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TIPS:学術とエンタメの狭間で

はじめに

おばんです、今回はTIPSということで、少し軽めの話題について書いてみようと思います。

君は誰?

もともと、ニコニコ動画で活動していた動画製作者です。
主に、応用数学の動画を作成しています。

https://www.youtube.com/watch?v=u4JHh5kIuDQ

他には、2018年にYoutubeにも動画投稿を始めたのですが、Vtuberブームにのって、応用数学qVtuberを名乗りました。そして、VRアカデミアに出会い、現在は「ふくがくちょー」として運営に関わっています。VRアカデミアについては以前公開した記事を参照ください。

このTIPSを書くことになったきっかけ

上記のように、私は学術解説の動画投稿しています。
その過程で浮かんできた疑問があります。

学問には色々な側面がありますが、ある側面として「学問は積み重ねの上に立脚するため、基礎的な内容を抑えておかないと、発展的な内容が理解できない」という面があると考えています。

具体例としては「小学校の算数(四則演算)を知らない状態では中高の数学を理解することは不可能であり、中高の数学を知らない人に説明できる内容には限界がある」という問題です。

ですが、解説系のコンテンツを発信する上で、ほとんどの視聴者は基礎的な知識を持たず、さらに視聴者にシリーズ動画を一番最初から順を追って視聴してもらえることもほぼ期待できません。

以上を踏まえた上で、学術コンテンツの提供者は何ができて、何を意識するべきなのか?という問題について「VRアカデミア」と「学術系イベントコミュニティ」のdiscordサーバーにて、意見を募りました。

その結果、ありがたいことに多くの方から様々なコメントを頂くことができました。このNoteでは、頂いたコメントを私なりに咀嚼し、ある程度わかりやすい形でまとめさせて頂きます。

※私の解釈というフィルターを通しているため、頂いたコメントの本意からは逸れる内容が含まれる可能性があります。

1.基礎的知識を持たない対象に楽しんでもらうために

まず、基礎的な知識を持たない多数派(話自体に興味はあっても知識不足かつ自主的な学び直し等の意欲は無い程度の人たち)に対して学術を発信する方法論について、多くのコメントが寄せられました。それらをまとめます。

  • 最低限必要な基礎知識をまず説明する

  • 知っていると期待される内容(中高で習うことなど)との接続を意識する

  • 説明したいコアな部分以外を削ぎ落として可能な限りシンプルにする

  • ビジュアル的なインパクトを工夫する

  • 身近な例と紐付ける

  • 応用例を説明する

  • 研究対象ではなく研究方法について話す

  • 失敗談や現場で苦労したことに関するドラマを織り交ぜる

個人的には、コメントで挙げられた方法論のエッセンスは「目標を明確化しその実現に最適化したプレゼンを行うこと」かと感じました。

2.基礎知識がない対象の「理解」

解説系のコンテンツにおける「楽しみ」とは、即ち知的好奇心が満たされることであると考えられます。では、そもそも基礎知識がない対象が求める「理解」とはどのようなものなのでしょうか?これについては、以下のようなコメントを頂きました。

  • 「この世にはそんなことがあるんだなあ」と思う一方で、細かく詳細な理解は出来ない

  • 深く中身が残るわけではないが、「それ聞いた!」みたいな感じがする

  • それなりの達成感がある

  • 関連する話題に対して「よくは覚えてないけど、〇〇の続きかい?」というふうに積極的になれる

  • 何らかの知的好奇心を満たせるかも?という期待はあるが、学術的理解の深さは問わない

また、それらの理解についての限界の指摘もありました。例えば、以下が挙げられます。

  • 絵画の技法や時代背景を知らない人に、絵画のすばらしさは理解できない

  • ドラマ視聴者としては可能だが、主役としては不可能

ただし、上のコメントでは、その限界を前提とした上で「何も知らなくても美術館に行ってもいい」「ドラマとしてでも見せることは有意義」という補足がありました。

3.わかった気がする(わかっていない)の重要性

さて、基礎的な知識を持たない対象の「わかった気がする(実際はわかっていない)」という理解は考え方によってはネガティブな捉え方もできます。ですが、大半の聴衆からはそれが求められているのが現実でしょう。それを踏まえたうえで、この「あいまいな理解」の重要性について指摘したコメントを紹介します。

  • あいまいな理解こそが学びの入り口部分である

  • まずわかった気になってもらわないとスタート地点に立てない

  • 初学者に対して難しいことから始めることを求めるのは酷である

  • 複雑なものを複雑なまま提示しても理解してもらうことはできない

  • 初頭的な理解の段階においてごまかしやロジックのあいまいさは必須である

  • どのような形でも楽しいと感じてもらう人を増やすことは重要

  • ある学術分野の存在自体を認知していもらうだけでも価値がある

  • 学術を鑑賞する層は分野の発展に寄与する

個人的には、コメントは「初学者の入り口」や「学術を支える一般層の存在」の重要性を指摘しているように思いました。

4.あいまいな理解の先へ

あいまいな理解自体には価値があるとは言え、学術に深く触れると、積み上げられた知見の先に見える景色を共有したくなります。そのために、私達にできることは何なのでしょうか?そこに関するコメントをまとめました。

  • 先の世界が存在することを繰り返し伝える

  • 最終的に参考文献や専門書を共有する

  • 最終的にまだ理解できていないことの存在を伝える

  • 現場で学問に取り組む姿を見せる

これらは、学術のもつある種の未完成な側面の共有と言えるかと思います。ただし、これらについては

  • 単純化されない事実の理解は困難である

  • 自信がなさそうに見える人の発言は信用してもらえない

  • 専門家を言い負かしたい人にはきちんと対応する必要がある

という難しさを伴うという指摘もありました。

5.ネガティブな側面

今回のTIPSでは、あいまいな理解のポジティブな側面を多く取り上げましが、負の側面があることも見逃せません。そこについてのコメントを紹介します。

  • にわか知識で痛い目に会ったり騙されたりする

  • 医学のような人の生死に直結しうる内容に関して、あいまいな理解で分かったつもりになってしまうことは危険

これらの問題については、学術とエンターテイメントの狭間に位置するコンテンツを作る際に、常に意識すべき問題だと思います(今回はこれ以上は踏み込みません)。

6.おわりに

このTIPSでは、「浅い理解」と「深い理解」の二項対立という図式が前提とされていますが、これはかなり単純化された問題の捉え方です。究極的には「全て」を理解した専門家は存在しません。そのような意味で「理解」にはグラデーションが存在し、さらにそれを突き詰めるとそもそも「理解」とは何であるのかという問題に取り組む必要がでてきます。ですが、今回はそこには踏み込まず、雑に専門性とエンターテイメント性にトレードオフが存在すると捉えた場合に、コンテンツのクリエーターが何を意識する必要があるのか、という側面に絞って文章をまとめました。機会があれば、引き続き今回のTIPSでは触れられなかった問題についても、皆さんのご意見をお聞きできればと考えています。

謝辞

この文章を書くにあたり、「VRアカデミアdiscordキャンパス」と「学術系イベントコミュニティ」の参加者より頂いたご意見を参考にしました。以下の方々に感謝申し上げます。

敬称略:法月ロイ、Unferth、足立千鳥、固体量子、八ツ橋まろん、水出博雄、LAMBsun、T.Kameoka(ふぁるこ)、しゅば、朱玲華、楓ヒナギク、淳@ヨハネ、あしやまひろこ、片柳英樹、はこつき


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