鹿児島本線特急つばめ
パパのいる熊本から家まで特急に乗って帰る時間も私は好きだった。
もらったお小遣いで、車両販売のお姉さんからアイスかトッポを買う。コアラのマーチの場合もある。
アイスは溶けた外側から食べる。歯がしみるからぺろぺろ食べる。トッポは数本を一気に加えてさくさく食べる。コアラのマーチは、いつの間にか無くなってる。毎回、どれか一個だけ。
特急の車内はきれいで豪華で、贅沢な時間だ。窓の景色も面白い。
1年生で長旅をする私はかっこいい。
二日市についたら、ママが車で迎えに来てる。
パパとママが離婚してからもパパとはよく会っていたし、遊んでた。遊びに行ったり、映画を見たり、写真を撮った。映画やアニメ、英語だけのときがあるけど、まあノリでわかる。
あるとき、熊本から、いつも通り、博多行きの特急つばめに乗った。
隣にお姉さんが座ってて、色々おしゃべりした。1年生で偉いねって言われた。えっへん。どこで降りるの?と聞かれたから、「二日市」って答えたよ。お姉さんは「へえ、そうなんだ、頑張ってね」って言ってた。
大牟田でお姉さんが降りたあと、暇だったから、音声案内に耳を澄ます。すると、「久留米、鳥栖、そして博多」と言っている。
どうしよう、この特急は、二日市には停まらない!
とりあえず、車両内の公衆電話から、ママに電話した。ママはパパに怒っていた。
それで、電話で、博多駅についたら、駅員さんに聞いて、二日市行きの電車に乗る、ということになった。
私は偉いからできるもん。
博多についた。すごく大きい駅だったけど、私はちゃんと駅員さんに聞いて、ちゃーんと電車に乗った。そして、ママのいる二日市についた。
簡単だね。
ママはやっぱり、パパに怒ってた。
でも、なんだかもやもやする。
あのお姉さん、二日市に停まらないって知ってたのかな。知ってたから、あの「頑張ってね」だったのかな。何を頑張るのって思ってたけど、そういうことだったのかな。教えてくれたら良かったのに。
もしかしてお姉さんは私が迷惑だったのかな。
ぐるぐるする。
二日市に停まるつばめと、停まらないつばめがある。学んだことだ。
でもすぐ、博多に引っ越したから、どのつばめでも安心だ。博多には絶対着くからね。