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デザインリサーチャー、Designship2024のコンテンツリードになってしまうの巻

Designship 2024が、10月12日と13日に東京ミッドタウンで開催され、現地やオンラインで多くの方にご参加いただきました。改めて皆さまには心から感謝申し上げます。

自分は1月からの約10カ月間、Designship2024のコンテンツチームのリードになって動き回っていました。コンテンツチームはその名の通り、Designshipのコンテンツを全体的に企画したり、辞める判断をする役割。つまり昨年度の分析をもとに、Designshipのバリューを再解釈した上で、細かな改善を積み重ねる役割です。

タイトルの雰囲気に現れているかもしれませんが、コンテンツリードを担うことになったのは本当に偶然です。メンバーの近況状況的に自分が引き受けることになりました。でもダラダラやって迷惑をかけるほうが嫌だったので、やれることを取り組んできたつもりです。

本業ではMIMIGURIのリサーチャーで、社内のリサーチ業務を技術的に支援するResearchOpsでもあります。そこで社外活動であるDesignshipでも、リサーチャーとしていつもやってることを導入することに挑戦してみました。今回の記事ではそれらを「Designshipのバリューの再解釈」「セッションの改善」という、ふたつの観点から論じます。

裏側が気になる方は、ぜひともご覧ください。


①Designshipのバリューを再解釈する

Designshipのバリューを見出すための議論

1月にDesignship2024のコアメンバーが集まり、初期コンテンツチームが組成されました。最初に実施したのは、昨年のアンケートを読み込み、昨年のイベントにはどういう「価値」があったのか、今後届けたい「価値」はなにかを洗い出すことでした。昨今ではデザインに関するカンファレンスが多様化し、改めて「Designshipの価値」を見出す必要があると考えたためです。

アンケートの選定と価値を定義する議論はコンテンツチーム実施していましたが、途中からコンテンツチームだけでなく、団体全体のブランドにも繋がる点から理事も関わるようになっていきました。いつの間にか周りから「哲学チーム」と呼ばれるようになり、抽象的な議論を皆を巻き込んでするのがとても楽しかったです。

これらの議論の結果としてまとまったのが「Designshipの5つの価値」というバリューです。この5つの価値は公式として表に出されたものではありませんが、改善や施策考案の足掛かりとなっています。

①Designshipはデザインの最前線(現在地点)を捉え続けます
Designshipはこれからのデザインのまだ見ぬ可能性を探究し続けます
Designshipは各人のデザインにかかわる物語を追体験できる機会を提供します
Designshipはデザインの物語が交差する体験を提供します
Designshipはデザインにかかわりつづけるあなたの物語の一ページになります

Designshipの5つの価値(Contentsチームの議論により作成)
ディスカッションの過程のMiro

「デザインの物語が交差する体験」を理解するワークショップ

特にこの5つのバリューの中で、他のチームの方にも「これって、いったいどういうことだろう?」と話題になったのが、4つ目にある「Designshipはデザインの物語が交差する体験を提供します」でした。

これまでDesignshipの登壇者には、単に自分のデザインの制作事例や、自社情報だけでなく、デザインに関わり続けてきた個人的な物語を語ることを求めてきた背景がありました。しかし「物語の語り手(スピーカー)」はいわゆる登壇者に限定される必要はなく、スポンサーブースの方や、一般ゲストも含めて、それぞれが自らの「物語」を語りあい、物語同士が交じり合って欲しいと願って言語化したのが、このバリューでした。

その「デザインの物語が交差する体験」とはどういう現象で、具体的にどのような状態が生まれうるかををもっと知りたいと考え、次に運営メンバー同士で「物語の交差についての感受性を高めるワークショップ」をやってみました。これは「デザインの物語が交差する」という具体的なシチュエーションを、2人1組のペアになって寸劇で演じてもらうというものです。

コンテンツチームだけでなく、理事や他のチームも交えて計10名の方にご参加いただきました。デザインリサーチにおいて寸劇を用いることは一般的な手法なのですが(スキットプロトタイピングという方法があります)、ここに参加していただいたDesignshipの運営メンバーは殆どの人が寸劇は初めてだったらしく、かなり初々しい場になりました。

「デザインの物語が交差する体験」を寸劇で演じる
ワークシートでスクリプトを書いてもらうが、即興もOK!

