第3号 白鶴浜海水浴場
今号の特集は天草市天草町高浜にある「白鶴浜(しらつるはま)」という海水浴場だ。何年か前に、天草各所の海水浴場を撮影する仕事がきっかけで沢山の海水浴場を回ったが、その中でも特に白鶴浜は私が好きな海水浴場のひとつとなった。
・その名の由来
天草下島の西側にある白鶴浜の由来は、天然の白砂の浜が1.3㎞あり、白い鶴が翼を広げたように見えることからその名がついたそうだ。ビーチの中央の岩場を挟んで南側は海水浴場、そして北側は離岸流が強くサーファー向けと分けられている。クラゲが出始めるお盆の前のハイシーズンであっても、まばらな客入りでゆっくりのんびりと海水浴を楽しめる。
・周辺施設
松林の中やビーチ周辺に海の家、シャワー室が点在し、夏のハイシーズンには海の家でかき氷や軽食を注文できる。「昔は天草といえば九州の一大リゾート地だったんだよ」と話してくれたお爺さん。こちらの海水浴場も今となっては信じられないほど大勢の海水浴客で賑わっていたそうだ。そんな時もあったのだろう、当時の名残が各所に見られる。現在では主に稼働している海の家も一、二軒だけのようだ。キャンプ場も隣接しておりバーベキューも可能とのこと。
・はつぼかに(キンセンガニ)釣り
浮き輪やバナナボートのレンタルができる受付所に、見慣れぬ名前のカニの写真と釣竿が立てかけてある。「はつぼかに」とはこの辺りの呼び方で正式名称は「キンセンガニ」という。殻はずんぐりと丸みを帯び各所には鋭利な棘があり、色は黄色く、ハサミ以外の足は鰭のようになっていて水中の移動や砂に潜るのが得意なカニだ。
レンタルできる釣竿には煮干しなどが入ったネットが下げられていて、白浜の波打ち際に垂らすと、砂の中からボコボコと沢山のキンセンガニが現れネットに群がってくる。釣り針などが付いているわけではなく、ネットに引っかかったカニを釣り上げるとても簡単な遊びだ。朝方や夕方に活発になるので、面白いように続々と釣れるのだが、昼間は全くと言っていいほど釣れない。他の海水浴場でも稀に見かけるが、白鶴浜の数は群を抜いているようだ。
この手の生き物が好きな私は、他愛もなくてよく分からない「はつぼかに」釣りが何故だか大好きである。一部の地域では食用にもするそうだが、この周辺では食べないそうだ。挟む力が強いらしく、お腹を見せようとしてくれたおじさんやおばさんは指を挟まれて出血していた。
・サーフポイント
天草でサーフィンができるポイントは西海岸が主でこちらの海水浴場もそのひとつである。昨年より、地元のサーファーさん達を積極的に撮影するようになったので、夏以外の白鶴浜へ行く理由が増えたのである。真冬でもいい波があれば、寒かろうが雪が降ろうが海へと向かっていく人々なので、タイミングさえ合えばもっともっと撮りに行きたいと思っている。
海水浴場の中央にある岩場を隔てた北側では、年中波乗りを楽しんでいる人々の姿を見かける。夕暮れ時の誰もいない浜辺で、ひとり波と戯れている人を眺めていると、なんだかとても贅沢な時間を過ごしているように見えて羨ましい。
海の人々を撮るには自らも海へ入らなければと思い、シュノーケルと水中用のコンデジを使ってはみたがしっくりこず、やはり一眼にハウジングしないと満足することは出来なさそうだ。
・長閑な海水浴場
私は海で泳ぐこと自体は特段好きなわけではない。どちらかといえばインドア趣味の自然派でもない私が、この海水浴場へ来てしまう理由はなんとも言えぬ草臥れた長閑さにあるのだと思う。漠然とした理由だが、白鶴浜海水浴場は私にとって、とても落ち着く場所なのだ。天草各所には、もっと海水浴客が多く賑やかな海水浴場も勿論あるし、物凄く綺麗なのに人っ子ひとりいない貸切状態の砂浜もあるのだが、こちらの白鶴浜は現代とは思えぬ野暮ったさと、気さくな人々、昭和のテイストが各所に多く残っている塩梅がとても気に入っている。
そんな景色もいつまで見られるのだろう。夏は私の宿仕事も稼ぎ時なので、終日をこちらの海で過ごせるということは滅多にない。大賑わいしていたという当時の姿も見てはみたいが、現状の海水浴場の雰囲気がとても良いなと思う。いつか時間を忘れて浜辺や海の家でゆったりとビールを飲んでみたい。今年はまだ夏の白鶴浜へは行っていないのだが、海の家のおばちゃんに「お!写真のお兄ちゃん今年も来たね!カニ釣ってく?」と言われることが私の密かな楽しみなのである。
写真/文 錦戸 俊康
※こちらの特集記事は2017年7月15日に発行した
『天草生活原色図鑑 電子版』の再構成記事です。
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