読み解き『ハウルの動く城』
以下、宮崎駿『ハウルの動く城』の映画公開直後の2005年の年明けに、劇団KAKUTA主宰の桑原裕子さんへのメールの返信で『ハウル』について書き送った長文メールの文章。(その直後にもう一度観て、改めて分かったことや正確でない部分もあるが、だいたい20年前の書いたまま。)
若書きのイタイとこは勘弁、でもハウル見た人には面白いかと思います。
×××××
いやいや、完璧な仕事です!出演していただけないのは残念ですが、こちらの思いをくみとって頂いて、素早くはっきりとした返事(しかもご丁寧に!)がもらえて、すがすがしいくらいです。
カンパニーだなあとも思うし、集団のリーダーだなあとも思うし。
忙しいところ、手間かけさせて、そこだけほんとにすみませんでした。
≫これからも仲良くしていただければと思います。
こちらこそ!
≫余談ですが、ハウルを西さんはどうお感じになったでしょうか。私はちょっと、怒りのようなものが強く世界に見えている気がして、映画館を出たらぐったりしてしまいました。。
なるほど。
じゃお礼に「ハウル読み解き談義」を。(笑)
字面じゃなかなか伝えられない部分もあるかと思いますが、試みてみます。少々長くなるかと思いますが。作家仕事の息抜きにでもしてくださいな。
「ハウルの動く城」は、非常に読み解き甲斐のある寓話だと思います。宮崎駿の言いたいこと(とても具体的な意味で)が、見たところファンタジーの映画の中に詰まっている。
例えば分かりやすいとこで思い出すのは、前半ハウルが風呂場から飛び出してきて「王子様じゃなきゃ意味がない…」とかなんとか呟いて意気消沈するところ、あそこで完璧なブロンドがみるみる黒髪に変わっていくところは、今の日本の若者に対する「お前らさあ、いろいろ着飾ってっけど、日本人なんだから黒髪でいいじゃん!」という宮崎駿のわかりやすーい愚直なメッセージですきっと。もしくは、あそこの「黒髪になる」というところから、宮崎駿は、ハウルというキャラクターについて日本人の若者を描いている、と考えてもいい。ぱっと見は架空のヨーロッパ世界を舞台にしてたとしてもね。
もちろん白人でもブロンドでない奴はいるだろうけど、宮崎駿という日本のじいちゃんがあそこで、ブロンド黒髪若者、を意図して描いたとしたら、これはもう十中八九日本人向けでしょう。日本人へのメッセージ。それは当然、世界じゅうの同世代の現代人へ伝わる普遍的メッセージのつもりでしょうけど、ハウルを見た外人さんが宮崎駿の愚直なメッセージを受けとるためには、日本人は黒髪である、ということ、そして最近の日本人の若者の多くは髪を染めている、という現代の日本人なら誰でも当たり前に知っている常識を知らないと、このコードは読み取れない。
つまり。
比喩ということ。こむずかしく言えばメタファー。
「ハウル」には宮崎駿が詰め込んだメタファーが満載で、だから「読み解き甲斐のある寓話」なんです。
宮崎駿は、日本人、もしくは現代人に向けて、メッセージを発している。比喩を駆使して。この観点から見れば、ハウルという一見難解な物語が、意外にすっきり読めてきます。
ここに書くことは「ハウル」見てすでに桑原さんが分かってたり感じてたりすることもあるかもしれませんけどねー、実は「ハウル」見たときの帰り際、後ろ歩いてたOLさんが「あの犬がかわいかったよねー!」とか話してて。「そういうことじゃないだろ」って思ったんですよ。そんなんが第一声じゃ、宮崎駿の言いたいことは何も伝わってないんじゃないか、それじゃあまりに虚しいな、と。(もちろん実際可愛いわけだし、そういう見方を否定するわけじゃありませんが。)
おれも見終ったばかりのその時点でハウルがすっきり読み解き解けてたわけじゃないんだけど、自分の教養を駆使して見ながら、ここには何かあるな、と思ったんです。
宮崎駿が考えに考えた上で、明らかに用意した物語がある。
皆、あまりに単純なドラマ(台詞で語られるドラマ)に馴らされすぎてて、宮崎駿が用意したシンプルな物語が伝わらなくなってる。
宮崎駿は必死こいて考えてんですよ。それは見てるとよく分かる、同じ表現者の端くれとして。それを「かわいかったよねー」の一言で済まされてしまうのは、宮崎駿がかわいそうだなーと思って。
これは宮崎駿ばっかりじゃなくて、自分に戻ってくる問題で。せっかく考えた表現が、かっこよかった、なんかおもしろかった、で済まされてしまうのは、やっぱり残念だな、と思うので。
でね、ハウル見終ったあと、一緒に見に行った連れと2時間ばかし、あーだこーだ話してたんです、ま普通に映画観た後の茶飲み話ですけどね、相手は最後の方まで「やっぱり全然分かんなかったかも…」って弱音吐いてました、それでもあれがこうじゃないかとかここは繋がる!とか映画を思い出し思い出し一段一段2人で階段を踏んでいったら…、別れ際の山手線のホームで「…あ!こういうことだ!!」って2人で同時に気が付いたんです、つまり宮崎駿の用意した物語に一本の筋が通って理解できたんです。
で、宮崎駿のため、自分のために、ハウルを読み解いてまわろうかな、と思ってて、桑原さんにもこうしてメールで書いてんです。もう草の根運動っすよ。
最近、四ヶ月引き込もってたせいか、分析脳が発達しててですね、表現読み解きの伝導者にでもなろうかと。
宮崎駿はこんなすげえんだぜ、とか、誰それはこんなこと考えてんだぜ、お前らもがんばれ、みたいな。そして表現者を育て鑑賞者を育て、優れた表現者を讃えながら、おれは死んでいく。
そうなったら、芝居作るの捨ててもいいやあー、これで金がもらえればな。(笑)
ハウル談義の前ふり、終わり!
