時空を旅する 相対性理論って何!
相対性理論 佐藤勝彦著 NHK出版
久し振りに物理の書物を読みたいと思い、図書館にてふと手に取ったのは、佐藤勝彦さん著作の相対性理論という本。佐藤先生は、京都大学にて
宇宙物理を研究されていたそうで、宇宙のインフレーション理論を発表されている。特殊・一般相対性理論が、すごく平易に説明されて非常に
解り易い。
物理学の分野で力学と呼ばれる分野がある。リンゴが木から落ちるのを
見て、ピンときたニュートンは、リンゴが地球に引き寄せられているから
落ちるんだ、という気付きから重力を発見する。1mの高さから手のひらで落ちるリンゴを受け止める時の手への衝撃とリンゴと同サイズの重い石を
受け止めた際の衝撃を比較して、重力は、物の重さ(質量)に比例して
大きくなる。同じリンゴを1mの高さから落とした場合と10mの高さから落とした場合の手への衝撃の強さから高い方が衝撃が大きい、これは、高い所から落とした方が、落ちるに従い益々速度が速くなり、その為に手への衝撃が大きくなる。則ち、加速度が大きいとそれだけ落ちる速度が速くなるので衝撃が大きくなる。これらの事実から、力(衝撃力)は、質量と加速度の積に拠ると推測しニュートンの方程式(F=ma;Fは力、mは質量、aは加速度)を導き出した。このニュートンの方程式は、今では、古典力学と呼ばれている。
ニュートンの方程式は、僕らが海辺で水平線を見て、地球は平坦で海の果ては、滝になっていて、水がナイアガラの滝の様にゴウゴウと流れ落ちて
いると想像していた時代の産物に似ている。
(僕の明治生まれのお祖母ちゃんも水平線の向こうには滝があるって小さい頃信じていたと言ってた)
実は、地球は丸くて、海を航海すると、又、元の地点に戻って来ることが
出来る。この視点から見ると、北海道の地球岬に立っている人からは、
水平に見えるものが、例えば、月から地球岬を見ている人を見ると、
丸い星の一点に立っている事が分かる。
アインシュタインの相対性理論は、これに似ている。
お互いの速度は相対的で、例えば、時速40㎞で走る車に乗っている人が、
時速60㎞の車に追い抜かれた時、相手の車は自分に対し時速20kmの速さで進んでいると感じる。つまり、速さは、相対的で自分と相手の速度により
違って見えるというのが、僕ら地上に住んでいる住人の普通の感覚である。
でも、光の速度だけは、この速度の相対性が成り立たない、則ち、光の
速度は不変で変わらない(マイケルソン・モーリーの実験)という事実に
基づいて、じゃ何が起こるのと考えて行った先に行きついたのが相対性理論である。
ここで、次の絵を見てほしい。
進行している電車の中で前の壁と後ろの壁に向かって同じ速度でボールを
投げる場合、電車の中の人は、ボールが同時に前の壁と後ろの壁に衝突するように見える。しかし、地上の人から見ると、前に投げたボールは、電車が走った分、壁に届くまでに車両の半分より長い距離を進むが、ボールの速度は、元のボールの速度に車両の速度を加えたものに見える。もう一枚の絵を見て欲しい。