寸劇ワークショップで見えてきたこととしては、「デザインの物語が交差する」シチュエーションや、そこではどのようなコミュニケーションが行われているのか、さらにどのような状態が生まれるかです。具体的には以下の8つの状態が期待されるのではないかと見出しました。

①ゲストスピーカーの発表を聴くなかで「興味がない」と思っていたデザイン分野の食わず嫌いが解消に向かう
②自分の心の奥で眠っていたデザインに関する「好き」が開眼する
現状からの変化(転職やロールチェンジ)の背中を押してもらう機会がある。
③自分の人生のアクセルを踏みだすためのヒントを他者の物語から発見する
④「自分には無理」だと思っていたこと(例えば新規事業立案)が難しいものではない/可能であると背中を押してもらえる
⑤Designshipの参加経験の多い方に楽しみ方を教わり、もっとDesignshipの沼を知ってしまう
⑥自分の触れたことのないデザイナーロールの景色を眺めることができる
⑦単純に多様な「デザイナー」が集っている場であることで日常の延長線上ではありえない出会いが生まれる

デザインの物語が交差した結果起きること(寸劇WSのまとめ)

このようにコンテンツチームでは、1月からのチーム組成の頃からバリューの再定義に努めてきました。これらのバリューは、例えばスピーカー(キーノート/公募)の選定や、ブランドの構築、対外的なコミュニケーション(SNSやスポンサー)にも活かされています。

②Designshipの花形:「セッション」の改善

もう一つのミッションは、「セッション」の改善です。一見デザインカンファレンスの花形といえば、派手なトークセッションと思う方もいるかもしれませんが、Designshipには嬉しい悲鳴が存在します。それはスポンサー企業の皆さまがめちゃくちゃ気合を入れてくださっているという嬉しい問題(?)です。

ブースを出すために動画を発信される企業さま、クオリティの高いノベルティや装飾を準備されている企業さま、デザイナーにとって嬉しい情報をブースで供給してくれる企業さまなど。自分はDesignshipのもう一つの楽しみは、これらのブースに足を運ぶことです。

しかし一年前のDesignship2023で生じていた問題は、スポンサーブースに人が身動きが取れないほど密集して山手線状態。端から端までの移動に10分かかってしまうほどでした。他方でメインコンテンツであるトークセッション会場はといえば、若干空席が目立っていました。

それはスピーカーの皆さまというよりは、Designship全体が「セッション」という体験を高めるための工夫について十分に検討しきれてこなかったという課題が大きいと考えており、スポンサーブースへの気合はそのまま、メインのトークセッションもそれに比肩する体験を提供できるようになる必要があると課題設定しました。

昨年度のアンケートの計量テキスト分析

そこでチームで真っ先に行ったのは、昨年のアンケートにおける「メインセッションに関する設問」の自由記述回答の分析です。ここでは計量テキスト分析ツールであるKH Coderを用いた、共起ネットワーク分析を行いました。共起ネットワークとは、テキストデータで頻出する単語同士の関係性や出現パターンを図的に表現できるものです。

丸(バブル)の大きさが出現回数であり、線の濃さが濃いほど語と語同士のつながりが強いことを意味します。そして線には係数を表示しています。

Designship2023における「メインのセッションに関する設問」の共起ネットワーク

その中で自分が特に注目したのが、「自分」というバブルを中心に、「自分―人生」「自分ー仕事」「自分―思う」という語と語のつながりが見られている点でした。セッションの感想を記述する欄にもかかわらず、自分の人生や自分の仕事に引きつけて回答するものが多く見られたのです。実際に各語の前後文脈を参照することのできる「KWICコンコーダンス」を確認してみても、その傾向は顕著に現れていました。

注目したのが、オレンジの箇所の語のつながり

ここで解釈できたことは、Designshipのメインセッションは、「登壇者(スピーカー)の物語」を介して「自分(の人生・仕事)はどうなのか」をつい考えたくなり、「語りたくなってしまう」というものです。情報提供やナレッジシェアではなく、登壇者の語りについて自分の仕事や人生に引き付けて考える体験を、今までDesignshipは届けてきたのではないかと解釈しました。

この価値を強化していくため、Designship2024ではメインステージのスピーカー(キーノートスピーカー+公募スピーカー)に「スピーチの最後に、参加者に向けて一つ問いを投げかけてもらえませんか?」というお願いをしました。問いは思考の起点になるものだからこそ、つい考えたくなってしまう体験を共有できるのではないかと考えたためです。

