、個人の尊厳と、両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と定めます。当事者間に合意のない共同を強制することは、個人の尊重を最も大切な価値とする憲法との整合性さえ問われます。
本院の審議では、与党も含め、多くの議員から弊害を懸念する発言が相次ぎました。親子関係と家族のあり方に関する戦後民法の根本に関わる改定を国民的合意なく押し切ることは断じて許されません。
追い詰められ、虐げられ、1人で苦しみ、しかし懸命に生きてきた多くの当事者が、声を上げ、繋がり始めました。
自らと子供の生活と命がかかっている。だから諦めるにはいかないという声が既に全国で沸き起こっています。個人の尊重に依拠した、あるべき家族法制への転換こそ求められることを強調し、討論といたします。
牧山ひろえ議員(立憲民主党)
立憲民主党社民の牧山ひろえです。私は会派を代表して、ただいま議題となりました「民法等の一部を改正する法律案」について、賛成の立場から討論いたします。今回の法改正の主たるテーマは離婚後の家族法制特に共同親権等です。
これからの議決によって、離婚後の親権のあり方が77年ぶりに見直されることになります。法律は、社会や家庭のあり方を規定します。80年近く、アンタッチャブルであったという事実こそが身分法の重さを裏付けています。
身分関係、特にトラブルを取り扱ったり、子供や1人親など、社会的に弱い立場になりがちな対象を取り扱う際に、決して犯してはならないと思うことがあります。それは、対象を切り捨ててはいけないということです。しかし、法律案の策定過程では、こうした点で大きな問題がありました。
まず、史上初めて法制審議会家族法制に関する部会で、全会一致でない議決が含まれている要綱案を策定・提出しています。また、審議会にはDVの被害者等が当事者委員として参加できませんでした。加えて、共同親権を取り扱ったパブリックコメントで、当事者の声が多数切り捨てられました。
身分関係において、これほど当事者の切り捨てが起こったことは記憶にありません。社会を統合すべき法律が社会を分断しようとしています。あってはならないことです。元々共同親権に関しては、立場の違いがそれぞれ明確で、ここに至る以前から賛成論反対論の激しい対立が存在しました。
にもかかわらずです。今回の改正にあたり、それなりに議論を進めていたのに、中間試案のパブリックコメントが終わるあたりから急にスピードアップして、拙速としか評価し得ないような生煮え状態の案が作成されて国会に提出されました。
そのため、いちいちケーススタディについて、質疑で各確認する必要があり、そのために多大な時間が割かれましたものも事実でございます。
また、政府与党側の審議の進め方答弁ぶりにも問題があったのではないでしょうか? まず制度全般の土台となるような大きな論点について対応策が不十分なまま国会提出をしており、そのために議論がその先に進まず、審議の充実を妨げました。
例えば、今回の主テーマである離婚後の共同親権には、共同の親権行使の有無により、非合意強制型共同親権と合意型共同親権の2種類があり、合意型の場合には、非合意強制型に比べて遥かに少なくとも合意時点では摩擦が小さいのですが、審議の前半においては、この二種の違いに関心が薄く、議論が整理しづらかった状況があります。
また、DVや虐待の恐れの際には、単独親権という方向性が打ち出されており、方向性は正しいのですが、果たして、家庭裁判所がDVや虐待の事実ないしおそれを裁判所が正確に判定できるのかという一番大きな疑問点が、解消されていません。
また市民社会の歴史の長い諸外国では、社会的現象が時期的に先行して復帰する傾向があるので、海外の事象や、傾向を研究すれば、より円滑に新制度の導入ができると思われるのに、積極的に取り組んでいる様子が見えません。
例えば、重要事項の決定権にしても、子が適時適切な親権行使を受けられることが重要で、家裁がオーバーフローのため、適時の要件を満たせない場合、制度自体の前提が崩壊するのですが、当局にそれに関するシビアな認識はないようです。