ボールと同じ実験をボールの代わりに光でやってみたものである。光の速さは秒速30万キロメートルなので、本来ならあっという間に届いてしまい計測不能であるが、それを正確に測れるセンサーがあるものと仮定して考える。ボールの実験と同様、車内にいる人は光が車両前後の壁に同時に届く様に見える。しかし、地上にいる人が見ると、光の速度はどんな場合も変わらない為、光が前の壁に届くまでの距離は、車両が進行している分、車両の半分の長さよりも長くなり後方への距離は短くなる為、光は、先に後ろの壁に到着し、少し遅れて前の壁に到着する。電車に乗っている人には同時に見えた光の前後の壁への到着が、地上で見ている人にとっては、到着時間にずれが生じてしまう。これが、アインシュタインのいう「同時刻の相対性」である。アインシュタインが言いたかったのは、「時間というものは、私達が考えていた様な唯一絶対のものでない。時間とは、相対的なもので見る人の立ち位置に拠って、時間の尺度は延びたり縮んだりするという事である。
それでは、運動している人の時間の進み方が遅れるという事を説明したい。次の絵を見て欲しい。
長さ15万キロメートルの透明な筒があり、筒の底には、光を反射する光源と光をキャッチするセンサーがあり、筒の上部には、ミラーが取り付けられている。光の速度は30万キロメートルなので下から発射された光がミラーで
反射し再び底まで戻って来るのにかかる時間は1秒である。これを光時計と名付ける。一定速度で走っている電車の中に、この光時計を置いた場合も
電車の中の人には1秒で戻って来ると見える。では、一定の速度で走って
いる電車の中の光時計を地上から見た場合はどうなるか?この場合、光時計の底から発せられた光は、垂直には進まず、光が進んでいる間も電車は
前方向に移動し続けている為、光は筒の中を斜め上方に進んでおり、ミラーで反射された後は下方斜めに進んでいる。筒の中を光が移動する距離は垂直に進む場合と比べて長くなる。その為、上部に向かった光がミラーに到達するまでの時間は0.5秒よりも遅れて到着し、反射してそこに向かった光も少し遅れてセンサーに到着する。つまり、地上から見た電車の中の光時計は、
1秒を示しているように見えるが、この時に光時計が示している1秒は、電車の中に乗っている人が見た1秒よりも長い、則ち、電車の中の人の時間の
進み方は遅れていると言える。これが、アインシュタインの言う、動いて
いる物の時間の進み方は遅くなるという事である。
じゃ、今度は逆に電車の中の人から、地上に置いた光時計を見た場合は、どう見えるのだろう。同じ図の右の絵を参考にして欲しい。結論から言うと、地上の光時計が電車の中の時計よりも時間の進み方が遅くなったように見えるのである。地上から見れば、電車が動いているように見えるが、電車の中から見た人は、地上が動いているように見えるから地上の時計が遅れる様に見える訳である。時間に絶対という物は存在しないのである。
では、次に動いている物の長さは縮むという事を見て行きたい。
その次の図を見て欲しい。
秒速24万キロメートルで走る列車を思い浮かべて欲しい。この列車が全長
40万キロメートルのトンネルに差し掛かっているとする。列車内には時限
爆弾が仕掛けてあり、列車の先端部がトンネルに差し掛かるとセンサーが
反応し、時限爆弾のスイッチがオンになる。スイッチが入ってから爆発するまでの猶予時間は1秒。ただし、トンネルの出口に爆弾解除センサーが
あり、先端部が出口を抜けると同時に時限爆弾のスイッチはオフとなり、
爆発は回避できる。
さて、トンネルに入った電車は爆破されてしまうのだろうか?
