【食|魚】初鰹が待ち遠しい
今晩何を食べるか?と聞かれると、行きつけの居酒屋か、冷蔵庫の内容から組み立てるなど手近なもので検討するが、今週末または次の連休に何を食べたいかとなると、旬の食材への夢が膨らむ。
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私を含め大概の酒飲みは季節と旬を愛する質で、桃の花が咲いたら酒を飲み、桜が散っても酒を飲み、月明かりと虫の音で夜長を愉しみ、雪が降れば静寂を肴とし、嬉しい時も悲しい時も杯を傾ける。
李白や若山牧水といった酒仙の詩のように、季節の移ろいは酒と共に過ぎて行く。
そしてそこを彩るのが旬の味覚であり、年中ピーカンで能天気に水代わりのビールばかり煽る国や、凍える身体をウォッカで温めて酔い潰れるような国とは違い、忙しなく不経済とも思える四季のある国の利点がまさにこれである。
フキノトウや若竹の苦味に鮮烈な春の息吹を感じたり、冷たい井戸水で冷やされたキウリやトマトに夏の涼を、秋には肥える要素しかなく、冬には美味い脂を蓄えた魚介達が待っている。
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ただ食材の旬というものはあれど、品種改良や養殖、流通の発展で大概の食材が一年中手に入る現代の状況などを考えると、希少性の高い天然食材以外に、もはや食材の旬はただのマーケティングの産物として、生産側の供給の調整によって成り立っているのでは?と訝しんでしまうこともしばしば。
また行き過ぎたご当地食材のブランド化や、昨今の値段の高騰やらも加わり、初物を求める江戸の粋の対価としてなら払うのも惜しくない金額が、ただ誰かに値を吊り上げられていると思うといただけない。
誰かに縛られず自由でありたいというのも酒飲みの特徴である。
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しかしやはり旬の、特に初物には毎年心が浮き立つもので、これから迎える初夏という季節にはボクの一番好きなお魚である鰹が控えており、その走りと聞くと今からワクワクがとまらない。
ただ一片の不安が、初鰹といえばキリリと引き締まった赤身肉でサッパリといただくのが江戸っ子好みなのだが、昨年は初夏に揚がる鰹でもやたら脂がのっていて違和感があった。
これには鰹の回遊ルートが変わったからだ、などと憶測はされているが、原因は不明だそうで、それが旬として定番化されてしまうとチト困ったことである。
脂が乗った鰹ももちろん美味しいのだが、旬は過去からの慣わしや落語「髪結新三」などに見る江戸風俗なんかに思いを馳せながら楽しむものでもあり、やはり脂の乗りは秋の戻り鰹にお任せして、初夏の鰹は芥子と一緒にサッパリといただきたいものである。
今年の鰹はどうであろうか?そろそろ誰か誘って初鰹を食べに行く計画でもたてようかしら。