結果として(これだけでなく会場設備や、宣伝などさまざまな要因が影響し)、今年は多くのメインセッションが満席で、元々の課題である「メインステージの価値向上」は果たされたのではないかと感じています。また最後に「問い」を持ってくるプレゼン構成は、Designship代表の広野さんも「スピーチの締まりが良く感じた」と仰っていただき、SNS上でも自分なりの考察を書いてくださる方が散見された点でも良い影響だったと感じています。

今年のデザシプで一番嬉しかったのはメインが埋まったこと

語りたくなった人を触発する新企画

また、「語りたくなってしまった」人を触発する仕掛けとして、今年のDesignshipでは、実験的にReflection BoardSpeaker`s Circleという企画を取り入れてみました。Reflection Boardとは、キーノート・公募スピーカーが最後のスライドで提示した問いが場内に貼られているボードであり、参加者は自由にその問いに付箋で自分の考えを貼ることができます。

Designship2024 Reflection Board

また、Speaker`s Circleは、登壇直後のキーノート・公募スピーカーをReflection Boardの前に招いて行うプチワークショップです。スピーカーの方に最後に出して頂いた1つの問いについて、参加者が各々の考えを提示し、スピーカーと直に対話できる企画になっています。

Speakers Circleの光景。スピーカーの問いに付箋で答え、仲間に共有する。

時間的制約でメインステージの転換時間である20分~30分程度しかできませんでしたが、スピーカーの方からは「もっと長い時間やりたかった」という声を頂きました。しかし長い時間となると今度は参加者が見に行きたかった他のセッションに行きにくくなるジレンマがあるのが、カンファレンス運営の難しさだと痛感しました。

また、実際にやってみてわかることもありました。

  • どういうコンテンツなのか、仕様を分かってもらうまで大変だった

  • メインステージからの距離の近さが大事だということ(一番奥にReflection Boardが設置されていたので気づいてもらうまでが大変だった)。

  • Designshipはツートラックセッション+スポンサーブースというだけで、だいぶお腹いっぱいであり、サブ的なコンテンツは「あっさり」したものが求められること。

ただこれらは来年度に向けた知見に繋がると感じていて、現在は獲得した知見をとりまとめて、今年度のアンケートの分析や、報告書の作成などに取り組んでいる状態となっています。まだまだアンケートは募集している状態ですので、ぜひともDesignship2024にご参加された皆さまは、来年開催に向けてのご意見をよろしくお願いいたします。

終わってみて

1月から現在まで、本当にあっという間でした。なぜリードをやることになったのかは、いろいろな経緯があるのですが、結果として「Designshipの全体的な体験を向上するために自分のチームで何ができるのか」という、オーナーシップを持つべき存在として活動できたことは、良い学習機会でした。

ただ自分1人では何もできないということも実感し、他のメンバーがそれぞれの特技や優秀さを持っていて、何度も「自分はダメだ」と落ち込んでいました。みんなすごいなと。まだまだだなと。

また、自分にとってDesignshipはサブ活動であるように、関わられている皆が本業・副業を持って仕事をされているはずです。その多忙な日々があるにもかかわらず、皆がDesignshipに大きな「意義」を感じて参加されていて。「意義」でつながるネットワークに居れたことが心地良かったです。本当にみなさんありがとうございました。打ち上げも楽しみにしています。

来年もDesignshipやりますか?と聞かれると、今のところはわかりません。

というのも今年は、DesignshipとResearch Conferenceという2つのカンファレンスで結果としてリードを務めたことで、自分の最近の研究テーマの1つである「デザイナーの学習とは何か」という問いに答えるためのデータが増えてきたので、それを知識化するべく、時間をかけて研究に本腰入れたい気持ちだからです。しかし今回のDesignshipのような、いつもの自分とは違う環境に身を置き、学習することは、引き続き続けていきたい所存です。

▼RESEARCH Conference2024のポスターセッション長の振り返りはこちら

(告知)他のスタッフが書かれた記事もありますので、Designshipに関わることに興味がある!という方は、あわせてご覧ください。またContentsチームでは他にもいろいろなことに取り組んでいますが、それはコアで取り組まれたメンバーや、当日取り組んだメンバーにお譲りいたします。本当にお疲れ様でした!

▼Brandチームの虎野ともさんの記事。

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