秒速24万キロメートルで走る電車が40万キロメートルを走り抜けるのには、1.67秒かかり、爆発は避けられそうにない。(40万キロメートル÷24万キロメートル=1.6666・・・秒) しかし、結論から先に言うと爆発は避けられる。それは、光速に近い速度で動いているので、列車の中の時間の進み方は、地上より遅くなり、地上で1秒経っても、列車の中では0.6秒しか
進まないからである。
地上で1.67秒以内であれば爆発しないので、動いている列車の時間は、
1.67秒の6割、則ち、0.9999・・・・で列車はトンネルを抜ける事になるからである。しかし、これはあくまで地上を基準に見た時間であり、電車の中にいる人には時間の遅れは感じられず、1秒は1秒として認識されるはずである。だとすれば列車は40万キロメートルでトンネルを1秒で通過したとなると列車の速度は秒速40万キロメートルという事になる。
光よりも早いものはこの世に存在しないというのが実験事実であったことを思い出して欲しい。これは、以下の様に考えれば説明がつく。
「実は、トンネルの長さが縮んだから電車は1秒で通過できた」と。
動いている列車の中の人を基準に見るとトンネルが動いる事になるからで
ある。トンネルの長さは、24万キロメートルに縮んだと考えると上手く説明がつくのである。
もう一つ、アインシュタインが予言したことに、
「ものが動くと質量(重さ)が大きくなる」
というのがある。
こんな状況をイメージしてほしい。数年分の燃料をたっぷり積んだロケットが地上から発射され、毎秒、秒速9.8メートル(地球の重力加速度Gと同じ、ジェットコースターを乗っていてGを感じるとか言うけど、このGは重力加速度の事)で宇宙空間をどんどん加速して行くとする。
そのまま加速し続けると、計算上ちょうど1年後には、ロケットのスピードは光の速度、秒速30万キロメートルに達する。
(9.8m/秒2×60秒×60分×24時間×365日=約30万km/秒)
更に加速を続けていけば、ロケットは光の速度を超えてしまうように
見える。アインシュタインは光の速度がこの世での最高速と考えていた
ので、彼は、「スピードを上げるにつれてロケットの質量(重さ)が増えて行く為、おのずとロケットの加速度が落ちてゆく」と考えた。
アインシュタインが導き出した式に拠れば、ロケットが光速に近づくに
つれ、その質量は無限大に近づき、絶対に光速を超えられない事になる。
でも本当に、この様な事が起こっているのだろうか?
近年、素粒子や電子の実験で使われる「加速器」がある。ドーナッツ状の
リングの中に陽子や電子を入れて光速で回転させる装置である。陽子や電子は質量が非常に軽いので、この装置を使えば光の速度に近い速度まで加速
させることが出来る。実際に陽子を加速器に入れて加速してみて質量の変化を調べてみた所、質量の増加が確認され、アインシュタインの予測式と
ピタリと一致したのである。
では、先ほどのロケットが質量を増しながら加速して行くイメージを思い浮かべる中で、加速しているにも拘らず、ロケットの進行速度の伸びがゆっくりになっていくという事は、ロケットを加速する為に使われたエネルギーは、どこに行ったのだろうという疑問がわく。また、新たに増えた質量は
どこから生まれたのかという疑問もわく。アインシュタインは、
「エネルギーが消滅し、質量が生み出された」と考え、
有名な「E=mc2 E:エネルギー、m:質量、c:光の速度」を導き出した。学生時代に質量保存の法則やエネルギー保存の法則を習った事を思い
出すが、これは、先に述べた古典力学の教えであり、相対性理論では、
「エネルギーも質量と同じもので、どちらにも変化しうる物;エネルギーと質量は交換可能」という事なのである。この考えの延長線上で開発されたのが、あの忌まわしい原子爆弾である。また、福島で悪名を得た原子力発電も、ウランの質量が軽くなり、軽くなった分の質量がエネルギーとして取り出され、お湯を沸かし、その蒸気でタービンを回して発電している訳で