法施行に向けた準備にせよ準備の前提となる実施時のイメージ、スケール感などに全く具体性がなく、「法が成立したら、調査を始める」の一点張りで、国民の代表として政府提案の良否を判断しなければならない。国会審議の前提が満たされていません。
この傾向は、近時の政府与党の議会運営によく見られるものですが、今回はそろい踏みといった印象です。
これらの問題点に取り組みにあたり、衆議院審議時にさかのぼり、私達の立ち位置を説明させていただきます。子供たちの命と未来に直結する、これだけの重要法案が国会における各党の勢力図という現実を前にしたとき、多くの問題点を抱えたまま、原案のまま成立することになる。
それでいいのか。私達は非常に苦慮した上ではありますが、衆議院での審議の後半、11項目に及ぶ修正項目を与野党に提案し、協議の結果、合意に達しました。合意した修正案は、我々の案を全て反映したものとは言えませんが、修正項目のエッセンスが最低限盛り込まれたものであり、原案のまま運用されることによって生じる被害を少しでも軽減できると判断しました。
衆議院での採決に際しては、私達はまず筋を通し、この考えを明らかにしつつ委員会での採決に当たり、私達自身が提案した修正案には賛成、そして元々多くの議員が多大な懸念を持っていることを踏まえ、政府原案には反対をするに至りました。
衆議院での可決後、参議院に送られてくる修正案が溶け込んだ修正民主改正案ということになります。同一の法案には、政党会派として同じ対応するのが責任政党としての一つの考えなので我が党の立場としては、参議院でも賛成することといたしました。
ただし、質疑でもおわかりのように私達はこの政府案に諸手を挙げて賛成しているわけでは全くありません。元々の私達の修正内容は含まれない。政府原案に対する評価は、衆議院の委員会採決に原案に反対したことに示されるように、極めて悪いものになっております。
また国会議員、そして国政政党として、法案を少しでも良いものにする努力をするのは当然ですし、義務でもあります。また、筋論に関しても交渉の相手方すなわち修正協議を行うよう与党側にも働きかけを継続していきました。
提案内容としては、衆議院での審議時に作成した修正11項目が関係分野を幅広くカバーしており、かつわかりやすくもあったのですが、本則の修正に至らなかったので、当院では本則の修正を目指したものです。ですが、与党の反応は極めて厳しく、既に衆議院で修正協議済みということを理由に、全く応じることはありませんでした。
この点は残念と言わざるを得ません。この与党の頑なな態度に、当方も方針を変換し、付帯決議を充実するための方針に切り替えたというのが、参議院における修正協議の経緯でこの場で明らかにさせていただきたいと思います。
このような環境下であることも踏まえ、参議院では、衆議院での議論を踏まえた真摯な審議を行ってきました。審議時間について、参議院の質疑時間は、衆議院の6-7掛けであるのが常識とされていますが、衆議院の政府対政府質疑が15時間台であるのに対して参議院の標準換算では18時間以上となり、衆議院の審議時間を参議院の審議時間が上回る審議でした。改正法案の疑問点や問題点が数多く議論できました。ご尽力いただいている当の皆様には感謝します。また、法務省最高裁が今後、国会審議内容を生かすために最大限の努力を尽くすことなどが付帯決議に盛り込まれたことも、賛成の理由として挙げられます。
先ほどもお話ししたように、今回の法案の内容や審議の進め方には大きな問題があります。子供たちの笑顔を守るため、柔軟性を保ちつつ、しっかりと今回成立した新制度に改善の意欲を持って関わり続けることが私達の責務だと強く決意を申し上げ、賛成討論とさせていただきます。(笑いと拍手がドッと起こる)
清水貴之議員(日本維新の会)
日本維新の会の清水貴之です。教育無償化を実現する会との統一会派を代表し、民法等の一部を改正する法律案について賛成の立場から討論を行います。
離婚後の共同親権を導入する本民法改正案に対しては単独親権制度を維持することが望ましいとする立場、そして共同親権も選択肢とすべきとする立場からもそれぞれ不安の声や反対意見が多く寄せられました。
