石破茂で見るINTPの成熟と限界

 別に政局を語るわけではありませんが、色々な討論や特集記事を見ていると石破茂の考え方や振る舞いはとてもINTP的だと感じます。以下にINTPの課題と、経験を積んだINTPが見せる成熟、そしてその限界を見ていきましょう。政局に詳しいわけではないので事実誤認があったらごめんなさい。

INTPの課題:他者感情の理解に関する困難

 INTPの特徴として、事実に対してどこまでも正直です。その「事実」なるものがどれだけ客観性を帯びているかについてはムラがあるという問題もありますが、基本的に自分の中で論理的に正しいと考えたことに関してはほとんど妥協することがありません。

 石破はそのためにこれまでさんざん党内野党として冷や飯を食わされてきました。かつて石破があまりにも正論を振りかざす様を見た竹下登から「石破な、お前な、自分がいつも正しいと思って言っているだろう。正しいことを言う時は、人を傷つけるものだとよく覚えておけ」とたしなめられたそうです。出典

 ただ、その歯に衣着せぬ言動のために昔から国民的な人気は根強かったですから、その正論マンっぷりは間違いなく石破にとっては武器であったと思います。しかしながら、同時期に安倍晋三という非常にバランス感覚に優れた政治家が君臨していたことは石破にとって非常に不運だったかもしれません。
 安倍晋三は毀誉褒貶の激しい政治家ではありますが、同時に日本史上でも最も感情ー論理のバランスに優れた政治家だったように思います。彼は保守政治家の重鎮として生前から言われる岩盤支持層と呼ばれる強力な応援団を擁し、死後に至ってはもはや神格化されているとまで言える一方で、その政策としてはむしろややリベラルであり、実は彼の支持層の志向とあまりマッチしていませんでした。また、いろいろな疑惑の絶えない政治家でしたが、だからといって「そういう人」を実務で重用するわけでもありません。それでもファンが離れなかったのは偏に彼の個人的な魅力と、感情的なアプローチの絶妙な出し入れによるものでしょう。聴衆の感情的な満足と政治を見事に切り分けていました。

 「他人を感情的に満足させる」というのは政治家として必要不可欠な能力で、安倍はこの点天才的ともいえますが、一方で石破というかINTPが最も苦手とするところです。
 INTPはいついかなる時でも正論を述べることが他人に対する誠意だと考えます。自分の手札をすべて相手に見せることで、正々堂々自分の意見を戦わせるのです。
 そんな彼らも実際には他人と意見をすり合わせることについてはやぶさかではないのですが、その他人との意見の調整過程に特徴というか問題があります。
 彼らは常に「より真実に近い結論」を求めるために行動しますし、相手にも同様の覚悟を求めます。INFJはより壮大な視点から真剣を振り回しますが、INTPは一つ一つの論理性において相手に真剣勝負を挑みますし、それが礼儀だと思っています。
 そのため自分の意見を踏まえた上での反論を受けたならばそれをしっかり受け入れるだけでなく相手に対して敬意も表します。しかし、自分の論理を尊重しない存在に対しては軽蔑までしてみせます(これは彼らなりの自己防衛かもしれませんが)

 結果INTPは周りから距離を置かれることも多いのですが、それにより少なくとも自分が正しいということを示せたのなら満足します。自分の信念を実現するということそのものには本来それほど関心がないようです。それを「誇り高い」ととらえる人もいるでしょうが、政治の世界ではそうはいきません。
 実際、その高潔な信念に惹かれた人たちを中心に「石破派」なるものが出来たこともありましたが、のちに愛想をつかしてしまった人も少なくないようです。