ある。
ここまでが特殊相対性理論の中身であり、光が伝搬しロケットが飛ぶ宇宙は一様であると考えていた。 しかし、実際は、大きな重力を持つ星々が
宇宙のあちこちにあり、重力の影響を受けながら旅していく事になる。この重力の影響を加味して考えられたのが一般相対性理論である。
「止まっている船の上でも、動いている(等速直線運動を行っている)船の上でも、マストの上から石を落とした場合は、まっすぐに落ちる。
だから、運動法則を考える上では、自分が動いているか、止まっているかを気にする必要が無い」というのが特殊相対性理論における動きの捉え方。
しかし、加速度運動の場合は、この捉え方が通用しない。例えば、船が急に加速したり、急旋回をした場合、マストの上から石を落とすと、石は真下とは少しずれた位置に落ちる。つまり、これは「加速度運動は相対的な運動でない」事を意味している。アインシュタインは、高い位置から物を落とした場合の自由落下に着目する。落下する距離が長くなるに従い、どんどん加速(毎秒9.8/m)していく。机の上からパチンコ玉を落としても床はそれほどへこまないが、高層ビルの上からパチンコ玉を落とすと、車の屋根をも貫通する程の破壊力を持つ。落下運動における加速には、地球の重力
(万有引力)が関係している。この事から、アインシュタインは、
「重力の正体」を解明する事こそが、総ての動きに当てはまる理論の構築につながると考えた。
重力の正体を探っていく中で、アインシュタインは「等価原理」という
重要な性質に気づく。宇宙飛行士が乗り込んだロケットが地上から発射
された状況を思い浮かべて欲しい。発射前宇宙飛行士の足は重力でロケットの床に着いている。宇宙空間に飛び出したロケットがエンジンの噴射を
止めて等速直線運動に入るとする。宇宙空間は無重力状態なので、ロケット内の宇宙飛行士の体は宙にふわふわと漂う。ロケットのエンジンを再点火し
スピードを上げると、飛行士の足は床に押し付けられ、あたかも床に
向かって重力が働いている様に感じられる。つまり。重力と加速度は、等価であるという「等価原理」である。
次に二機の飛行機がそれぞれ赤道上空の別の地点から同時に北に向かって飛び立ったとする。二機の飛行機は最初は平行に飛んでいるように見えるが、北に進むにつれ二機の間隔は狭まっていく。最終的には北極点で衝突してしまう。「地球は平面でなく球面なのだから、真っすぐに飛んだつもりでも最後にルートが交わるのが当たり前」と普通は思う。アインシュタインは、これを当たり前と考えるのでなく、「重力というのは、曲がった時空の中を物体が運動するのと同じではないか」と考えた。
枠組みだけのテーブルがあり、天板の代わりに弾力に飛んだゴムの膜が張られているとする。
この上にボールを置くとゴム膜は下方向に曲がる。更にこのボールの近くに別のボールを置くと、膜の表面はより深く曲がり、その曲がりに拠って二つのボールは近づき、やがてはくっついてしまう。アインシュタインは「この曲がりから生まれる動きこそが重力である」と考えた。この例は二次元であるが、三次元で考えると、「時空の中に物質が存在すると、その事で時空が曲がり、時空の曲がりに拠って物質に何らかの動きが生ずる」と考えられる。一般相対論で時空の曲がりと物質のエネルギーの関係を現わす方程式、通称、アインシュタイン方程式は、次の通り。
Rμν-1/2gμνR=8πG/c4Tμν
この式は、「物質の持つエネルギーが大きくなればなるほど、周囲の時空の曲がりは大きくなる」という事を現わしている。この方程式によると、
2000兆トンの更に1兆倍という巨大な質量を持つ太陽の表面では、時空は100万分の1程曲がる。時空が曲がるという事は、太陽の近くを通過する
光も曲がると考えられる。計算では、360度の100万分の1だけ曲がる事に
なる。
そして、この事は、皆既日食の時に太陽の後ろ側にある星が見えたことからアインシュタインの主張は正しい事が実証された。