そのような様々な意見を受け衆議院に続き参議院の法務委員会でも建設的なそしてときには激しい議論が進められてきました。今回の政府案は原則の共同親権までには至らなかった点、共同養育計画の策定の義務化が見送られ、実行力に欠ける点などが懸念されるものの、DV被害者の保護について配慮を行いつつ単独親権しか存在しなかった、我が国に初めて離婚後に共同親権という選択肢を示す一歩前進の法案として評価をしています。
しかし、残された課題も多くあります。まず、先ほども述べましたが、養育費や親子交流の取り決めを入れ込んだ共同養育計画の策定が義務化されなかった点です。小泉法務大臣は、離婚する父母が子の養育に関する講座を受講することや、養育に関する事項を取り決めることなどを通じて、子供の利益を確保することは非常に重要と委員会審議で答弁されました。
一方、養育計画作成の義務化は結果的に離婚が困難となりかえって子の利益に反する結果となる懸念があるため慎重に検討すべきであるとのこと、離婚前後の父母は様々な葛藤にささいなまれるものだと思います。その不安を取り除くための親講座の受講や、両親の離婚に際して、極めて不安定な心理状態となる子供に対するガイダンスを必須のものとし、取り決め率と履行の割合が大変低い親子交流や養育費のあり方を共同養育計画という形で残すことは本改正案で明記された父母の責務としての子の人格の尊重と養育扶養の義務、そして子の利益のため互いに人格を尊重し協力し合わなければならないという非常に重要な規定を担保するために必要なことであると考えます。
衆議院での修正協議で附則第17条には、子の監護について必要な事項を定めることの重要性について啓発活動を実施する旨が規定されましたが、その実施とさらには共同養育計画の策定に向けて、政府には全力で取り組んでもらいたいと思います。
DVや虐待は深刻な問題であり、委員会審議でも重ねて議論されました。私が話を聞かせていただいた神戸市でDV被害者を支援するためのシェルターを運営している方からは「共同親権の導入によって、被害者がさらに窮地に立たされることになる」という悲痛な訴えがなされました。
小泉大臣は改正案は、「DVや虐待の恐れがある場合は裁判所が必ず単独親権と定めなければならない」と述べられていますが、DVや虐待は身体的なものだけではなく精神的や経済的なものも含まれ、その証明が非常に困難です。
果たして裁判所が適切に判断できるものなのか。一方で、DVや虐待を理由とした単独親権の申し立ては、ときに親権を獲得するための手段として乱用される恐れがあります。いわゆる偽装DVの問題です。小泉大臣も「そのような批判があることは承知をしている」と、委員会審議の中で述べられています。
真にDVや虐待に苦しむ親子を保護することはもちろん、何よりも優先されるべきですが同時にこの偽装DVによって、本来ならば良好であるはずの親子関係が長期間断絶されることのないよう、法務省および裁判所には適切に対応していただきたいと思います。
国民1人1人がDVや虐待問題に対する意識を高めることが必要ですし、政府においては、DV被害者支援の現場で活動する団体とも連携し、被害者の生の声に耳を傾けてそのニーズを踏まえた効果的な周知啓発活動を展開することを求めます。
また諸外国から避難が続いている子の連れ去り問題、当然これもDVや虐待から逃れるために緊急避難的に居場所を変更することは起きるわけで、そういった被害者への支援は大変重要です。しかし例えば2020年にEUでは子供が片方の親に一方的に日本に連れ去られる事例が依然多いことに懸念を表明し、日本政府が子供の保護に関する国際ルールを実行し共同親権に道を開く法改正を求める決議を賛成686、反対1、棄権8で可決されています。
小泉大臣からは、父母の一方が何らの理由なく、他方に無断で子の居所を変更する行為は、個別の事情によっては、本改正案の子に関する父母の人格尊重規定の趣旨に反すると評価される場合があるとの答弁がありました。
本改正案が成立した際には、政府として国際的なメッセージを発信することも重要かと考えます。
