【非専門医向け】女性とてんかんの基礎知識

いなか病院の一人脳神経内科医が時代から取り残されないよう、米国神経学会Review雑誌であるNeurology Continuumで勉強した内容を書いてます。

Neurology Continuum 2022年4月は てんかん がテーマでした。今回は、「女性とてんかん」を勉強しました。

女性てんかん患者さんの、妊娠、出産、授乳、閉経後における管理の特集でした。妊娠には、避妊や体外受精なども含まれています。さらには、2022年の時点でトランスジェンダーの方への内容も記載されていました。産科以外の非神経専門医の先生方が診療することはないと思いますが、患者さんから聞かれそうな内容を整理してみました。

日々の臨床に活かせそうなポイントは、

  • エストロゲンの変化がてんかん発作の閾値を変動させるため、内因性のホルモン変化(月経、閉経)だけでなく、外因性(不妊治療や避妊薬)も発作に影響を与える。

  • てんかんそのものでは妊娠率は下がらない。

  • 妊娠可能な女性患者さんには、レベチラセタム、ラモトリギンを使い、妊娠前の発作が落ち着いている状態での薬剤血中濃度を測定しておく。

  • 妊娠前から少量の葉酸投与を行なう。

少しでも女性てんかん患者さんの不安感を取り除ければと思います。

誰かのお役に立てれば幸いです。

Reference
Bui E. Women's Issues in Epilepsy. Continuum (Minneap Minn). 2022 Apr 1;28(2):399-427. doi: 10.1212/CON.0000000000001126. PMID: 35393964.


ホルモンとてんかん

  1. てんかんの女性はホルモンの影響を受けやすいと聞きますが、具体的にはどのようなことですか?てんかんの女性は、ホルモンの影響を受けやすく、月経周期、思春期、更年期に症状が悪化する可能性があります。エストロゲンは発作閾値を低下させる可能性があり、プロゲステロンは抗発作作用があると考えられています。

  2. 月経周期とてんかん発作の関係性について教えてください。月経周期に関連したてんかん発作は、「月経周期性てんかん」と呼ばれ、エストロゲンとプロゲステロンの比率の変動が影響していると考えられます。月経開始時(C1パターン)や排卵時(C2パターン)に発作が増加しやすくなります。

  3. 月経周期性てんかんの治療法は?現時点でFDAに承認された治療法はありませんが、症状やパターンに合わせて、天然プロゲステロン補充、クロバザム、アセタゾラミドなどが検討されます。

  4. てんかんを持つトランスジェンダー女性特有の注意点は何ですか?バルプロ酸などの抗てんかん薬は、脱毛、多毛症、体重増加などの美的副作用を引き起こす可能性があり、トランスジェンダー女性にとっては精神的な苦痛を伴う可能性があります。また、性ホルモン剤と抗てんかん薬との間には相互作用があるため注意が必要です。

  5. てんかんの女性は妊娠しにくいという話を聞きますが、本当ですか?以前から不妊の要因となる問題を抱えている場合を除き、てんかん自体は妊娠率に大きな影響を与えません。

妊娠とてんかん

  1. てんかんの女性が不妊治療を受ける場合の注意点は?排卵誘発のために用いられるゴナドトロピン療法や、月経周期調整のために用いられるエストロゲン製剤は、いずれも体内のエストロゲンレベルを上昇させるため、発作閾値を低下させる可能性があります。ラモトリギン服用中の場合は、薬剤レベルを低下させる可能性があるため注意が必要です。

  2. てんかんの女性は不妊治療を受けても妊娠する確率は低いですか?てんかんの有無にかかわらず、体外受精の成功率は同等であるという研究結果が出ています。

  3. てんかんの女性が妊娠を希望する場合、避妊についてどのように指導すればよいですか?てんかん治療薬の中には胎児に奇形を引き起こす可能性のあるものもあるため、妊娠を希望する場合は事前に計画を立て、適切な避妊方法を選択することが重要です。

  4. てんかんを持つ女性に推奨される避妊方法は?てんかん治療薬との相互作用を考慮する必要があります。酵素誘導性抗てんかん薬を服用している場合は、デポ型のメドロキシプロゲステロン酢酸エステル注射や、レボノルゲストレル放出IUS、銅付加IUSなどの避妊方法が推奨されます。

  5. 妊娠中のてんかん発作は胎児にどのような影響がありますか?長時間続く痙攣発作は、母体と胎児の両方にリスクをもたらします。胎児は低酸素状態や乳酸アシドーシスに陥る可能性があります。また、焦点発作でも胎児徐脈や胎児ジストレスが報告されています。

  6. 抗てんかん薬は胎児にどのような影響を与えますか?抗てんかん薬は、胎児に奇形や認知・行動障害を引き起こす可能性があります。特にバルプロ酸は、神経管、心臓、泌尿生殖器の奇形との関連が指摘されています。

  7. バルプロ酸は胎児に奇形を引き起こす可能性が高いと聞きましたが、具体的にどの程度の確率ですか?バルプロ酸を服用している妊婦から生まれた子供は、そうでない子供に比べて、主要な先天性奇形の発生率が2~5倍高くなります。

  8. バルプロ酸以外の抗てんかん薬では、胎児へのリスクは低いのでしょうか?バルプロ酸は最もリスクが高いですが、フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピン、トピラマートなどもリスクが比較的高いです。レベチラセタム、ラモトリギン、オクスカルバゼピンは、比較的リスクが低いとされています。

  9. 抗てんかん薬による胎児へのリスクを減らすにはどうすればよいですか?抗てんかん薬は、可能な限り低用量で使用することが重要です。また、妊娠前に葉酸を服用することで、神経管閉鎖障害のリスクを減らすことができます。

  10. てんかんの女性が妊娠中に服用できる葉酸の推奨量は?妊娠を希望するてんかんを持つ女性には、1日0.4mgから5mgの葉酸を服用することが推奨されます。

  11. 妊娠中の抗てんかん薬の血中濃度の管理について教えてください。妊娠中は、ホルモンバランスや代謝の変化によって、抗てんかん薬の血中濃度が変動しやすくなります。そのため、定期的な血中濃度モニタリングを行い、必要があれば薬剤の投与量を調整する必要があります。

  12. 妊娠中に抗てんかん薬の血中濃度が低下した場合、どのような対応が必要ですか?妊娠前の血中濃度から35%以上低下した場合、発作のリスクが高まる可能性があります。

  13. てんかんを持つ女性の産後ケアで注意すべき点は? 産後は、抗てんかん薬の血中濃度が上昇する可能性があります。特に、ラモトリギンは急激に上昇する可能性があるため、注意が必要です。

  14. てんかんを持つ女性は授乳しても大丈夫ですか?抗てんかん薬を服用中の女性でも、授乳は一般的に安全とされています。ただし、服用している薬剤によっては、母乳に移行するものもあるため、注意が必要です。

その他の疾患とてんかん

  1. 抗てんかん薬を長期服用している女性は、骨粗鬆症のリスクが高まると聞きますが、本当ですか?抗てんかん薬は骨代謝に影響を与えるため、骨粗鬆症のリスクを高める可能性があります。定期的な骨密度検査や、カルシウムやビタミンDの摂取が推奨されます。


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