ゲームとことば#97「今さら常識に遠慮する気もない」
摩訶不思議な現実を受け入れるときに使う、とてもおしゃれな言い回し。
『ペルソナ5』は、主人公たち「怪盗団」が異世界で醜い大人の心を盗み、改心させていくというストーリー。
異世界とは、歪んだ欲望を持つ人が心の中に作り上げた世界で、不思議な力を持つ主人公たちにしか行き来できない。
「心を盗む怪盗団」は主人公をリーダーとする高校生集団で、それぞれ何らかの形で悪い大人たちに虐げられてきている。
ストーリー序盤に怪盗団に加わることとなった喜多川祐介は、高校の美術科特待生、画家である。
彼は主人公たちのお節介によって、絵の師匠であり育ての親でもある斑目一流斎の醜悪な心の世界に入り込んでしまう。
主人公の「信じられないか?」との問いに「いや信じるさ…あんな世界を見た後だ」と応え、表題のことばを続ける。
具現化した自身のもう一つの人格である「ペルソナ」や、現実をモチーフにしながらも奇抜な風景が広がる異世界「パレス」、そのパレスにはびこる怪物「シャドウ」など、これらはどれも常識では受け入れがたい存在だ。
それらを一度に体験し、そのうえ耳をふさぎたくなるような師の本心を聞かされた祐介だが、混乱を乗り越えて落ち着き、こんな素敵なことばを返したのである。
グラフィックやBGM、UIなどがおしゃれな本作だが、こういったセリフ1つとっても実にカッコいい。
中でも芸術家肌の祐介はいちいち言葉選びが美しい。
顔やスタイルも整っていて、なかなかずるい奴だ。
一方でどこか少し人とずれていて、時々、突飛な言動をかます。
有り金をはたいて海水浴場で伊勢海老を買ったり、なんの相談もなく女の子の家に住まわせてもらおうとしたりと、涼しい顔をしながらやりたい放題だ。
とまあ、個性の強いキャラなのだが、その都度仲間からツッコミは入るし基本は礼儀正しい子なので、「ちょっと変わってるけどいいやつ」ですんでいる。
ただ、過去作より大きくグラフィックが進化した本作では、これ以上個性の強いキャラクターは描きにくいだろう。
キャラの頭身が上がり街や学校もリアルに描かれる分、ビジュアルやキャラ設定が濃すぎる存在は浮いてしまうから。
実際、5はそれまでのナンバリングシリーズと比べると、キャラの背景やギャグシーンが少し現実味を帯びたものになっている。
巨大財閥の御曹司やご令嬢、トップアイドルが常に行動を共にしたりはしない。
誤解のないように言っておくが、もちろん過去作の彼ら彼女らも大好きである。
よりリアルに再現された現代東京に合わせたキャラ個性の出し方、その塩梅が素晴らしいという話だ。
常識に遠慮はしなくてもいいかもしれないが、無視はできない。
きちんとその世界に馴染んだうえで、強い個性を発揮する。
そんなキャラクターが作品をより魅力的にするのだと思う。
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