次に養育費や親子交流の履行に向けての方策が十分ではない点も懸念材料です。養育費について現在実際に受け取っているのは、母子家庭では28.1%、父子家庭では8.7%に過ぎず、取り決めができた家庭も子がいる離婚家庭の半分にも満たない状況です。
同居親が別居親との接触を避けるため養育費を請求しないケースも多くあります。この問題でも、共同養育計画の作成が重要となってきます。今回の改正では、養育費の履行確保する観点から、法定養育費の創設や養育費などの債権に一般先取特権を付与することが加えられました。
しかし、養育費の履行確保のための家庭裁判所への申し立てなどによる1人親の時間的経済的負担は大変大きいものがあります。参考人質疑で口述された弁護士の熊谷熊谷信太郎さんはこのように言われました。
「養育費の不払いというのは、本来的には、不作為による子供への経済的虐待である」と。衆議院の付帯決議においては公的機関による立替払い制度について国自らによる取り組みのあり方に加えて、民間の支援団体や地方公共団体の支援の取り組みのあり方について検討を行うことが明記されましたが、経済的虐待をなくすためには、不払い者へのペナルティや支払った人へのインセンティブ、また国による積極的な関与としては、代理強制徴収制度や立替払制度の導入など検討すべき案は多々あると思いますので、この点も国として積極的に取り組んでもらいたいと思います。
親子交流は別居の親と子供との繋がりを維持する重要な機会です。令和3年度の厚労省の調査では、親子交流が実施されているのは、母子家庭では30.2%、父子家庭だと48%です。決して高い数字ではありません。日弁連のアンケートでは、裁判所の調停で合意した親子交流が全くできていないという人の割合は44%、半数近くが親子交流の不履行になっています。家裁を通して交流が決定しても調停内容や審判に強制力が伴わず罰則もないため別居親が自分の子供に会うことが非常に困難な状況が多数発生しています。
家裁による履行勧告、間接強制という形式的措置がとられても、実際には面会が必ず金銭要求に置き換わってしまうケースが多々あります。繰り返しになりますが、こうした実態を改善するためにも共同養育計画は必要だと考えます。
最も、DVや虐待に対する懸念から、別居親と会いたくない、もしくは子供を会わせたくないというケースがあることも理解をします。その点への配慮は大変重要です。親子交流について小泉大臣は、法案審議の中で、「親の別居離婚を経験した子供を対象とした心理学分野の複数の研究結果においては、DV等がある事案を除いて、親子交流が継続して行われているグループの方が、親子交流が行われたことがない、または親子交流が中断しているグループと比べ、自己肯定感が高く、親子関係が良好であることが指摘されている」と述べられました。
父母の別居後や離婚後も適切な形で親子の交流の継続が図られることは、子の利益の観点から大変重要であると考えます。ふさわしい親子交流の実施に向けて政府は引き続き力を注いでいただきたいと思います。この改正案が成立した場合、法律全体の施行まで2年以内という期間が設けられていますが、新設される理念の条文に関しては、法案成立直後から部分的に試行や運用開始することが可能なのではないでしょうか? 大臣は委員会審議において関係機関や裁判所の準備にどうしても2年は必要だと述べられていますが、子供の利益を守るためには、できるだけ早い早期にこの理念を実践に移していくことが重要だと考えます。
また我が党の提案として附則の第10条に、5年をめどとしてという見直し規定を入れさせていただきました。しかしこれは5年たたなければ見直せないということではなく、子供の利益の観点から必要だと思われた見直しは1年目でも、2年目でも機動的に行っていくべきだと考えます。
これまで日本では離婚をすれば、子供にとって親がどちらかになる縁切り文化でしたがこれからは離婚しても親子の縁が切れない縁結び文化となります。日本維新の会と教育無償化を実現する会は子供の最善の利益確保のための第一歩となる親権制度の確立を目指し、今後もその目標を実現できるよう活動していくことを申し上げまして賛成討論といたします。ご清聴ありがとうございました。
