妹 の 恋 人 【5/30】
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わたしがなぜそんなことをしたのか、自分でも未だによくわからない。
そんなことをしたので、内藤先生はびっくりしたみたいだった。
「お、おい……田端、おまえ……き、今日はどうしたんだ?」
そんなことを言いながらも、内藤先生は下半身裸で、自分の両手で両膝のうらを持ち上げながら両脚を大きく開いている。
まるで赤ちゃんがおしっこを漏らしたときに、お母さんに綺麗にしてもらっている時のような姿勢だった。
わたしは頭がくらくらしていけど……自分を止めることは出来なかった。
わたしはその、情けない格好をしている先生の脚の間に顔を埋めて、舌先でいちばん汚いところを舐めていた。
「……あっ……ちょっと……た、田端っ……ヤバいよ……ヤバ過ぎるよ……おまえ、こんなこと、どこで覚えたの?」
内藤先生が上擦った声を上げる。
その時わたしは一六歳だった。
内藤先生は学校で女子に最も人気のない先生のうちの一人。
痩せているけども、お腹だけが奇妙にダブついていて、肌が死人みたいに青白い。
頭頂部分の髪はかなり薄くなっていて、それを自分でも凄く意識している。
授業も要領を得ず、わかりにくい。
気の強い生徒には弱いが、大人しい生徒には厳しく、陰湿にねちねちと細かいイヤミを言う。
そんな内藤先生のその部分は剛毛に覆われていて、いかにも彼らしい、饐えた匂いがした。
つまり決していい匂いではなかったが、それが不快なものであればあるほど、わたしの理性はますます溶かされていった。
わたしはあの七年前の夕方のことを、今でもはっきりと思い出すことができる。
季節は初夏で、場所は学校の校舎の、屋上につづく踊り場。
わたしは制服だった白いブラウスと紺のスカートを着ていて、先生はヨレたワイシャツ一枚。
下半身には白い靴下だけ。
いつも履いているつっかけと一緒に、チョークの粉で汚れたグレーのスラックスが脱ぎ散らかしてある。
目を閉じて思い出すのは、あの内藤先生の饐えた匂いだ。
そしてそれを嗅いだときに下半身に感じた、熱い感覚。
「あっ……あっ……あっ……あっ……田端、いいよ。それ、すごくいい。たまんないよ……」内藤先生が上擦った声で言う。「す、すごいよ……し、信じらんないよ……」
「黙っててよ……」
わたしはそう言って、内藤先生を見上げた。
「はあ、お前もいやらしくなったなあ……」
そういう口調は、いかにも教育者らしくて妙な感じだった。
まるで、自分が育てた生徒の成長を誇らしげに語るような口調。
また、下半身がかっと熱くなって……わたしはそれを振り切るように、ぱくっと、先生のあれをくわえる。
固くて、熱くて、先端は少し苦い味がした。
その味を確かめるみたいに、わたしは舌を使ってゆっくりとそれを念入りに舐めとった。
その度に内藤先生の身体はがくん、がくん、と震える。
もう、彼が馬鹿馬鹿しいことを言うのも聞かされなくて済んだし、わたしも一切、余計なことは言わなくてすんだ。
雑念から逃れるように、必死で舌を使った。
気がつくとわたしは、音を立ててそれを吸っていた。
ひとしきり舐めて、もういいだろう、と思い、一度先端に軽くキスをしてから、先生の顔を見上げる。
「……いい?」低い声でわたしは言った。「ねえ、先生……いい?」
「……すごく……すごくやらしいよ……おまえ、ほんとに上手になったなあ……おうっ」
わたしは人差し指を先生の股の間の、毛に覆われた窄まりに当てた。
さっき散々舐めてあげたので、そこはわたしのよだれで濡れていて、呼吸しているみたいにひくひく蠢いている。
わたしは迷い無く、そこに指先を突き入れた。
「おおうっ!」
声をあげる内藤先生。
なぜそうしたのか、今でもわからない。
多分、本かなんかでやりかたを読んだのだろう。
それとも、本能みたいなものが、わたしにインスピレーションを与えたのか。
「……おおう……おっ……ちょっと、ちょっと待てよ、田端……あっ」
わたしはこじ入れた指をゆっくりと回した。
そしてまた、音を立ててあれを吸い上げる。
「……な、なんだ……田端、こりゃあいくらなんでも……こ、高校生のくせに……こんな……あっ……おうっ……」
めちゃくちゃにしてやるつもりだった。
相手をめちゃくちゃにしながら、自分もめちゃめちゃになりたかった。
頭の後ろから、何かが音を立てて流れ出ていく。
自分が砂時計になった気分がした。
こんないやらしいことをしている自分の姿を、何かテレビのモニターのようなもので客観的に見ているような気分もした。
そして客観的に見ているわたしは、わたし自身に対してむかついていた。
殺したいくらいに、むかついていた。
でも、誰もわたしを止めなかった。
“そこから先は行っちゃだめ”という者はなかった。
わたしは自分にも言わなかった。
内藤先生のアレが口の中いっぱいに膨れている。
足下を見ると、白い靴下を履いた先生のつま先が折れ曲がっている。
楽にいかせるつもりはなかった。
わたしはわざと寸でのところで口を離した。