これまでは、空間の曲がりについて見てきたが、物質が存在すると時空が曲がるという考え方からすると時間も曲がる事になる。時間の曲がりは、
時間の遅れを意味する。これは、1960~70年代にかけて行われた天文実験により証明されている。地球と金星の間に太陽が存在している時に地球から
金星に向かって電波を送ると、電波は太陽の近くをかすめながら地球と金星の間を往復する。太陽の周りには強大な重力が発生している為、太陽の近くを電波が通過した場合と、別のルートを通った場合で往復に時間に差が出る事が予想される。実験では、確かに、太陽の近くを通過した場合の方が僅かに往復時間が長くなり、重力による時間の遅れが事実である事が実証されたのである。
時間の遅れについて「双子のパラドックス」という話がある。双子の兄弟の内の兄が光速に近い超高速ロケットで宇宙へ旅立ち、弟が地球で兄の帰りを待つ状況で、兄が地球に戻って来ると、弟の方が兄よりも歳をとっていたという話である。地球にいる弟から見れば、ロケットが動いているように見えるが、ロケットに乗っている兄からすれば地球が動いているように見える。だとすれば、逆に地球にいる弟の方が若いままで兄が歳をとっていると考えられなくもない。だが、前半で示したように、等速直線運動をしている人達の間で見られた、お互いの時間の進み方が遅くなるという考え方は、
加速度運動をしている人達の間では成り立たないというのがポイントで
あり、双子のパラドックスは正しいのである。
一般相対性理論が誕生したことによる新たな発見がある。
それが、ブラックホールの存在である。ブラックホールは、巨大な星が爆発して出来る。とてつもなく大きな重力があり、周囲の物を全て中心部へ
引きずりこんでゆく力を持っていると考えられている。アインシュタインの
方程式を解いてブラックホールの解を最初に見つけたのがドイツの
天文学者、カール・シュバルツシルト。巨大な重力を持つブラックホールの周りの時空は、果てしなく曲がっている。
先ほど、テーブルの上に張られたゴム板の上にボールを置いた例で時空の歪を例えたが、ブラックホールは、ボールの代わりに非常に重いパチンコ玉を置いた状態を想像すると良い。へこみがある程度以上深くなったのが、
ブラックホールであり、その限界の時のゴム板が歪む範囲を、解を見つけたシュバルツシルトに因んで、シュバルツシルト半径という。ある星の重力圏内にいても、ロケットで噴射して重力圏を抜け出る事が出来るが、この
ブラックホールでは、ロケットはもちろんの事、光さえも抜け出せない。
天体物理学の研究が進むにつれ、このブラックホールの存在が明らかに
なって来た。そして、今では、ブラックホールが出来る過程も解明されて
いる。星は、水素やヘリウムが核融合を起こすことで膨大なエネルギーを
放出し続けている。しかし、星にも寿命がある。星の最後の迎え方として
3種類ある。
太陽の八倍以下の質量の星の場合、寿命が近づくと一度巨大化し赤色巨星になり、その後、徐々にガスが放出され白色矮星と呼ばれる青白い星に
なる。白色矮星の内部では核融合が起こらないので徐々に星は冷えてゆき、
やがては輝きを失う。
一方、太陽の八倍以上の質量を持つ星の場合は、赤色巨星になった後、
その後大爆発(超新星爆発)を起こし、星の中心核は重力で圧縮されて
「中性子星」になる。この天体は、半径十キロメートル程の小さなもので、質量は太陽と同じくらい超高密度で巨大な重力を持っている。とはいえ、
中性子同士には反発力が働いている為、中心核の重力に引き連れられて壊れてしまう事はなく一定の大きさの天体を保ち続ける。
太陽の三十倍以上の質量を持つ星は超新星爆発を起こし星の中心核の質量が巨大な為、中性子同士の反発力では重力を支えられなくなり、どんどん
中心核が収縮していき、最終的には「物質が一点まで収縮した状態
(特異点)」になってしまう。これがブラックホールである。
アインシュタインの残した理論は、未来や過去へのタイムトラベルの
