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[数学記号の話] 「・」について(起) ○なのに点とは?

● 100点が不思議 ●
 「点」と言うのは,学校で気になる用語の一つです。教師はテストをすれば,得点をつけるし,子どもたちも100点を取ればうれしいものです。
 でも,ちょっと待ってください。本当に100個の点が付いていたらうれしいものですかね? つまり,「・」または「✓」がついていたらどうでしょうか?〈全部間違えてしまった〉と思ってしまいませんか?

 実際には○をつけておきながら,100点と言うのは不思議な気がするのです。○をつけるのなら「100まる」と呼んだ方が良いように思うのです。ばかばかしい考えかもしれませんが,モノを数えるときはそのモノの名称を助数詞として利用するのが普通です。人を数えるときには「1人,2人,3人……」です。動物を数えるときには頭を数えるから「1頭,2頭,3頭……」と数えます。「1匹,2匹,3匹……」の「匹」は「お尻」を意味しています。だから,やっぱり意味からすればあっています。「1枚,2枚,3枚……」の「枚」は「平」と同じ意味があります。(大阪には枚方市ひらかたしがあります)だから,平たいものを数えるときに使うわけです。

 何かというと○をつけるのは日本の特徴です。欧米では✓をつけます。欧米流はアンケート用紙等でもチェックリスト方式です。「○をつけましょう」ではなく,□があって✓を入れる形式です。

 学校制度は明治維新のときに外国をまねして作ったものです。だから,「100点」とか「満点」,「得点」と言う用語も外国語の翻訳だと考えました。ここまで考えるとさすがに自分でも不安になってきます。……本当でしょうか?

 こういうときに日本語の語源をしらべる辞典として有名なのが『日本国語大辞典』(小学館)です。わかる限りの初出の文献を示しているからです。

ひゃくてん【百点】
②試験などで,規定された点数の中の最高点。満点。転じて,申し分のない状態をいう。
*少年行(1907)〈中村星湖〉六「武は三番だけれど,算術は百点だ」

 1907年と言えば明治40年の用例です。学校教育の結果,100点と言う言い方が広まったと言っていいでしょう。他の用語も調べてみました。

まんてん【満点】
規定された点の最高。また,それに達すること。転じて,完全なこと。申し分のないこと。
*火の点いた煙草(1927)〈横光利一〉「動かなければ,確に彼女は満点だ」

とくてん【得点】
競技・試験などで,点を得ること。また,その点数。
*朝野新聞 明治二三年(1890)七月三日「内国電報〈略〉国島博氏百三十四票の得点なりしが」
*話の屑篭〈菊池寛〉昭和六年(1931)八月「早稲田大勝す早稲田断然勝つ,などしたるまではよけれども,その得点を5A体4としたるこそをかしけれ,Aをひゐき心に付けたるなるべし」

 このあたりの用語は日本に昔からあった用語ではなさそうです。

 点,英語で言えば「point」。
 もとはペン先でつけた印のことを意味しており,「✓」も点です。得点は英語にすれば「get a point」となります。どうも欧米では点によいイメージがあるようです。だからこそ,テストで正解なら✓を入れ,✓の数を数えていたのでしょう。
 しかし,日本でよいイメージがあるのは○です。そのため,正解で○をつけているのに,「point…点」となったのでしょう。

 もともと,「点」には数学で使うような厳密な意味での「・」はありません。
 漢文を読む人になれば,漢字の左下に「㆑」と言う記号をつけて「㆑」と言っています。「㆑」だって立派な「点」なのです。その他「返り」と言ったら,「一・二・三,上・中・下,甲・乙・丙,天・地・人」とぞろぞろいろいろな文字が出てきます。これら皆,「点」になるのです。
 それにスキーのジャンプ競技では「K」と言うのが話題になります。あれは〈これ以上遠くへ飛ぶと危険ですよという目印に引いてある線〉です。つまり,線だって,「点」と呼んでいるのです。
 日常生活的な感覚で「点」と言えば,それは〈小さな印〉〈符号〉と言った意味です。だから,「○」も「点」として受け入れたのでしょう。
 点と言って,「・」を思ってしまうのは数学教育による成果です。

てん「点」
⑥文詞の添削。和歌・連歌・俳諧の各首各句に,評者が評価を示すために加える,かぎ印や「◦」印「ゝ」印などの記号。また,その評価。→合点(がってん)・点を打つ・点を掛ける。
*隣女集(1295)(以下省略 森下)
⑦(⑥から転じて)物事を評価・批評すること。また,高く評価すること。
*洒落本・遊婦里会談(1780)
⑧評価としての点数。お点。
*破戒(1906)〈島村藤村〉二一・六「中には,朱で点を付けたのもあり,優とか佳とかしたのもあった」

 日本では作品の優れた部分に○やゝなどの印をつけて評価していたわけです。それと英語の「point」の意味が重なり,現在のような使われ方になったのだと思います。

 それではそれまでの日本ではどうやって評価をしていたのでしょうか?
 ボクの予想です。
 おそらく絶対評価で「可」「不可」ですんでいたのだと思います。

 次の「承」では外国の話をしてみます。

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