INTPの魅力:真実を求めるひたむきな姿勢

石破茂は、終わったのか | NHK政治マガジン
 この記事は前回石破が立候補した総裁選に関するものですが、石破の盟友だとされている山本議員は今回小泉進次郎の推薦人に名を連ねたようです。
 またこの記事で別に紹介されている山下議員は石破派離脱後茂木派に所属しています。よりによって石破と仲の悪い麻生とつながりの深い茂木派に流出してしまうというところに石破の不器用さが見えてしまいます(自民党政治とはそういうものなのでしょうが)。
 しかしながら、いずれも決選投票では石破に投票したようです。特に山下議員については決選投票では旧派閥の指示を無視して石破に投票したとのことでした。
 ※山下議員については初回投票では加藤候補に投票しており、茂木派が事実上分裂しているということも原因に考えられますが…詳しくはわかりません

 INTPの人望はこういうところに現れるのかもしれません。すなわち、本人がどんなに不器用で下手くそでも、周りはどこか失望しきれないのです。それは彼らの執拗に真実を追い求める姿勢から来るのかもしれません。
 最初に述べた通りここでいう「真実」がどれだけ客観性を帯びているかにはいささか疑問が残るにせよ、己の真実を信じ続ける人というものはどこか魅力的に感じられることがあります。全力で応援するのは少し怖いですが、「二つに一つ」という場面でこういう人に賭けてみたくなる気持ちもわからないではありません。

INTPの成長:感情への興味関心

 INTPは、感情の大切さに気付いたときに圧倒的な成長を見せます。
 もともと感情に対して疎いINTPですが、興味を持ちだすケースもあります。石破も元々興味がなかったようですが、党内野党として冷や飯を食っている間に感情へのケアの大切さに気付いたようです。
 2020年の総裁選から「納得と共感」というキャッチフレーズを頻繁に使うことになります。元々は安倍政権への当てこすりからこのフレーズを使い始めたような気がしますが、今回の総裁選でもどの番組に出ても必ずスローガンとして掲げていました。安倍晋三にどうしても敵わない自分を反省することで気づきを得られたのかもしれません。
 INTPは「どうやら人付き合いでは感情への対処が大事かもしれない」と気づいたら、あたかもそれが大発見であるかのように感じます。周りから見れば当たり前かもしれませんが、INTPからすればその発見は天地がひっくり返ったような衝撃を受けるようなものです。石破は安倍との戦いを通じてさぞ「感情」について研究したことでしょう。

 その研究は、2024年総裁選の所信演説で結実します。

 石破はここで、かつてのようなデータを並べ立てる演説(2018)や安倍への当てこすり(2020)は鳴りを潜め、徹底してエモーショナルな演説を披露します。
 人間として未熟な自分への反省⇒古き良き日本の原風景⇒生まれ変わる自民党⇒希望溢れる日本と規律正しい自民党への決意
 それこそ国会議員の「納得と共感」を呼び起こすには完璧な流れだと思います。元々論客として評価の高かった石破の面目躍如たる演説ですが、この演説は「感情」へのフォーカスなしに生まれ得なかったものだと思います。この演説がどれだけ結果に影響したかはわかりませんが、この演説を聞いて「まあ一度石破に任せてもいいんかな」と感じた議員は少なくないのではないかと考えています。
 ともかくこうして、石破茂は数多の困難を乗り越え、また感情への配慮を見せることで、悲願であった内閣総理大臣の座に就くことになります。


INTPの葛藤:現実と自らが求める真実の間で

 しかしながら、皆さん知っての通り、今のところ石破は政権運営に苦しみぬいています。今回の自民党の惨敗の原因を「石破カラーを封印してしまった」「石破が自民党に飲まれてしまった」ことに求める人も少なくありません。直接的な原因は2000万円問題などいろいろあるにせよ、僕もそれが根本的な原因になったのではないかと思います。
 石破はこれまでの感情軽視のために議会内で不人気で、党内基盤がぜい弱だということは有名ですが、過去を見れば小泉純一郎という人がいます。小泉も決して強力な基盤を持っていたわけではありませんが、あそこまでやりたい放題出来ました。石破の基盤が小泉以上に脆弱なのも事実ですが、それにしても総理の座を射止めてからの石破内閣の立ち回りは「優柔不断」の一言に尽きると思います。森山幹事長の顔の広さが仇となった面もあるのでしょうが、どうせ総理になったのだからいくらでも大鉈を振るうことはできたはずです。いろいろ縛りがあったにせよやることなすことすべてに石破本人の意思を全く感じないというのはさすがに異常であるように思います。
 実際はその通りで石破本人では大して何も決められなかったというのが正解なのでしょうが、このブログはMBTIをメインに据えているので、そういった切り口でも考えてみます。