可能性を示している。高速で移動すれば時間は遅れるので、超高速の
ロケットを作り、宇宙を旅行して帰ってくると未来へタイムスリップした事になる。ジェット機で世界一周をした場合で、時間の遅れは一千万分の一秒程度なので一千万分の一秒だけ未来へタイムスリップした事になる。
タイムマシンを手に入れたいのなら、光の速度に近い速度で移動できる
ロケットを開発すれば良い事になる。
一方で、過去へのタイムスリップは大変な矛盾が生じる。
それが「母殺しのパラドックス」と言われるものである。
あなたが過去に旅行し、自分を生む前の母親と出会い、誤って彼女を殺してしまった場合、あなたは、この世に生まれてこなかった事になる。
タイムトラベルの研究者として名高い車いすの天才学者ホーキング博士は、この物理学の危機を救う為に「時間順序保護仮説」を提唱している。仮に
タイムトンネルとして働くようなワームホール(米国物理学会の会長も
務めたキップ・ソーンがタイムマシンの作り方で発表)が出来ると量子論的効果がこのループを通じて暴走するようになり、これが出来た瞬間に崩れてしまうというのである。ワームホールを使ったタイムマシンでも、タイム
マシンが出来る以前には戻れないそうである。
最後に佐藤先生の先行されている宇宙論の説明でこの本は終わっている。アインシュタインの重力場の方程式を解くと、その解はすべて時間的に変化するものばかりで、時間的に変化しない解は存在しない事が分かる。
又、その解には、お互いが引き合う力(引力)だけで、押し合う力(斥力)が存在しない事になる。
これでは、宇宙は潰れてしまうのでアインシュタインは方程式を書き換え、宇宙空間が反発し合うような定数(宇宙定数)を導入する。しかし、この
説が導入されてから5年後ロシアの数学者フリードマンが異を唱える。
彼は、宇宙定数を外したアインシュタインの方程式を解き
「宇宙は膨張したり収縮したりする。宇宙定数など必要ない」
という説を発表する。解の違いが生じたのは、方程式を解く前の初期条件の設定が違っていたから。アインシュタインの計算は、いわば手に持った
ボールを自由落下させる所から始まる。このボールの落下は「宇宙の収縮」を意味する。これを宇宙に当てはめると宇宙は収縮する事になる。
一方、フリードマンの計算は、ボールを上に投げる所から始まる。
重力に逆らって投げたボールは、上昇の後、落下に転ずるか、初速が十分
大きと重力を振り切って上昇を続ける。宇宙論に当て嵌めると膨張した後、収縮に転ずるか、膨張を続けることを意味する。
1927年には、ベルギーの物理学者ルメートルが宇宙定数を取り入れた
アインシュタイン方程式を解き、「膨張宇宙モデル」を発表する。
そして、1929年、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルが
「すべての銀河が私達の天の川銀河(銀河系)から徐々に遠ざかっている。しかも、遠ざかる速度は、その銀河までの距離に比例している事を発見
した」
と発表する。
彼は、遠くの銀河から発せられる光のドップラー効果を観測し、ごく近くの銀河を除き、ほとんどすべての銀河が地球から遠ざかっており、その
スピードは地球からの距離に比例して速いスピードで遠ざかっていた。
この事を説明しているのが風船を膨らます時に風船の表面に着けた印、A、B、C、Dの動きである。奮戦を膨らませると、吹き込み口から遠い所ほど、大きく離れていく。宇宙全体が風船のように規則性を持って膨張しているのである。
宇宙が膨張しているという事は、過去に遡ると過去の宇宙が今より
小さかった訳で、宇宙に「始まり」が有った事を意味する。
1946年にアメリカのガモフ等によって、「ビッグバン宇宙モデル」が発表
される。これは、フリードマンやルメートルの宇宙論を発展させたもので、「宇宙の始まりは、超高密度で、かつ超高温の小さな火の玉状態であった。そして宇宙が膨張していくに従い、温度が低下し、火の玉を構成していた
