
「アラビアの夜の種族」の書き出し1文を読んでみた。
アイユーブという若者を紹介したい。
好きな小説をあらためて読む。なぜこの1文から始まったのだろう。
とても紳士的な書き出しだ。
サクサク紹介してくれてもいいのに、律儀に「紹介したい」と言ってくれる。
こちらとしては「どうもご丁寧に。それではよろしくお願いいたします」てなもんよ。
本作は、ナポレオンの侵攻に対峙する、エジプトのカイロを舞台とした作品だ。
圧倒的な武力を持つナポレオン軍を撃退する秘策として、『災厄の書』というものがあるらしい。
その本は一度手に取ると、寝食を忘れて読みふけってしまうほどの魔力があるのだという。
本好きで知られるナポレオンならば、その魔力によって侵略の手を止めるだろう。とのこと。
さてその本の内容とは・・・
といったストーリーで、ミステリアスな異国情緒と冒険心くすぐる展開が魅力だ。
重厚壮大な作風のはじまりとして、「慇懃」とまではいかなくても、ある程度襟を正した挨拶は必要だろう。
その方が誠実だ。
この誠実さは「読者」に対してではなく「世界観」に対して、だと思う。
これからご紹介する物語の世界は、ある若者から始まる。
なのでまずは、その若者から紹介しよう。
そんな礼儀正しさだ。
この書き出しから私は、「丁寧に話を始めるに値する内容ですよ」という物語に対する矜持みたいなものを感じる。
≪前回取り上げた小説≫