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証人尋問の準備心得


1 はじめに

 弁護士業務の中で、証人尋問は他に比べノウハウが確立していない分野ではないかと思います。反対尋問や異議の出し方など尋問期日での対応については若干書籍などがありますが特に「尋問までの準備」については指南書的なものはない気がしています(私の読書量不足の可能性もありますので、指摘はしないでください…苦笑)
確かに証人の記憶に沿った証言をすべきという前提からすると準備しすぎることは望ましくないかもしれませんが、先達からの金言に「主尋問は成功して当たり前、反対尋問は失敗して当たり前」というものがありますし(出典元が分かる方は教えてください(笑))、一般的なビジネス本でも「仕事は準備が8割」といいますので、証人尋問においても準備はとても重要だと思います。
 私は今の事務所ではパートナーであり証人尋問の機会も減りましたが、前事務所ではちょこちょこ担当させていただきました。その際の学びが今でも活きているので、折角なので本記事でその一部をご紹介します。

2 初回打合せの重要性

 証人尋問準備の初回は、詳細な打合せに入る前に「証人尋問とは何たるか」を説明する書面をお渡しします。一般の方は大抵「ちょこっと法廷ドラマで見た」状態なので、変に見かじっている状態です。ここで目線合わせをしないと尋問当日に「え、そうなってるんですか」と混乱してしまい、結果尋問もうまくいかない…ということが考えられます。
「弁護士にとって当然の前提でも、一般の人はそうではない」と自覚して一から説明をすべきだと思います。
 説明書面の内容は大体こんな感じです。

  • 証人尋問は事実を話す場であり、主張や意見を述べる場ではないこと

  • 尋問当日の流れ(主尋問・反対尋問・補充尋問や人定質問・宣誓など)

  • 質問に端的に答えること(ダメな例と良い例を挙げて説明)

  • 裁判官の方を向いて話さなければならず質問は横から話されること

  • 質問がよく分からない場合はもう一度尋ねてもらって構わないこと

  • 記憶があやふやな部分は「覚えていない」と言ってよいこと

  • 反対尋問でわざと興奮させる質問がきうるが感情的にならないこと

 以上の暗黙知を明確にすることで、ようやく尋問に向けた準備(記憶の確認、練習)ができます。面倒ですが、この「準備のための準備」は尋問を成功させるために不可欠ではないかと思います。

3 陳述書との棲み分け

 他事務所の方(同期や後輩)と飲んでいたりすると「尋問がほぼ陳述書をなぞるだけになってしまう」といった悩みを聞くことがあります。意味は良く分かるものの、私は(というか前事務所では)案件に取り組む中でこの心配はさほど現実化しませんでした。
 これはおそらく考え方(フレームワーク)の話かなと思っていて、前事務所では概要「陳述書の行間を埋めるように証人尋問を考える」という風に指導を受けていました。

  • 陳述書を第三者目線で読んでみて、気になる点や分からない点

  • 当方の考えるストーリーや立証構造の関係で陳述書では足りない点

 ここらへんを尋問で埋める感じです。その意味では、実は陳述書でこれらの点がフォローされていればいよいよ尋問は不要になって正に陳述書をなぞる尋問になる訳ですが…それは理想すぎますよね苦笑

4 尋問直前・当日の注意点

 尋問期日が近づいた際や当日で重要な対応については、以前にXで投稿し反響をいただきました。改めて説明&補足したいと思います。

(1) 提示予定の書証をまとめる

 特に書証が多い事件の場合、提示予定の書証を探して開くだけでもタイムロスとなります。証人尋問で提示する予定の書証だけ抜粋して、もう1冊尋問用のファイルとして事前準備しておくことをおススメします(書証が多いと、証言台にファイルを持っていくのも相当に億劫ですからね…)

(2) 書証を提示する際は裁判官を見る

 当然ですが証人尋問は「裁判官に心証を形成してもらう」ことが目的です。そのため尋問中に書証を提示する際には、裁判官がその書証を開いたことを確認してから、尋問を始めるべきです。

(3) 尋問時の注意点

 主尋問は予定通り進むと思いますが、反対尋問などで万が一証人が「こそあど言葉」を使った場合、忘れずフォロー(こちらの再主尋問で明確化)すべきです。同じく図や写真について言及した場合は、それを調書化しても疑義がないように言語化するべきです。

5 さいごに

 とりとめないですが、ざっと思いつく限り記載してみました。証人尋問は書面と違って事後的な挽回は難しく、準備がかなりものを言う分野だと思います。皆さまの証人尋問が実り多きものになれば幸いです…!

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