川合孝典議員
国民民主党林新緑風会の川合孝典です。会派を代表し、賛成の立場からいくつか指摘をさせていただきます。
日本人と外国人の国際結婚が急増したことにより国際離婚も増加しています。一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子供を自分の国へ連れ出す子供の連れ去りが、国際問題になっています。欧米諸国でたとえ実の親であっても、他方の親の同意を得ずに、子供の居所を移動させることは、子を誘拐する行為として重大な犯罪とされており、実際に配偶者に無断で子を連れて日本に帰国した親が誘拐、または拉致したとして、逮捕状が出される事例が多発しています。
日本は2014年4月にハーグ条約を批准したため、この締約国として、年々増加する日本人による子供の連れ去り等への対応を求められています。本法案は、こうした国際情勢をも踏まえて提出されています。今回の民法改正に対して深刻な家庭内暴力を恐れる1人親からは、法改正後の家庭裁判所の判断を含む具体的な運用を巡って不安の声が上がっています。
法改正により、家庭内暴力や児童虐待が深刻化するような事態は決して生じさせないよう、細心の注意を払った運用が求められていることはいうまでもありません。今回の民法改正では、離婚の有無に関わらず、子の利益のため、互いの人格を尊重し、協力しなければならないとの父母の責務が明記されました。
しかし、父母による子の養育を互いの人格を尊重し協力して適切に進めるためには、一方当事者に過度の負担が生じないよう配慮しつつ、離婚前後の子の養育に関する講座の受講や共同養育計画の作成を促進するための事業に対する支援、ADRの利便性向上に向けた措置などを講じる必要があります。
関係省庁や地方自治体とも連携の上、速やかに必要な施策を検討実施することを政府には強く求めます。近年、子供の引き渡しを求めて家庭裁判所に調停や審判を申し立てる事例が増えています。この10年間で、父親の申し立てが7割増えて、父親の申し立て件数が母親を上回る状況が続いています。
その背景には、父親が外で仕事をして、母親が家事育児を行うという旧来の家族のあり方が変化し、夫婦共稼ぎで父親も育児を担うようになったことで、子供と父親との関係性が変化したことにあると指摘されています。
旧来の家族間が大きく変化する中、改正民法が定める子の利益を守るための父母の責務を理解して離婚しても、父母がこのために協力し合うことが当たり前となる環境を整えるための取り組みが求められています。私が法案審議を通じて一貫して訴え続けてきたのが、子供の最善の利益の確保です。
様々な事情があるとはいえ、両親の事情による離婚の結果、子供が不利益を被る状況だけは絶対に避けなければなりません。2022年度の母子世帯の1人親家庭の子供の貧困率はOECD加盟36カ国中35位の48.3%、実に2人に1人が貧困状況に置かれています。
また、厚生労働省が2022年12月に公表した調査データによると、1人親世帯の平均年収は、父子家庭で420万母子家庭では243万円となっており、1人親の母子家庭が厳しい経済状況に置かれていることがわかります。
さらに、離婚後養育費を受け取っていない1人親世帯は全体の56.9%となっており、1人親の母子家庭の子供の貧困率が高くなる要因となっています。その結果、子供の大学進学率や習い事、クラブ活動などへの参加率で教育格差や体験格差が拡大しています。
現実に両親の離婚が子供の将来に深刻な影響を及ぼしているということを我々は重く認識する必要があります。今回、離婚時に養育費の取り組みをしていなくても、子の最低限の生活に必要な養育費額の請求が可能となる仕組みが導入されます。また、これまで裁判所に差し押さえの申し立てを行う際に必要とされた調停の書面や、公正証書がなくても、私文書でも差し押さえの申し立てが可能となったことにより、特に1人親の母子家庭の子供の貧困率の改善に寄与することが期待されます。
