類書の有無とベストセラー[中国の高度成長を旅する#番外編3]

【中国本 覚書その2】類書がないからといって確実に売れるかというとそんなはずはない。①読者が感心をよせ、②共感してもらえるテーマ設定がないとダメだ。あと③書き手の書かずにはいられないという切迫感も必須。その点において「日本植民地探訪」にしろ「日本人が行けない日本領土」は弱い感じがする。
「僕の見た大日本帝国」は①②③のすべてが備わっていた。
「誰も国境を知らない」は、①②はダメで③のみ。
高野さんのソマリランドは類書はないし、切実感はあまりない。書き出しに昂揚感は全然ない。なんじゃこれって感じ。②にしても可能性はかなり薄い。
それでも売れたのは、読者を引き付ける巧みな文章力(①)が備わっているからだろう。というか高野作品すべてに、読者を引き付ける文章力が備わっている。ソマリランドのまえがきはドアンダーで切実感が薄い。なのに売れたのは「何かやらかしてくれるはず」ってことで、安心して読者に手にとってもらえるからだ。さらに②において逆張りに徹している。興味がなさ過ぎるテーマを選ぶからこそ、「なんじゃそりゃ」ってことで逆に読者の興味を呼び起こす。
読者の関心を寄せる文章力とオンリーワンな素材選び。その二点が備わっているから売れるのだ。

この人の本を買えば間違いなく面白いという信頼性において、私は高野さんにかなり劣る。素材の独自性も一見するとずいぶん弱い。
しかし、①②③を磨き上げ、しっかりしたイメージを打ち出すことで、「大日本帝国」に匹敵する作品になる可能性があると考えている。ポテンシャルという点で「国境」よりは可能性はずっとある。それをどうやって高められるか。

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