「……ねえ先生」わたしは愕然とした顔の内藤先生に言った。「わたしにも……してよ……やらしいこと」
「あ、ああ……」
わたしは先生の前に立って、今度は先生がわたしの足下に跪いた。
「……どうしたんだよ、今日は……おまえ、ヘンだぞ……?」
「……いいからしてよ……やらしいこと」
先生はホックを不器用な手で外すと、わたしのスカートをすとん、と床に落とした。
その日、わたしはパンツを履いていなかった。
「……お、おまえっ……」
内藤先生が目を丸くする。
滑稽だった。
ここまできたら、もう滑稽としかいいようがなかった。
わたしは笑いをこらえていた……恥ずかしさを感じる余裕もないくらいに。
先生は面白いように狼狽していたが、急に決心がついたらしく、わたしの脚をかなり乱暴に開かせて、その間に頭頂部が薄くなっている頭を突っ込んだ。
「……んっ……」
さすがに、思わず声が出た。
先生の舌はとても熱かった。
そして思いのほか器用に動き回った。
生まれて初めて、直接味わう激しい感覚に、耐えられず壁に背をつける。
先生の舌の動きの、予想外の激しさと的確さに、思わず大きな声を出しそうになって、自分の指の甲を噛んでそれを抑えた。
ほんの少しだけ……この一瞬だけ、わたしは恐怖のようなものを感じた。
いやらしい音がする。
下半身が痺れてくる。
腰を、いつのまにか先生の口になすり付けるように、上下に動かしていた。
「……ほんとに、どうしたんだよ……た、田端……い、いつもより、濡れてるぞ……」と先生が下卑た笑いを浮かべる「なんか……イヤなことでもあったのか……?」
この男、ほんもののバカ? ……とわたしは思った。
醜い上に、どうしようもなくバカな男だ。
なに、こんなときに教師ヅラして相談聞くみたいな顔してんだ。
「……う…………うるさいって……もっと、な…………舐めてよっ…………」
「よし、じゃあ壁の方向け」先生が言った。「さっきのお返しをしてあげる」
「……んっ」
わたしは言われるままに、身体を一八〇度回転させて、壁に手を付いた。
そしてお尻を突き出した。
胸がはじけそうになるほど、ドキドキしていた。
こんな興奮、それまでのわたしの人生にあっただろうか。
「んんっ……」
先生の舌が、やっぱりわたしのきたないほうの穴に触れた。
身体の芯が凍り付いて、崩れるくらいゾクゾクする。
舌がゆっくりと動き始める。
わたしはお尻を回すように動かしていた。
じっとしてなくちゃと思いながらも、身体は初めての感覚から逃れようと動いてしまう。
「……ほら、じっとして」
先生が言った。
わたしは目をしっかり閉じ、集中してお尻を動かさないようにした。
舌がさらに動く。
「…………あっ…………やっ…………んっ……」
奥歯がカチカチと鳴り、鳴りやまない。
時々啜り込むように、舌だけではなく先生の唇が触れた。
わたしはコンクリートの壁に塗られた白いペンキをかきむしっていた。
両手だけではなく、ほっぺたまで冷たく固い壁にしっかりと押しつけていた。
先生はそのうえ、指を使って……わたしの前の先端を転がしはじめた。
「……あっ……あ……あんっ!!」
踊り場に声が反響してしまった。
わたしは声を堪えるため、また指を噛んだ。
「……い、いいかい? もう……?」
先生の舌と指が止まる。
「……えっ……?」
「入れて、いい?」
「……うん……いいよ……入れて…………」
先生がごそごそと何かをしている気配を背中で感じた。
コンドームを装着しているのだろう。
何のために学校にそんなものを持ってきてんだ、と呆れたけど、そんなどうしようもない男にこれから犯されるんだ……と考えると、ますます頬が熱くなり、頭の後ろからまた何かが流れ出していった。
「さて……と」
「んっ」
先生がゴムを装着し終えたものの先端を、そっとわたしの入り口に当てる。
「……いくよ」
「……うん……ぐっ…………んんんんっ…………!」
入ってきた。
いや、入ってこようとしていた。
「……な、なんだか、き、今日はいつもより一段ときついな……田端……ど、どうしたんだ…………力、抜けよ」
「………はあっ………」
独りでに固くなる下半身を意識して弛緩させる。
そして、それを受け入れる覚悟を、身体にも伝えた。
「い、いくぞっ…………」
「…………んんっ!」
今度は実にゆっくりだが……ほんとうにそれが入ってくる。
なにかを千切り、押しつぶし、巻き込みながら。
「…………おおう…………田端…………田端…………すごく、すごくきついよ……や、やっぱ……今日は……いつもより…………うっ」
「……な……」わたしはこの瞬間を待っていた。「…………名前で…………呼んで………よっ………」
「……あ……さきこ………………さ、咲子っ…………」
「せ、先生」わたしは激痛に耐えながら、それでも薄い笑みを浮かべて、言った。「わたし…………咲子じゃないよ」
「ええ?」先生は慌ててわたしと繋がっている部分を見下ろした。「ああっ?」
後で判ったけど、血は太股まで垂れていた。
それ以来、わたしはいつも、咲子とは敢えて違う髪型にするように心がけている。