また近年、調停の申し立てが増加している親子交流にも変化が期待されます。親子交流は子供の成長にとって重要とされているものの、実際には親子交流が実施されていない事例は数多くあります。今後、子に対する父母の責務規定に基づき、子の意思を尊重した面会交流の場を設定できれば子の利益に資することが期待できます。
今後法務省には、養育費の受給や親子交流が適切に実施されるよう、国内における実情調査を継続的に行う他、諸外国における運用状況に関する調査研究を踏まえて、適切な養育費水準および日本における親子交流のあり方、監護の分掌の実施に伴う養育費負担のあり方等について検討を行い、必要な措置を講じることを求めます。
今後大きく運用が変更される可能性のある親子交流については、その推進を図る上での国の体制が明らかに貧弱です。法務省ホームページによると、親子交流を支援する団体は全国でわずか57団体に過ぎず、公的補助も乏しいことから、活動の多くをボランティアが支えています。
民間任せにするのではなく、国が予算をつけて実績のある団体に業務委託するなど、適切な親子交流を推進する上での体制整備が必要であることを指摘します。裁判所の体制整備が急務であることも審議を通じて明らかになっています。
法改正によって、家庭裁判所の業務負担は増大することが見通されます。DV、虐待事案への対応を含む多様な問題に対する判断が求められることに伴い、裁判官、家事調停官、家庭裁判所調査官等、裁判所職員の増員および専門性の向上が必要となる他、裁判所内の調停室や児童室等の設備の整備、申し立てや会議のIT化による裁判手続きの利便性の向上、子供が安心して意見陳述を行うことができる環境の整備など、法施行までの間に取り組むべき課題は山積しています。
また、裁判所は慢性的な裁判官不足の状況に置かれています。判事になるまで10年間、任官する必要のある判事補は減少の一途をたどっており、現在約2割の欠員となっています。裁判官不足のため、地方裁判所の203支部のうち44支部には、裁判官が常駐していません。
裁判官の常駐していない支部では、月に数回、担当裁判官がやってきて、溜まった案件をまとめて処理することになるため、落ち着いた審理ができないことから、訴訟当事者からの不満の原因にもなっています。共同親権を巡る裁判所の裁定に対して不安の声が上がっている中、適正な裁判を行う上で、裁判官および裁判所職員の人員体制の推移、整理が急務であることを指摘します。
家事裁判の裁定の実効性を高めるための施策について提案をします。現行法下では必ずしも裁判所の裁定が遵守されていない事案が散見されることから、その実効性を高めるための措置が必要です。一般的に国民と国家との関係を規律付ける公法と私的活動を規定する私法では、その基本原理が異なることから、地方である民法の違反に対して公法である刑法等の制裁規定はなじまないものとされています。しかし、一昨年、子供の最善の権利を守ることを目的とした、こども基本法が成立しました。既に労働基準法や独占禁止法のように、公益上の理由で、市民相互の関係を規律付けるいわゆる社会法と言われる公法と手法の中間的な性格を有する法律には、刑法上の制裁規定が設けられています。私はこども基本法を公益性の高い社会法と位置づけることにより、フランスなどと同様に、裁判所が裁定した養育費や、親子交流といった子供の権利を侵害する行為に対して法上の制裁規定を適用することについて検討の余地があると考えており、そのことを指摘します。
最後に、現行離婚制度の本質的な課題について指摘します。我が国の離婚制度の最大の欠陥は、離婚判決と財産分与や養育監護の問題が、制度上別立てになっていることです。これは社会的経済的弱者を保護する見地からは見過ごせない問題です。
今回の民法改正は、子供の最善の利益を守ることに主眼を置いて、離婚後、親権のあり方を議論してきました。離婚判決が共同生活の解消を目的とししている以上、財産分与や養育費、監護の取り決めを、判決の前提とするような制度を検討することが必要である。
ということを指摘し、私の討論を終わります。ご清聴ありがとうございました。
尾辻秀久本会議議長
これにて討論は終局いたしました。これより採決をいたします。本案に賛成の諸君の起立を求めます。過半数と認めます。よって本案は可決されました。(以下略)