荒井と平井 ②
【アライとヒライのこと】(後編)
ふと気がつくと『アライ』が窓の外から僕の引っ越し準備の様子を伺っていた。
『アライ』は、この辺りの畑を食い荒らす事で評判のアライグマに僕が付けた名前だった。
回覧版ではアライグマには決して餌を与えないよう、そして噛まれてウィルスに感染せぬように厳しく注意喚起されていた。
『アライ』は、窓の外から僕の引っ越し準備の様子をしばらく伺ってから、引っ越し先の『ヒライ』について詳しく聴きたいと言った。
僕は『アライ』に、ここからだと半蔵門線の錦糸町から総武線に乗り換え、千葉方面へ2つ目の駅が『ヒライ(平井)』だと答えた。
『アライ』は僕とこの街の住み心地についてしばらく話した後、大切な用件でも思い出したように去っていった。
『アライ』が『ヒライ』に引っ越す僕を見送る。
この街に僕と同じような生きづらさを感じている『アライ』は、もしかするとこの街でできた唯一の友達だったのかもしれない。(終)