日曜担当③
剛志明奈の本性を知ったのは去年のことだった。
深夜1時、私はとある娯楽施設にいた。そこは朝4時まで営業しており、施設内にはゲームセンターにバッティングセンター、ボーリング場、ダーツにビリヤード、おまけに野外バスケットコートまでもが立ち並んでいた。至るところにネオンライトが設置されており、夜のこの施設はまさに夜遊び場であった。そんな場所の客層は想像に容易いだろう。私は上手く馴染めているだろうかと考えていたとき、黒くて光沢のあるダウンに金のラインの入った白いスウェットを履いた女が喋りかけてきた。
「お待たせ。」
剛志明奈だった。
「いやそんな待ってないよ。」
実際は20分待っていた。
「光もまだ来てないのか。あいつが仕事なわけないし。もうゲーセンいるかもね。」
「確かに。探しに行ってみるか。」
私は2人と待ち合わせをしていた。もう1人は松本光。剛志明奈と同じく私の不良仲間だった。彼は高校には通っておらず、実家の板金屋の手伝いをして暮らしていた。年は2つ上だった。
案の定、光はスロットを打っていた。
「先いるなら連絡ちょうだいよ。」
「おー明奈着いたか。悪い悪い今当たってるのよ!」
光はご機嫌であった。
「ここコインゲームだし、メダルが増えたって意味ないじゃないですか。」
「おー久しぶりやんヒビキン。メダルゲームはメダルが無くならない限り無限に遊べんだろ。意味はあんだよ。まぁ木城なんかに通ってるやつには庶民の暮らしはわからんわな。」
光はよく私が高校をサボってることをいじってきた。
「まだ辞めてないし、通ってない奴よりはマシですよ。」
「俺は実家継ぐから勉強なんてしなくていいんだよ。俺はもうちょいこのスロット打つから2人でビリヤードでもしてこいよ。」
本当に自由なやつだ。この自分本位な性格を私は何度羨ましいと思ったかわからない。
「そうするわ。」剛志が応える。
こうして私と剛志はビリヤードを始めた。全部で50台はあるだろうか。随分大規模な施設だ。埋まってる台は10台ほどであろうか。タバコをふかしながら、ビールを飲みがなら、各々の台がそれぞれの楽しみ方でビリヤードを嗜んでいた。この空間にいるだけで自分がビリヤードの上級者であるような感覚が沸いてくる。
「負けた方が瓶ビール奢りね。」
いつのまにかタバコを吸い始めていた剛志が煙を吐きながら言った。無論未成年である。
「いいよ。最後の球を落とした方が勝ちにしよう。」私が応える。
試合時間は15分ほどだったろうか。私にビリヤードの経験はほとんど無かったが、最後の球を含む13球を私が落とし、剛志明奈は瓶ビールを奢るハメになった。
「おう、丁度終わったみたいだな。」
私がビールの栓を開けたと同時に光が戻ってきた。彼もまた片手に瓶ビールを持っていた。
「なんだ明奈不機嫌じゃねぇか。どうした?」
「...」
「なんだ無視か。お、ヒビキンもビール飲んどるんか珍しいな。乾杯だ。」
本当に今日の光は機嫌がいい。そもそも彼は私のことをヒビキと呼んでいたはずだ。
「剛志が勝手にビリヤードで瓶ビールを賭けてたんで。俺は飲みたくもないのに。」
「何それ、飲みたくないなら奢る前に言ってよ!」
剛志が急に喋り出す。
「まぁこいつここ最近ずっとビリヤードの練習してたからな。久しぶりのお前に負けて悔しいんだろ。俺はスロットで大勝。お前はビリヤードで大勝。勝者同士乾杯しようや。」
光は剛志の方を見ながら煽るように言った。私は剛志がビリヤードの練習をしていたことを聞き、彼女が光の提案を素直に聞き入れ、ビリヤードを打ちにいったことと、唐突に瓶ビールを賭けようと言ったことに合点がいった。
「ボーリングでもう一戦。」
剛志明奈は勝ちたがりなのである。
「3人でボーリングして、ビリが1位を1週間奴隷にできるの。どう?やるでしょ?」
なぜ自分で自分の首を絞めるようなことをするのか。勝ったところで本当に奴隷にできるわけもないのに。相手の闘争心を煽るだけの無意味な提案を剛志明奈はしがちである。
「奴隷ね。なら俺が勝ったら一発やらせろ。」
「は?私彼氏いるんだけど?!」
なら奴隷にできるなんで言うなと私は思う。
「奴隷っていうのはそういうことだろ。早くボーリング場いこうぜ。酒を大量に買って飲酒ボーリングの開始だ。楽しくなってきた。」
光はすでに酔いが回ってるのではと私は思った。
「酒飲みに負ける気はしないわ。そもそもそう言うのは勝ってから言ってくれる?」
剛志明奈は依然としてやる気である。
2位を目指そう。私は心の中でそう思い、彼らの後ろを着いていった。
こうして地獄の飲酒ボーリングが始まった...
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜今のところの登場人物まとめ
⚪︎浅井響
主人公
⚪︎今井友子
浅井の高校の友人。明るい。
⚪︎麓薫
浅井の高校の友人。成績優秀。人気者。
⚪︎松本光
不良仲間。歳上。酒飲み。
⚪︎剛志明奈
不良仲間。カフェの店員。勝ちたがり。