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【連載小説 #02】昭和レトロ吹奏楽部で普門館を目指す! ~チートは知恵だけ、異世界じゃない転生!?~知らない日々の始まり

前回の作品

知らない日々の始まり


 また、目が覚める。今度は一度見たことがある天井が目に入る。どうやら、昨日と同じ部屋だ。「何も分からないこと」が分かった状態。ソクラテス的な人がそのようなことを知ってる分、まだましだ、とか言ってた気がする。しかし、分からないのだから、調べるしかない。

 どうやら喉は乾いている。なんなら腹も減ってる。テーブルにある水を飲んでみるが、特にびかーッとか光ってどうにかなるものでもなく、普通の水。上半身をともかく起こしてみたが、なんかふわふわした感じはあるけど、これも普通。上はTシャツ、下はジャージ。なんだ、この変な色のジャージ※006は。

 昨日のことも少しずつ思い出してきた。そうだ。何も分からない状況は変わってない。そして、女神はまだ現れてない……いや、なんか来た。ドタドタとキンキンのセットだ。

「お兄ちゃん!起きた!良かった!」

 あ、ドキンちゃん。そして、分かったのはそれだけ。この世界の第一住人ということだけ。

「だいじょうぶ?なんか昨日変だったけど。頭打ったし。」
「(あ、そのようなことがあったのだな?)うん、大丈夫。でも、色々分からないんだけど……。妹なの?オレ、誰?」
「おかーさーん!」またドタドタとキンキンをフェードアウトさせながら、たぶん一階に戻っていったようだ……。

 とにかく起きてみる。何かこの世界を知る手掛かりはあるはず。と思う間もなくザ・勉強机、みたいな机の上にある教科書に目が留まる。高校一年、数学Ⅰ。ほうほう。自分は高校一年ですか。そして教科書に書かれた名前に目が留まる。『栗木 颯太※007』。くりき……そうた、これが自分の名前?くりそー?クリームソーダ?甘い系?かなり重要な情報のはずなんだけど、まったくピンとこない。

 動き出さないことには何も始まらないし、これが小説ならばいい加減展開しろ、と言われそうだ。そんなわけで、クローゼットがあるので、かかっていたパーカーを着て行動開始。なんかコットンの分厚い感じ※008。好き。今どうでもいいけど。

 家族の声がする、って感じの音を頼りに一階に降りてみる。なんか、壁がざらざらしてるんだけど。手になんかラメみたいなのが付くんだけど※009。やっぱりおばあちゃんの家みたいだ。

「颯太、だいじょうぶ?」「良く寝てたな、平気か?」

 絶対母親と父親だ。ごめんなさい、まったく知らない人です。でも優しい心配そうな声で、少し心が落ち着く。朝ごはんの時間ということで、空いている席に座ってみる。

「色々覚えてないんだって?無理しなくていいから今日はゆっくりしなさい、日曜だし」

 あいまいな返事をしながらも、やっと日付けに関する情報が来たことに少し安堵。そして、猛烈に腹が減っていたことに気づき、パンと牛乳と目玉焼きと……。んん?何?このでっかいミカンの半分みたいなもの※010。これ以外の食べ物はあまり違和感ないんだけど、周囲が違和感だらけ。なんですか、そのテレビ※011、画面は丸いし小さいし昔のドラマみたいな。冷蔵庫は緑で上に小さいドア、下に大きいドア。知ってるサザエさんに登場してるヤツ※012だ!ともかく、目に入る光景がレトロ。

 少ない会話でいくつか分かった。

 どうやら自分は木曜日に学校で濡れた廊下で端って滑って転んで、ついでに頭を打って意識朦朧。それで様子を見て1日入院、タクシーで帰宅 して寝てたら、丸一日寝てたって?大丈夫か?自分。

 今日は無理するな、という言葉に甘えて、自室らしき部屋に戻り、あれこれと分からないことを整理してみることにする。今のところ分かってるのは、

 名前:栗木颯太
 年齢:高校一年生のようなので15~16歳
 時代:古い
 家族:父母、妹
 日時:今日は日曜日

なるほど。ほぼ分かってませんな。

 部屋に戻ってじっくりと調べてみることにするか。全く自分が分からないって、あたりまでだけど初めての経験で。分かったのは、自分はこんな事態でも落ち着いていること。というより、暴れてもしょうがない、ってことなんだろう。自分の部屋をいろいろ探ること……くらいしかやることはない。

※006 変な色のジャージ
当時(これから年代は分かってきます)の学校指定のジャージはデザインなどは全く考慮されおらず、さらに学年ごとに色を分けることが多かった。

※007 颯太(そうた)
当時の名前ではほとんどお目にかかれない漢字。主人公がこの時点で読めるのは、この名前が普通だった時代から来たということだろう。この時代の両親は色々と考えてこの名前を付けたに違いない。

※008 コットンの分厚いパーカー
パーカー、トレーナー、といったアイテムがはやり始めたころから、チャンピオンは若者たちの支持を得ていた。このパーカーもチャンピオンだったかもしれないが、おなじみのマークが袖に着くのはこの時代よりもう少しあとである。

※009 ラメみたいな
現在のように「ビニールクロスの壁」が主流になるまでは当時の住宅では良く使われていた綿壁(わたかべ)と呼ばれる壁。繊維質と糊を混ぜて、そこになぜかキラキラ光るナイロン系を加えるのも主流。ぼろぼろと崩れやすく、手にキラキラが付着するのが当たり前。さらにどの家に行ってもこの壁が当たり前だった。

※010 みかんの半分
グレープフルーツが朝食のデザートで出た模様。グレープフルーツは、当時、半分に切って砂糖かはちみつをかけて、ギザギザのスプーンですくって食べる、ということがかなり一般的。現在は、比較的強い酸味が敬遠され、消費量もかなり落ちている。また、この半割にする食べ方をする家庭も少なくなっている。

※011 テレビ
当時のテレビは「ブラウン管」と呼ばれるガラス製の丈夫なチューブに画像を投影していた。チューブは奥行きが非常に長く必要だったため、テレビという製品は必ず今とは異なりかなりの厚みがあった。PRINCESS PRINCESSのDiamondsの歌詞に登場する「ブラウン管」というのは、テレビ、ということ。また、画像が投影される部分の周囲がやたら分厚いのも特徴。四角い面積の60%が画面、という製品はザラ。絵を観ているのか、テレビという製品を見ているのか分からないほど。

※012 サザエさんに登場する冷蔵庫
昭和44年から放映されていた今も続く国民的アニメ。東芝が提供だったため、磯野家の家電は比較的充実していた。その中で、冷蔵庫はあまり変わらず、今はあまり見かけない緑色。

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にしけん
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