東京
喫茶店にネタ合わせをしにいった。
その喫茶店はまだ見つけたばかりの場所だが
なんとも居心地が良くて
アイスコーヒーが美味しくて店主のおじさまが
ダンディーでチーズケーキがとっても美味しい。
今日は暑かった。
涼しいテーブル席で喉を潤しながら
あーでもないこーでもないとネタ合わせもせず
世間話をする。しまいには最近流行の
face appで遊ぶ。
さぁ本題に入ろうとしたところで
カウンターに座っている男性が目に入った。
何故だかとても気になったのだ。
悪いとは思いつつバレないようにガン見する
ん?アレ?ん?ん?もしかして…
その男性は渡辺大知さんだった。
今は活動休止中の黒猫チェルシーのボーカルで
色々な映画やドラマにも出てらっしゃる
俳優でもありバンドマンでもあるスーパースター
目の前にいる椎木の話が全く頭に入ってこない
何故なら私の高校時代の青春を捧げた
バンドの一つが黒猫チェルシーなのだ。
前にも書いたがめちゃくちゃ平凡で
つまらなくて飽き飽きとしていた
私の学生生活を救ってくれたのは
紛れもなく音楽とお笑いで
文化祭を抜け出してクアトロで行われた
黒猫のワンマンに行ったこと。
東高円寺のUFOクラブでMAX緊張しながら
出番終わりフロアにいる渡辺さんと
ギターの澤さんに
iPhoneケースにサインを貰ったこと。
渡辺さんが主演していた
色即ぜねれいしょんなんて100回は観た。
好きな映画は?と聞かれたら
毎回、色即ぜねれいしょんと答えている。
色々な私の青春時代の記憶が目の前にいる
渡辺さんを見てポロポロと溢れ出てくる。
口をパクパクさせながら目を泳がせている私を
見て椎木も感じ取ったのだろう。
「どした?」
「あっへ、かう、カウンターにだ、だいちくんが座ったら、座ってる…!!!!」
出来る限り最小の声で伝える。
椎木に色々と説明をし
私は決意をする。
「椎木、聞いてくれ。さすがに他のお客さんもいるこの状況で声をかけることは私にはできない。しかし、私のつまらない青春を支えてくれた感謝をどうしても伝えたい。誰にもバレずに一番スムーズに感謝を伝える方法。それは手紙だ。ノートの切れ端に感謝の思いを忍ばせこのアイスコーヒーを飲み終わったら、お会計をし、ダイチくんが座っている席の後ろを通る時に、これ落とし物ですよ。と特製切れ端手紙を渡して颯爽と店を去る。これならおこがましくもなく他のお客さんにバレないし嫌な気持ちもしないだろう。君は相棒だもちろん協力してくれるね?」
我ながら完璧だと思った。
日頃から色んな妄想をしておいてよかった。
今は無き魔法のあいらんどありがとう。
「うーんちょっとひいちゃうんじゃね?www」
椎木が放った言語を理解するのに
4分半かかった。
確かに。なんか練りすぎて気持ち悪いかもしれない。
椎木に初めて感謝の気持ちを持った。
続けざまに椎木は言う
「渡辺さんが店を出る時に直接話しかければいいじゃん!!」
椎木が放つ言語はどれもギャルみてえだなと
思った。
皆様もそうすればいいのにと思うかもしれない。
しかし私の青春を支えてくださった
スーパーヒーローに容易く話しかけるなど
私にはとても出来ないのだ。
私だってもちろん話しかけたい。
夢の中でならもうお互いの部屋だって
行き来してる。
でも話しかけでもしたらきっと私は
号泣してしまう。
目の前でまんまるの女が泣き出したら
恐ろしいに決まってる。
ただでさえ顔面がチャッキーなんだ。
椎木とアレコレと策を考えてるうちに
ダイチくんは店を出て行ってしまった。
店を出て行く後ろ姿を見ながら
私は煙草をふかすことしかできなかった。
今日のアイスコーヒーは
やけに苦く感じた。
さぁ私よ悔いることなどせず
布団に入ろう。
大好きな「東京」を聴きながら
いつか共演できる日を夢見て。
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