あの春、一瞬の輝き
どうも、にっしゃんです。
今回は僕が高校1年生の頃体験した話です。
「どんな人にでも輝ける瞬間がある」
そう確信できた出来事でした。
こんな時だからこそ読んで勇気をもらって欲しいです。
それではどうぞ。
2000年春。
僕は高校1年生になった。
うだつのあがらない中学時代とはおさらばする。
僕は決意していた。
部活はラグビー部に入った。
とりあえず体育会系に入っておけばそれっぽく見える。
そしてあとは面白い人だと思われればイケる。
僕は高校デビューする気満々だった。
チャンスはすぐにやってきた。
5月にオリエンテーション合宿が1泊2日であるのだ。
まあいわばクラスのみんなが仲良くなるための合宿である。
ここで目立てば、ウケれば、一気にクラスの人気者になれる。
僕は連日連夜シャドーバカウケを繰り返した。
僕がバカウケするにあたって要注意人物が1人いた。
同じラグビー部で中学時代はアメリカンフットボールをやっていた男
通称アメリカンである。
アメリカンはおいしい所をもっていくのが上手かった。
そして口には出していないが、合宿を前にしてアメリカンの目の奥の炎は燃え盛っていた。
僕は確信した。
こいつもやるつもりだと。
合宿当日。
1日目は2つのイベントがあった。
1つは寸劇、もう1つはゲーム大会(フルーツバスケットなど)
寸劇とはごく短い簡単な劇で、これを班に分かれて昼間にそれぞれ作り夜に発表する、こんな流れだった。
僕はハハ〜ンと理解した。
"ここでウケればいいんですね"
かしこまりましたと心の中でつぶやき、わざとらしく袖をまくった。
僕の班はみんなおとなしいメンバーだった。
"では僕がみんなを爆笑に導いてあげる"
アニメとかで出てくるラスボスの少年のような口調で僕は台本を書こうとした。
するとサラサラサラ、誰かが凄いスピードで台本を書く音がした。
その音の先にいたのは
メガネをかけた細身のいかにも理系の男
通称理系くんだった。
理系くんが言った。
「あ、僕が台本書きますんで」
いや、台本書きますてあんた。
あんたどう見ても笑いのセンスなさそうやないの。
わいに任しとき。
僕の心のナニワも虚しく、すぐに台本は完成した。
タイトル アンパンマン
え、大丈夫?
ありきたり過ぎひん?
他の班と被らへん?
NSC講師が見たら即ダメ出しするタイトルを理系くんはもってきた。
内容がチラッと目に入る。
「ドキンとアンパン。見つめ合う2人。
そして2人はLove so sweet...」
2行で伝わるこのカオス。
まさかの恋愛物である。
そしてなぜかドキンとアンパンは敬称略だ。
あとlove so sweetって後の嵐の大ヒット曲のタイトルだ。
理系くんは謎の先見の明をもっていた。
理系くんが配役を発表した。
僕→食パンマン
理系くん→アンパンマン
え、逆じゃない?
僕は太って丸い顔をしている。
理系くんは細身で角ばった顔をしている。
NSC講師が見たら「自分ら逆やけどな〜」が出る案件だった。
僕は食パンマンになった。
本番がやってきた。
僕らは4番目だった。
3番目の班がアンパンマンをやってその班のデブ扮するアンパンマンがウケていた。
最悪だ。
だから言わんこっちゃない。
アンパンマンは被るし、デブがやった方がいいのだ。
しかし今更言ってもしょうがない。
僕たちの出番がやってきた。
アンパンマン役の理系くんが口を開く。
「ぼ・・・・ン・・・・いぞ」
!?
声が小さい。
理系くんの声が異常に小さい。
ようあんたそれでアンパンマンやる言うたな。
ドキンちゃん役の女子が口を開く。
「わ・・・・バ・・・・ね」
ダメだ。
こいつも声が小さい。
もう僕が大声で引っ張っていくしかない!
「やあ僕は食パンマン!アンパンマン元気かい?」
僕の出番が終わった。
そう、食パンマンのセリフは1行だけだった。
僕は理系くんに干されていた。
そこから僕らの劇はチャップリンの無声映画のようだった。
ある意味優雅な時間が流れた。
もちろん笑いは1つもおきなかった。
僕らの出番が終わりアメリカンの班の番が回ってきた。
アメリカンはこう言った。
「ギリシャ神話やります!!」
え、ギリシャ神話?
寸劇でギリシャ神話?
何それ、ちょっと面白そう、、、
そう思った瞬間、テルマエロマエの様な格好をしたアメリカンが華麗に宙を舞っていた。
もちろんみんなは大爆笑。
やられた。
食パンマンは1人地団駄を踏んだ。
ギリシャ神話の優勝で寸劇が終わりフルーツバスケットをする事になった。
"もうここしかない"
僕は悲壮な決意を固めた。
フルーツバスケットのウケ方は簡単である。
とりあえず座れなくてデヘヘ、だ。
ミスって座れなかったら何かしらの笑いはやってくる。
大丈夫、簡単だ。
フルーツバスケットが始まった。
その日僕は人生で一番の俊敏さを発揮した。
何故かことごとく座れてしまうのである。
切れ味のあるステップ。
冴え渡る勘。
ここにきてラグビー部に入った成果が出てしまっていた。
マズい、座れてしまう。
ミスらないとおいしくない。
このままだと何もいい所がないまま合宿が終わってしまう。
僕は決めた。
"わざと真ん中でこけよう"
お笑いにおける最も古くから使われている手法、それはズッコケである。
「全ての笑いはズッコケから始まる」
昔、卑弥呼が言ったとか言ってないとか。
僕は全神経を集中した。
チャンスがきた。
真ん中まで行った時に
すてーーーーん!!!
見事にこけられた。
ドカーーーーン!!!
みんなの笑い声が聞こえる。
よかった、、、
うん?
こっちじゃない?
みんな違う方を見て笑っている。
みんな何を見て笑っているんだ?
みんなが笑っている方を見るとそこには
犬飼くんのケツが壁にめり込んでいた。
なぜ壁に犬飼くんのケツがめり込んでいるのだ?
僕は状況が理解できなかった。
犬飼くんとは普段おとなしめのぽっちゃりしたちょっとさえない男の子である。
その犬飼くんが壁にめり込んでいる。
みんなの爆笑が止まらない。
抜けないケツ。
止まらない笑い。
フルーツバスケットで人のケツが壁にめり込む。
こんなハプニング、みんな笑わないわけがない。
後から分かった事だが、犬飼くんは頑張って座ろうとして勢い余ってケツから壁に激突したらしい。
もがく犬飼くん。
抜けないケツ。
爆笑する生徒。
焦る先生。
こけている食パンマン。
犬飼くんはその瞬間誰よりも輝いていた。
もちろん僕よりも。そしてアメリカンよりも。
間違いなく犬飼くんはその日主役になったのだ。
"人は誰でも輝ける瞬間がある"
そう確信して
こけていた僕は1人立ち上がった。
大スベリ烈伝 その3 終