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第13号 龍華園

 天草市本渡の大浜町にある飲み屋通りの入り口に、なんとも私好みの中華料理店がある。その店の名は「龍華園(りゅうかえん)」だ。話を聞けば今年でなんと開業50周年とのこと。ある会話がきっかけとなり取材させていただける様になった。今号は私が大好きなお店のひとつを取り上げたい。

・初来店は2014年

 私が龍華園に初めて来店したのは2014年の12月。ある撮影仕事の打ち合わせの際、まずはお昼ご飯でもと連れられたことから始まる。入ってすぐに、この店の雰囲気は堪らないなあと感動してしまったことを思い出す。このお店の定番メニューの大盛りを注文しボリュームには圧倒されたのだが、とても美味しいそのメニューにすっかり胃袋を掴まれてしまった。

・定番メニュー「中華ランチ」

 こちらのお店の定番であり一番人気のメニューである「中華ランチ」。その内容は、トンカツと酢豚、そして大きな鳥の唐揚げに千切りキャベツと揚げ卵である。税込850円の中華プレートの食べ応えは抜群。初注文時には、そのボリュームを知らず大盛りをと言ってしまったのだが、出てきたお皿を見て果たして食べきることは出来るのだろうかと狼狽えた。単に量が多いというだけでなく、お腹が極限に減っている時こそ食べたくなるとても美味しいひと皿だ。

・気になるメニュー達

 数年間、中華ランチばかりを注文し続けていることに気がつき、最近では、他のメニューも頼むようになった。ラーメンやパリパリ麺の餡かけはさっぱり目の味付けだが、オムライスはしっかりとした味付け。何の気なしに中華ランチとともに注文した卵スープの量の多さにも驚かされた。常連の方に勧められたもうひとつの人気メニュー・カツ丼もサクサクのトンカツに甘めの卵餡がたっぷりかかっていて、味も食べ応えも申し分ない。注文したことのない品はまだまだあるので、食べ終わってすぐに次回は何を頼もうかとメニュー表を眺めながら内心ニヤニヤしている。

・出前が主体の龍華園

 私は出前対応の範囲外に住んでいるのでまだ未経験だが、こちらのお店では出前の注文がほとんどだそうだ。龍華園のある通りは、その昔とても賑やかだった。しかし、段々と出歩く人が少なくなり店舗数は徐々に減り、今では空き地や空き店舗が目立つ。来店者は減ったが出前の注文は途切れずで、いつも昼時にはおやっさん達が本渡市街地のあちらこちらを駆け巡っている姿をよく見かける。HONDAのスーパーカブに刻印された「龍華園」の文字が最高に格好いい。店内で食事をしていると電話が鳴り女将さんが届け先を厨房へ聞こえるように伝えるのだが、たまに知人や友人の名前が聞こえてくることが可笑しくもあり、みんな注文しているんだなあととても嬉しくなる。

・ある会話

 こちらのお店は、五人兄弟のうちの三人とその奥さま方で営まれている。他の兄弟さんも中華料理店を経営しているそうだ。ある昼餉の時刻を少し過ぎた時間に来店した際、長男さんが出前からとても疲れた様子で帰ってこられた。その時に、出前へ行くことが段々と堪える様になってきたと教えていただいた。

 兄弟の皆さんが、20代の前半で開業した龍華園は今年の10月1日で50年となる。『このお店も、いつまで続けられるかわからないですよ』と聞かされて少し寂しくなってしまった。私など、数年前から月に二、三度食べに来るくらいなものなので、こういう思いを持つことは随分と烏滸がましくもある。どうすることも出来やしないのだが、大好きなこの龍華園をもっと撮影させてもらえないだろうかと頼み込んでいる自分がいた。

 はじめは、この頼みを少し訝しんでいた長男さんと次男さんだったが、女将さんも一緒になってぽつりぽつりと開店した時のことや、これまでの出来事を教えてくださった。鶏ガラからスープをしっかり取っていることや、作り置きは一切せずに注文を受けてから作った出来たてを出すことが信念であるということ。タイル張りの厨房は草臥れてはいるけれど、毎日しっかり掃除をしていること。朝7時から仕込みを始め、昔は夜中まで飲む人も多く毎晩遅くまで店を開けていたこと、不定休なのは検診に行く日だけは休むからだということ。出前に使っている「岡持ち」は次男さんの手作りで、年季の入った左の岡持ちとピカピカに見える右の岡持ちは同時期に作ったもの。出前に出場する左の岡持ちの面構えが中々である。持ち手の部分が少し上げてあり持ち運びしやすい工夫が施されており、こちらのタイプは最大三段まで積める。近頃は出番が少なくなったが、もっと段数が多いものもあるそうだ。本当に色々なことを教えていただいた。

・今日も電話が鳴り響く

 また店の電話が鳴っている『〇〇医院に中華ランチふたつ!』と女将さんの声が聞こえてきた、次男さんと四男さんが手際よく「中華ランチ」を作り上げ、長男さんが岡持ちに手早く納め、スーパーカブで颯爽と走り去っていった。昭和の男達の格好よさと強靭さに惚れ惚れしながら今日も美味しいお昼ご飯をいただく若輩者。どこか寂しい気持ちもあるけれど、今は6月から始まる季節のメニュー「涼麺(冷やし中華)」が楽しみでならない。まだ夜の龍華園には行ったことがないので、今度は夜に伺おう、ビールと八宝菜を注文してみようと今から心が躍っている。

写真・文 / 錦戸 俊康

※こちらの特集記事は2018年5月15日に発行した
『天草生活原色図鑑 電子版』の再構成記事です。

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