思春期おしゃれ読書

Xでなんだか村上龍が話題だ。初めて村上龍を読んだのは『コインロッカー・ベイビーズ』で、13歳になったばっかりの頃だった。

そのとき私は福岡市内の大名という場所に住んでいて、貧しいけどもおしゃれな人間として生きていきたいと強く願っていたのだった。大名はセレクトショップやカフェがひしめく九州屈指のおしゃれなエリアである。
だがもちろん、もともとそこに生まれ育ったクラスメイトたちはそんなこと思ってもいないだろう。私は引っ越してきた人間だったし、なにより貧しいことが辛かったから、この立地を心の支えにしていた。

膝下スカートのやぼったい公立中学校の制服。しかしそこに『コインロッカー・ベイビーズ』を加えると、おしゃれである。

母の友人からお下がりでもらったかっこいいデニムに、12歳の誕生日に実父に買ってもらった本革のブーツ、天神コアで買ったトップスを合わせれば間違えなくおしゃれだし、そこに『コインロッカー・ベイビーズ』を合わせればなお、おしゃれである。

滅多にないが、仕方なく外で夕食を食べる際、母親のチョイスは遠くのファミレスではなく、近くのカフェやエスニック料理店だった。貧しく忙しい母子家庭のつかの間の外食、薄暗い店内でモデルもやっている13歳の少女が手に持つのは読みかけの『コインロッカー・ベイビーズ』、文句ない。

このとき猛烈に「私ってもしかしてすごくおしゃれなんじゃないかな」と思った記憶がある。

自分でこう意識してると明かすのは、かなり恥ずかしく、ダサい。
しかし、この猛烈な感情は、貧しい中学時代の心の支えとなったので、否定できないのだ。


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