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時間がかかるけどいいかい
メタセコは、僕の腰ぐらいまで成長し、3歳の息子の背を追い越してしまった。ユウタが1歳ぐらいの頃には、彼と同じサイズだった。まるで兄弟のようだった。
彼が生まれる前は、僕は、ナオさんと一緒に暮らし始めた。ナオさんは、僕がよく通っていた公民館の園芸サークルで出会った。僕ははじめの一ヶ月間、木を育てることについて学んだら、あとは庭にある三本のメタセコに集中して他のことは目に入らなかった。
ナオさんは、公民館の花を育てながら、僕の話すメタセコの話をずっと聞いてくれた。
公民館での一日は、ほとんどナオさんとはなすために費やされた。三本それぞれ成長の度合いや、枝の付き方も違う。
僕はそれぞれに、木、金、土という名前をつけていた。読みはそのまま「モク」「キン」「ドウ」である。
それって面白いね。ナオさんは、初めて聞いたときに笑った。週末に向かう感じが、心地よいからだよ。と僕は笑った。
モクは、黙々と育つ。ユウタが、一番良く隣りにいる。アパートの生け垣を追い越しそうな勢いである。葉は鋭く上に向かって茂っていて、太陽の明かりを求めている。水を上げると一番良く吸収する。
キンは、紅葉が美しくて秋になるとまだ幼い木のはずなのに、鮮やかなグラデーションに葉を染める。夕日の中で光っているかのようだった。
ナオさんがうちに来たときはちょうどキンが紅葉しているときで、庭にレジャーシートを敷いて一緒に昼寝をした。ナオさんは、なぜかガーデニングをするときの軽いウィンドブレーカーと、ショートパンツとタイツで来ていた。
ランニングも、趣味なのと、ナオさんが、新しい趣味を教えてくれて、僕も走りたいと言った。それでよく、公民館の帰りは二人で走って帰った。
ドウは、どっしりとしていて、小さいのに盆栽の趣がある。昔の茶人たちが命をかけて採りに行った断崖の松のように、どうやら珍しく、メタセコイアなのに、高く伸びずに太くなるばかりだった。
それを見た博士は、盆栽にしよう。と言って、週末は庭の手伝いに来てくれる。一番手のかかるのが彼で、博士も最初の方は手こずっていた。
ドウは、そのままで良いとして、モクとキンは鉢から地面に植えてあげたい。大家さんに相談したところ、いいんじゃない、メタセコアパート。と言われたので、この庭の端と端に植える計画をしている。
私も手伝いたい。計画を話したところ、ナオさんは、目を輝かせて僕に詰め寄った。時間がかかるけどいいかい。僕は、博士に最初に言われた言葉でたずねた。ナオさんは、キラキラした目のままうなずいた。だから、僕は、いいよと言った。
やったー、とナオさんは両手を上げて喜んだ。
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