 INTPは優柔不断であると評されることがあります。いや実際は強い信念を持ち、決断力にあふれた性格タイプですが、自分の評価軸とは異なる軸で何かを決めなければならないとなると、一転して何も決められなくなるのです。
 INTPは目に見えない選択肢を含めてすべてを吟味しつくすことで、絶対的な真実を求めます。しかし、政治には「絶対的な真実」など存在しないので、現実との調和が求められるのですが、彼らの求める真実はあくまで絶対的なものであり、一歩も妥協を許しません。現実と協調しようにも、かれらの判断基準は本来「絶対的」なものですから協調のしようがありません。
 その結果、何も決められなくなります。彼らにとっては自分の価値観が絶対ではないということは、何を基準にして物事を決めたらいいのかわからないということと同様であり、手足が完全に封じられたも同然でしょう。
 はたから見れば「せっかく総理になったのだし、これまでも周りに嫌われてきたのだから、これからも周りに嫌われたとしても問題ないだろう。自分の信念をもっと貫いてほしい」と感じますが、上記の考え方が正しければそもそも無理な話なのかもしれません。他人の感情を表面的にケアすることは覚えても、それを自分の信念とうまく組み合わせるほど感情に熟達することはもしかしたらないのかもしれません。
 もっと周りへの配慮が上手なタイプだったり、外交的思考を重視するタイプ(=必要があれば周りへ配慮してきたタイプ)であればうまく調整するのでしょうが、比較的内的世界で完結しがちなINTPは、どうしても内的世界と外的世界の間を調整する経験値が不足します。また、よく聞いてみると周りの意見もそこまで不合理に聞こえないのかもしれません。強い内向的思考のため、自分の信念に関係なくつじつまが合う話を聞くとそれはそれで納得してしまうのです。
 そういう流れで、INTPは周りの意見をどれだけ考慮すべきか、一方でどれだけ自分の信念を貫くべきか判断できず、行動できなくなる傾向があります。これは何も総理大臣じゃなくても、一般的なINTPにも起こる行動であるように見えます。

 まとめ:迷ったら自分の目的を見つめなおそうね

 ここまで石破茂の半生を追っかけてきましたが、「INTPが総理大臣になったら」というタイトルでも十分通用するかと思います。
 INTPは何事にも揺るがない真実への探求欲が最大の魅力で、そのために周りから押し上げられることもあるでしょうが、結局はその信念をどうやって現実に落とし組むかが何かを成し遂げるカギであるように思います。
 百戦錬磨の国会議員ですらこうなわけですから、一般庶民のINTPは特に意識をしていく必要があるように感じます。
 僕もNTP型としてとてもよくわかります。自らが信じる真実にどこまでも忠実であるNTP型に「周りをマネしながら」とか「周りの意見を聞きながら」上手に調整していくという芸当は基本的に難しいように思います。一方で、現実を見ず内向きな思考を繰り返しても状況は悪くなっていく一方です。
 「詰んでしまった!」と思ったらもう少し広い視野に立ってそもそも自分は何がしたいのか、どうなりたいのかを見つめなおし、一度すべてを捨て去って改めてその目的に沿った戦略を練り直すことで次に進むべき道が開けてくるのかもしれません。何かあるたびに一から理論を積み上げていくという形を取れば、INTPは誰よりも上手に現実と向き合うことが出来るでしょう。

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