「四大vs街弁」論争から見る弁護士業界


第1 はじめに

 「四大(最近だと五大)か、街弁か」という論争が最近SNSのいわゆる「法クラ」内で話題になりました。このテーマはしばしば界隈ではホットトピックとなるようです(ちょっとXを検索したところ2年前の投稿が沢山出てきました)

 私も法クラの末端(何だこの言葉)としてこの論争を傍で見ていたのですが、もやもやっとした違和感を抱かずにはおれないのです。なかなか140文字では整理がつかず(今はプレミアムですが…)このnoteで整理・言語化してみようという次第です。
 当論稿では、法曹志望者(修習生・受験生)からの立場および弁護士からの立場にそれぞれ立って(今私は弁護士なので、前者については想像の範疇を出ないことをご容赦ください)この論争を分析してみたいと思います。

第2 法曹志望者の立場に立って

1 一番の問題は何か

 法曹志望者の皆さんから見て一番困ると思うのは「自分にとって四大(大手)がいいのか、街弁がいいのか入ってみるまで(何なら入ってからも)分からない」ということです。
 この原因はちょっと考えてみると以下の点にあるのではないかと思います。

  1. 四大(大手)や街弁の情報が断片的にしか入らず就職の参考にならない

  2. 「情報収集」<<<「司法試験合格」になる

 1については、弁護士業務の性質上、表に出せる情報が少ないためやむを得ない部分もあります。また、2についても合格しない限りスタート地点には立てないですしこれも致し方ないような…

2 「問題」への問題提起

 「いやちょっと待って!」といいたいのが本項目。
 確かに情報は断片的だし、司法試験合格の方が重要。これは間違いないです。でも、たとえば一般企業就活であっても企業のコアな情報とかは当然出てこない(要するに情報の非対称性は少なからずある)し、司法試験を受験した後は基本自由ですから情報収集は全然可能なはずです。
 要するに、「四大vs街弁」論争で法曹志望者が困っている点について、コントロール可能性が無いないし低い事情でまぁ仕方ないと流していい問題ではないのではないか、というのがこの論争の本質な気がしています。さらに言えばその原因が全て法曹志望者にあるという訳でもないと思っています。その点は次の項目で。

第3 弁護士の立場に立って

1 弁護士はどの点で論争しているか

 主に弁護士がプレイヤーになっている「四大vs街弁」論争ですが、その議論の中心となるのは「どっちが働き方として『良い』か」という点で概ね齟齬はないと思います。ただ、よくやりとりを見ているとこの『良い』についてはめちゃくちゃ皆バラバラな印象です。

  • どっちが稼ぎがいいのか

  • どっちがワークライフバランスを重視できるか

  • どっちが転職の際に融通がきくか

  • どっちが弁護士として成長できる環境にあるか etc

 しかもそれぞれ短期的な視点や長期的な視点もからみ、あまり議論がかみ合っていない(というかそれぞれがそれぞれの良さを語っている)感があります。ただ、別にこれ自体を批判したい訳ではありません。皆さんおっしゃられていることはそれぞれ(ご自身の経験に裏打ちされた部分に関しては)正しいと思いますし。