素粒子は結合し、様々な原子が作られた。更に温度が下がっていくと、
ガスが固まって銀河や星が生まれた」という理論。初期の宇宙が火の玉状態だったことを示す電波(宇宙背景輻射)も実際に観測されている。
次に登場したのが、1981年に発表された「インフレーション理論」。著者の佐藤さんや、アメリカの物理学者アラン・グースが発表している。内容は、「誕生直後の宇宙は素粒子の様に小さかったが、直ぐに倍々ゲーム(2倍⇒4枚⇒8倍、、、)で加速膨張を始めた。この時にミクロの宇宙を巨大な宇宙にまで押し広げる力になったのが、『真空のエネルギー』。
加速膨張が終わる時に今度は、『真空の祖転移』が起こり、真空の
エネルギーが熱エネルギーに変化した。この時に生まれたすさまじい
熱エネルギーによって、宇宙は火の玉状態になった。その後、火の玉宇宙は緩やかな膨張を続けながら冷えていき、現在の宇宙になったという理論で
ある。真空というと何もない空間を想像するが、量子論的には、陽子と
反陽子がペアで生まれ、生まれたペアが合体して消滅する、そんな生成と
消滅を繰り返す空間、そんな揺らぎのある空間が量子論で言う真空である。
1998年、およそ60億年前から再び加速膨張が始まっているという事が
発見され、2011年のノーベル賞はこの観測研究に贈られた。
インフレーション理論が残した謎、『素粒子の様に小さな最初の宇宙が
どのようにして誕生したか』に対し、ウクライナ出身でアメリカで活躍するアレキサンダー・ビレンケンが、宇宙誕生の瞬間も量子論的に説明できるのではないかと考え、「無からの宇宙創成理論」を1983年に発表する。
宇宙は物質・エネルギーも、空間、時間もない『無』から生まれたという
もの。「最初の宇宙は、『無』の状態で生成と消滅を繰り返していたが、
ある瞬間、超ミクロの空間を持つ存在としてポッと出現した。この超ミクロの宇宙は生まれて直ぐに真空のエネルギーによって倍々ゲームの膨張
(インフレーション膨張)を起こした。この加速膨張が終わる時に宇宙の
相転移によって潜熱が放出され、宇宙は火の玉状態(ビッグバン宇宙)と
なった。火の玉宇宙の膨張はインフレーション膨張より穏やかなもので、
膨張に伴って温度が下がっていくに従い、徐々に陽子や中性子、水素や
ヘリウムなどの軽い元素、更に銀河や星などが生まれて行った。
そして、今から60億年ほど前に第二のインフレーション膨張が始まって
現在に至っている。(図 無からの宇宙創成理論とインフレーション理論による宇宙の誕生 参照)
宇宙の年齢は、観測から得られる膨大なデータから、かなり正確に計算
できるレベルに達している。
アメリカには「ハッブル宇宙望遠鏡キー・プロジェクト」という名の
観測グループがあり、「ハッブル定数」を精密に求めようとしている。
ハッブル定数とは、宇宙の膨張率を示す数値で、
ハッブル定数=銀河が遠ざかる速度(後退速度)÷銀河までの距離
で表される。この観測精度の向上で、2000年以前には宇宙の年齢は、
せいぜい100億年から200億年位かなと言っていたものが、現時点では、
138億年前と3桁の数字まで言い切れる時代になった。
この様に宇宙論は相対性理論や量子論をベースに着実に進化しているようである。最近の他の文献によると、ダークエネルギーが宇宙全体の68.3%を占め、ダークマターが26.8%、そして原子が4.9%を占めるそうである。我々の周りに見える原子は、たった5%程度に過ぎない。
これらは、回転する銀河の物質が遠心力で飛ばされない為に、我々には見えない引力があると想像されるところから存在すると推測されているようで
ある。僕には磁石がこのダークマターと関係しているように思える。N極と
S極が必ずペアで存在する訳で、ペアである以上、我々の目からは見えない
物質であるが、磁石としてのエネルギーを持っているからである。
今後の理論の発展を期待したいものである。
何とも、ロマンのある話ではなかろうか!
想像するだけでも楽しいものである。