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『日本通運のシステム開発訴訟、指摘多数の原因は「特殊な検収」とアクセンチュアは反論」』という記事を読んで


大手コンサルティング会社の陥りやすい問題

今回は心理学がテーマではありませんが、プロマネ経験者としてとても気になる記事だったので感想を書かせて頂きます。
(この記事の案件と筆者はまったく関わりがなく、記事を読んでの気づきや感想にすぎませんので、ご了承ください。)

昔、他の大手コンサル会社のSAP導入プロジェクトの火消しを任された経験がありますが、①要件定義がUAT(ユーザー受け入れテスト)レベルに落とし込まれていない、②テスト計画が荒すぎて、ユーザーの理解と協力を得られていないことに大きな問題がありました。
上流に強いコンサル会社でも品質への意識が低いと結局PJは破綻してしまいます。
プロジェクトマネージャーはこれらのリスクについて注意すべきです。

ERP導入プロジェクトの7割は失敗?

Deloitteの報告書によれば、ERPプロジェクトの55%から75%が目標を達成できないと言われています。つまり失敗ということです。

(参考)Deloitteのレポート「Your guide to a successful ERP journey」
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/mx/Documents/human-capital/01_ERP_Top10_Challenges.pdf

V字モデルの意識が低いことが大きな原因

私自身の経験から、上流が得意な大手コンサルティング会社がERPプロジェクトの導入を行う場合、プロジェクト管理において 「V字モデル」 の意識が低く、プロジェクト炎上の原因になるリスクが高いのではないかと考えます。
コンサルティング会社が構想策定や業務要件定義のような上流案件を獲得する上で、システムの品質というのは問われないので、意識が低いのは仕方がないのかもしれません。しかし、顧客企業の囲い込みとビジネス規模を大きくするために下流フェーズまで提案するのであれば、システム品質は重要なポイントになります。

V字モデルとはウォーターフォール型開発において開発工程とテスト工程を詳細さのレベルに応じて対に並べ、各工程の対応関係を明示した開発手法・モデルです。

(参考)V字モデルの図 (SHIFTのWEBページより
https://shiftasia.com/wp-content/uploads/2021/03/V-model-1.png

詳しくは以下のSHIFTのWebページが参考になります。

このV字モデルの図を見ればわかると思いますが、ユーザー受け入れテスト(UAT)の対になるのは要件定義であり、要件定義での成果物の網羅性や整合性の問題が噴出するのはユーザー受け入れテストのフェーズです。
最終工程であるユーザー受け入れテストで問題が噴出するとプロジェクトの損害規模は大きくなるので、できるかぎり回避しなければなりません。
しかし、上流である要件定義までしか経験したことがないプロジェクトマネージャーやコンサルタントは、品質という観点でのチェックが甘くなりがちです。

同時にテスト計画の甘さも悪影響

また、品質に対する意識が低いと、プロジェクト計画において、テストの工数や期間の見積もりが甘くなったり、ユーザーが受け入れテストのやり方を具体的にイメージできない専門用語でテスト計画書を記述し、十分な理解が得られたか確認せずに機械的に次工程へと進めてしまうため、ユーザーの協力を得られないリスクも高くなります。
グローバル展開しているコンサルティングファームは、独自のERP導入方法論を持っており、独自の専門用語を定義していますが、それがわかりにくく同社のコンサルタントでさえもちゃんと理解していないケースが見受けられます。当然、そのような表現でテスト計画を説明されても、ユーザーである顧客は理解できず、ユーザー側でやるべき業務を理解しないまま、プロジェクトが進み、ユーザーにとっては想定外のタスクが発覚し、スケジュール遅延が生じたり、最悪、紛争が発生してしまいます。

真のERPコンサルタントを育ててほしい

大手コンサルティング会社は効率性を高めるため分業をすすめる傾向があるように思います。
下流工程はSIerなどと競合するため、できるだけ単価の低い若手や下請け業者に任せようとします。
他のメンバーや他のベンダーに下流工程であるテスト計画やユーザー受け入れテストの設計を任せることが常態化してしまうと、苦労や経験を重ねることができず、テスト品質の問題認識が甘いまま、他のプロジェクトでも失敗を繰り返してしまいます。
要件定義の担当者だけでなく、プロジェクトマネージャーも経験がなかったり、認識が甘いケースも見受けられます。
要件定義を行う際は、ユーザー受け入れテストの仕様も同時に設計する意識で行うことを是非お勧めします。
また、分業体制を徹底し過ぎると、経験に偏りができてしまい、真のERPコンサルタントが育ちません。
コンサルティング会社の役員や管理職は、この問題にしっかり向き合って対策を考えてもらえると幸いです。


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