さて。
つづく…
×××××
「ハウルつづき」
いよいよ、ハウル、です。
思うとこ全てを語り尽すと、断片的になったり、長くなったり分かりにくくなったりしそうなので、なるべく肝のところをお話ししようと思います、後は身近な観た人とあれこれお話でもしてくれれば。
「ハウルの動く城」をこういう物語だ、とコンパクトにまとめるとするなら、桑原さんはどう人に伝えます?もしくは、宮崎駿はどういう話だと考えてると想像しますか?
30文字以内くらいで。例えば「桃太郎」なら、「桃から生まれた桃太郎が、鬼を退治する話。」これで20字。
100文字でもいいですよ。
おれは10字でいけますぜ!
下におれのとりあえずの解答。
「ハウルの動く城」という宮崎駿のアニメ映画の物語は…、
「ハウルの城が飛ぶ話。」
いやーエレガントな答えっすねー。話の前ふりがあんなに長かったのが信じられないくらい。(笑)
どうですか?桑原さんだって分かってたり感じてたりはするかもしれませんけどね、いや実はおれは分かってなかったんです観てるときは。で先に話した山手線のホームでこのことに二人で気付いたんです、「そうだ、ラストに城が飛んでたー!!」って。それで話の筋がほとんど通った。
先日、ある女の子にこの辺のハウルの話したんですよ、そしたら彼女は納得して、「タイトルの意味が始めて分かりました」と言いました。観たときに、なんでタイトルが「ハウルの動く城」なの?てのがよく分からなかったらしいんですよ、もちろん「動く城」は出てくるわけですけど、それをなぜタイトルにするのかが分からなかったらしい。
それはおれにしてもそうで(分からなかったわけじゃなくて、ここには明らかに意味がある、という前提で考えてましたけど)、最後のシーン思い出してタイトルと繋がった瞬間に、物語を理解できた。
タイトルと物語が明快に繋がるということは、明らかに宮崎駿が用意した物語はこれだ、という証拠でもありますね。
もちょっと言葉尽せば、この話は、映画を通して不格好に地面を這って歩いていた城が、最後に飛ぶ、と。
でこれが、地を這う乗り物を、エンジンを改良して馬力上げて…とか、プロペラを発明して…、っていう話の中身なら、多くの人が「飛べるようにする話だよねー」って言えるわけです。タイトルもきっと分かる。
しかしある意味では、「ハウル」はエンジンとかプロペラの話なわけですよ、比喩で語られてるから分かんないだけで、でこれはエンジンを意味する比喩ですね、とか、プロペラのことですね、というのは見方さえ知れば、結構簡単に分かるよね、ということを言いたいのが、このメールの目標。
さ、ここまで桑原さん的には如何ですか?
(ついでにやや余談。ハウル観た次の日に出会い系サイトの迷惑メールが来ててね、「平田です。こないだメールしたんですけど、返事が来なくてちょっとへこんでます。昨日、「ハウルの動く城」を見てきました!内容は難しくてよく分からなかったけど、平田は宮崎駿の基本はボーイ・ミーツ・ガールものだと思ってるので、そういう意味で楽しんできちゃいました!」って書いてあって、一人でげらげら笑っちゃいました。いや、ボーイ・ミーツ・ガール、なかなかの読み解きですわ。)
先つづけまーす。
次。
じゃ「動く城」ってなんだ?
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