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第4号 テナガエビ

 第4号の特集は人でもなければ、場所でもない「テナガエビ」である。子どもの頃からこのエビを捕まえるのが好きだった。故郷に民宿を開業してから、なんとなく近所の川で久しぶりに捕まえてみるかと行ってみるとたくさんのエビがそこかしこにいる。懐かしさもあって夢中でエビを捕まえ、大人になってもこの遊びは面白いと感じた。それから夏になると、いそいそと川へ足を運ぶ様になった。

・テナガエビとは

 テナガエビとは、その名の通り手が長いエビである。温帯の淡水域や汽水域に生息している。私が営む民宿のすぐ近くの川には2種類ほどのテナガエビがワラワラといるので夏に宿泊される方々を誘って捕まえに行くのが定番化している。手が細いエビもいれば、極太のエビもいる。大きいものならば20cmを超え、川に転がっている石の下などに隠れ潜んでいる。そんなに素早く動くわけではないので大きいエビほど簡単に見つけ捕えることができる。

・捕獲道具

 案内をはじめた時は、手掴みで捕まえることを勧めていた。しかし、小さな子どもや中々エビを見つけることができない人には、手で捕まえることはすぐには難しいようだった。慣れれば本当に簡単な遊びなのだが、はじめから逃げられてばかりだと面白くはないだろうと導入したのがテナガエビ専用の捕獲網だ。細長い竹の棒の先に15cm径の小さな網が付いている。この網が驚くほどに優秀で誰でも簡単にエビを捕えることができるようになった。エビの動きに慣れた後に、少しコツを教えると手掴みでも難なく捕えることができる。1シーズンしか耐えない網だが毎年5本ほど購入してお客さんに貸し出している。捕らえたエビは竹カゴに入れて生かしておく。帰る際には逃してしまうので、虫かごや水槽に入れるよりはエビに負担がかからない。

・楽しい川遊び

 誰でも手軽に捕まえることができる様になったので、更に気軽に川へと誘える。随分昔に護岸工事をしていることと、増水していなければとても安全に遊べる川なので、幸いなことに事故や怪我もなく毎年楽しく川を満喫している。小さな頃は、ひとりきりでテナガエビを捕まえていたので、たくさんの人々とこうしてテナガエビ捕りをするなんて想像もできなかった。多い日には、朝昼晩と別々のお客さんをそれぞれ3回ご案内することもある。この遊びを目当てに再度宿泊されに来る方もいて驚くばかりだ。

・中級者向け

 自在に複数のエビを同時に捕えることができれば、この敷居の浅く他愛もない遊びの中級者といえるのではないだろうかと勝手に思っている。その後は、テナガエビとは捕らえ方が少し変わる魚のハゼを狙うのも面白い。素早く動く川魚を捕まえるのはエビ捕り網では難しいので、目の細かい網を使った方が効果的だ。以前、この細かい網を貸した小学生の兄弟が大きなフナを捕まえていたのには驚かされた。聞けば川で生き物を捕まえるのは初めてだと言っていた。川遊びの才能をビシビシ感じ、三十を過ぎた男が陰で悔しがるというのはなんともいただけないなと我ながら思う。

・今後の目標

 テナガエビ特集だと書いておきながら、最近の私の目標はウナギを罠などを使わずに捕えることだ。釣り上げる方法もあるのだが、そうではなくできれば網と手だけで捕まえてみたい。何故そう思うかといえば、何度かテナガエビ捕りをしている最中に偶然見つけるウナギにことごとく逃げられているからだ。先日もあと少しというところで取り逃がし、後悔が残るばかりだった。同じ装備でいつかウナギを捕らえてみたい。今年の夏は、尊敬するウナギ釣り名人が遠くに出張中なので、独学でウナギに立ち向かおうと試行錯誤中である。

・夏の少年

 大人、それもお父さんがハマるテナガエビ捕りだが、やはり夏の川は少年達が様になる。遊び疲れて帰ろうとする家族や兄弟などはお構いなしに、ただひたすら川の生き物を追いかける夏の少年を見ていると小学生の自分を思い出す。今後はテナガエビの捕り方も網や手掴みではない新たな手法をぼんやり画策中だ。


写真/文 錦戸 俊康

※こちらの特集記事は2017年8月15日に発行した
『天草生活原色図鑑 電子版』の再構成記事です。

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