小説が苦手な私の為の小説①

 パブロフの犬という実験をご存知だろうか。
犬にベルを鳴らしてえさを与える続けると、ベルを鳴らしただけで、犬が条件反射でよだれを分泌するようになるというを有名な実験だ。
 一番わかりやすく、身近に、この現象を目の当たりにしたければ近隣のパチンコ店に行くといいと思う。ジャグラーというスロットの周りには

【GOGO!】

と書かれたランプが光ると条件反射で脳から快楽物質がドバドバ溢れ出てくる人が沢山集まっている。

斯く言う私自身が、その内の一人だ。

今【GOGO!】という文字を見ただけでもドキドキするようなふわふわするような気持ちになりあわよくば光輝き出さないかなぁとEnterキーをグリグリしてしまう程度にはパブロフの犬を馬鹿に出来ない人間だ。自動車を運転している時にパチンコ店ののぼり旗に掲げられた淡く光る【GOGO!】夜布団に入り目を閉じていると頭の中で聴こえてくるガコッ!という音と共にペカッと浮かび上がる光り輝く【GOGO!】。どれもが私の唾液腺を刺激し、無いはずのしっぽをぶんぶんとさせてしまう。
そんな感じでギャンブルをする人もしない人も今何の話をしているか分かりづらいと思うので結論から述べると

 

ジャグラーみたいな小説が書きたい。

なぜなら小説を読む事がとても苦手だから。



 私は小説をほとんど読まない。小さい頃から活字に触れる機会も少なく、大人になった今も進んで自ら小説を手に取ろうとは思えない。その理由を自分なりに考えてみた所、自分には文字を読み、想像し、物語の中に没入していく感覚が備わっていないという結論に至った。文字から登場人物の表情、心情を読み取れず、壮大な世界観も美しい景色も見えてこない。今にも踊りだしたく成る程の軽快な音楽も聴こえて来ない。集中力も想像力も国語力も足りない。小説を楽しむ為に必要な最低限が備わっていないのだ。
だが、読みたい気持ちはある。世の中には沢山の物語が溢れていて、その大部分を占める文章による物語を楽しむ事が出来ないというのは非常に勿体ない。しかし、今更想像力を豊かにし驚異的な集中力を手に入れる事が簡単だとは思えない。見え無いはずの景色を思い描き、聴こえないはずの音を想像する事など……。



出来る。

出来ている。

出来るんだ。そう、【GOGO!】ランプなら。

見えないはずの光を思い描き、聴こえないはずのガコッ音すら聴こえる。周囲の人々が振り返る気配すら感じる。小説を楽しむ為に最低限必要な力は既に持っていた。必要なのはこの【GOGO!】ランプにのみ発揮する事が可能な想像力を、文章を読む時にも発揮出来るよう訓練する事だ。ならば『ジャグラーを打ちつつ感動的な物語が進行する小説』を読んで訓練すればいい。【GOGO!】ランプが補助輪の役割と言えばわかりやすいだろう。慣れてくれば感動的な物語にも想像力を発揮出来るようになるはずだ。

しかしもう一つ問題がある。

果たしてそんな小説は面白いのだろうか。そんな『ジャグラーを打ちつつ感動的な物語が進行する小説』という訳の分からない小説で訓練してしまえば想像力は身に付くかもしれないが、小説は楽しくない物として私の脳にインプットされてしまうかもしれない。
パブロフの犬のようにベルがなるとご飯が食べられる想像をして、幸せな気持ちになれるように。私のようにランプが光ると気持ちの良い音と共に大量のメダルが出てくる想像をして、幸せな気持ちになれるように。文字を読むと何かをご褒美を想像して、幸せな気持ちになれるようにしなければいけない。
この問題を解決する為に必要なピースは、私の中に既にある、想像するだけで幸せな気持ちになれる物。それを利用すればいい。


_人人人_
>GOGO!<
 ̄Y^Y^Y ̄



幸せだ。本物には遠く及ばないがこの文字を見るだけでも幸福感と高揚感に包まれる。出来ればもっと色をつけたり輝きを表現したいが文字のみとなるとこれが限界だが、十分幸せな気持ちになれる。つまりこの
_人人人_
>GOGO!<
 ̄Y^Y^Y ̄
を『ジャグラーを打ちつつ感動的な物語が進行する小説』の行間や文末全てに散りばめる事で私が小説を読むとGOGO!ランプを得られると勘違いをし、幸せな気持ちになる事が出来る。つまり小説を楽しむ事が出来るようになるのだ。

よし、書こう。恐らくそんな小説は存在しないので私自ら書こう。

そうして私は人生で初めて、小説を書く決意をした。


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