2 この論争から見える問題点の一考察

 私が、この論争が起きている状況に感じる問題点は以下のとおりです。

  1. 批判対象(特に四大)に対する解像度が低い

  2. 四大vs街弁という二極対立が実情に即していない

  3. 弁護士側の(歴史的背景に基づく)情報発信不足

  4. 弁護士業界への影響

 1点目は、四大の方が街弁の方を、逆に街弁の方が四大の方を批判する際に、その批判内容の解像度が低いんじゃないかな、という点です。特に四大批判の典型例である「9時(午前)5時生活が当たり前」「若いうちに酷使されてパートナーになれるのは一握り」「高給だが物価も高いから結局お金貯まらない」等の昔から言われている批判は、当てはまらない面もあるのではないかと思っています(私も非四大非大手なのであくまで友人の伝聞ですが…)
 2点目は、司法人口増加や競争激化を契機に多発的に発生している新しいスタイルの法律事務所(ブティック事務所、中小規模ながらフットワークが軽く費用も大手ほどではない企業法務事務所、webマーケティングや組織運営など合理的経営をはかるいわゆる新興系法律事務所、新興系の良さを取り入れつつ、法律分野ではなく業界に特化することでノウハウの合理的集約をはかり顧客ニーズに応える形の新・新興系法律事務所(勝手に名付けてみました。私が今いる事務所はこれ)を捨象してしまっているのが、とても勿体ないなと思う次第です。法曹志望者からするとここらへんの情報を知りたいはずなのに、SNS上では大手と街弁の対立軸でしか話が展開されておらず、さらに断片的なのでやはり就活の参考にできない(というか往々にして不正確な情報に踊らされる)という状況になっている気がします。もっと色々いい事務所あるのになぁ…(弊所も!)
 3点目は2点目と同じくらい深刻で、やはり弁護士業界の大部分は外向けの情報発信が下手な印象を受けています。私自身も事務所では人事採用、弁護士会では広報を担当しているので情報発信を携わっていますが、他業界に比べて2段階、3段階も遅れています(反省)。これは過去の業務広告規制や就職状況(修習地でいいなと思った人がいたら採用する、くらいのスタンスで採用ができた)などを踏まえるとやむを得ない面があることは否定できないものの、司法改革から20年がたち、プレイヤー側も意識・行動変革を行っていく必要があると思います。四大vs街弁論争も、この情報発信不足と切っても切れないと思います。2点目であげた新しいスタイルの法律事務所(私も含む)がもっと情報発信していかないという自戒の念も込めて。
 ちなみにこれは非弁も同じで、非弁業者を取り締まることだけでなく、業界全体の情報発信力を高めないと。そうじゃないと非弁業者に負け続けるし、結局いたちごっこだと思っています。
 4点目は、ちょっと引いた目線でこの論争を見てみると「なぜ同じ弁護士の間で相手方当事者でもないのにしょーもないイデオロギーで論争しているんだろう」と思わざるをえません。そんなにプライベートでも論破したいのか…苦笑
 寡聞ではありますが、他の士業を含め「自分たちと異なる士業に対する批判・反対意見」は散見されるものの、「同一士業間でのイデオロギー対立(少数に対する批判はあれど、半々くらいの対立関係)」はあまり目にしたことがありません。弁護士という(私も含め)プライドの高い人間が、自分の存在価値を守るために異なるスタイルの弁護士を批判するなんて、業界全体の発展を阻害こそすれ、促進にはつながらいんじゃないかなーと思う次第です。もっとお互い寛容にいた方が幸せだし、その方がお互い勉強になる部分があると思いませんか。

第4 さいごに ~業界の今後を信じる立場に立って~

 なんだか取り留めもなく書き連ねましたが、私自身は弁護士業界はまだまだ明るいと思っています。というより、弁護士はあくまで一つの資格でしかなく、それと色んな掛け算をすれば無限大の可能性があると信じています(ですし今それを実践しようとしています)。昔ながらの職人(jobではなくberuf(天から授かった職業))としての弁護士を目指し、日々研鑽を積む先生方には最大級のリスペクトをもっていますが、私はそれに向いていないし、みんながみんな「古き良き弁護士」を目指さなくていいと思っています。そしてそのお互いが、お互いに対してリスペクトをもって接し、弁護士という職業(という資格)の社会的信用を多方面的に維持向上させていければ最高じゃないかなと思う次第です。
 要するに、四大も街弁もそれ以外も、弁護士は最高なので志望者の人はまず勉強頑張って欲しいし、転職を考えている人も含めて情報収集をしっかり頑張って欲しいです!どんな点数でも資格はとったもん勝ちですし、世の中は「四大か街弁か」だけではないので、ぜひ色んな法律事務所を見て、話して、知ってください!あなたが思っているよりも、あなた自身の可能性は無限大です。
 そして、もし弊所に興味があれば、遠慮なくご連絡ください!!(一番言いたかったこと(笑))

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