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【翻訳】Slavic Saturday:キキモア

この記事は「グウェントで学ぶスラヴ文化」をテーマに2021年9月5日に Notion 上で公開されたものの移転記事です。原則として当時のまま転載していますが、ほとんどの画像は転載していません。

著者:DrDenuz 翻訳:nippongwent
この記事は「Team Bandit Gang」の記事「Slavic Saturday: Kikimore (EP3)」の日本語訳です。元記事のURLは既にリンク切れとなっています。
URL:https://teambanditgang.com/slavic-saturday-kikimore-ep3/

導入

昔のスラヴ人たちにとって、森とその中にある沼はどこにでもあるものでした。農場や村の周り、山でさえ、森に囲まれていました。それらの森には精霊が棲んでいました。スラヴの神話に登場する精霊は、ほとんどが友好的な存在ではありません。夜の影に潜む悪魔の話は、スラヴの部族や国中に広まっていましたが、その中でも最も恐ろしい話の一つがキキモーラです。

訳注:Witcher の英語版では一貫して「Kikimore」と記載していますが、原文ではスラヴ伝承に合わせて「Kikimora」と記載されています。そのため日本語訳もこれに従い、原文が「Kikimore」のときは「キキモア」に、「Kikimora」のときは「キキモーラ」としています。

語源

すべてのスラヴ国家で、「キキモーラ」「モーラ」「ムーラ」「ズモーラ」と呼ばれる邪悪で有害な存在の概念が広まっていました。それは邪悪な悪魔で、眠っている人を窒息させ、血を飲み、異なる姿に変身できました。
ポーランドでは、キキモーラは「モーラ」と呼ばれており、スロバキアやクロアチアと同じです。セルビアでは 「ノッチニンク」と呼ばれ、英語だと「ナイトガウン(寝巻き)」の意味になります。国によって名前が違っていたとしても、この悪魔の別名は「悪夢」です。
文学作品によっては「ジジモーラ」「ジージーモーラ」でも知られています。
また、この悪魔の名はフィンランド語で案山子を意味する「キッケメルケ」にも由来しています。
この悪魔の名前はスラヴの国々では不吉な予兆とされている糸紡ぎ機(羊毛を糸に紡ぐ道具)の音にも似ています。

訳註:「キキモーラ」の名前の由来は「キキ」と「モーラ」に分かれており、「キキ」の部分が糸紡ぎ機がキーキーと動く音に似ているということを説明しています。それを考えると「ジジモーラ」「ジージーモーラ」も「何らかの擬音語+モーラ」の形になっているのだと思います。日本にも似たような怪異がいたとしたら「キコキコ」などと呼ばれていたかもしれません。

キキモーラ - 金縛りの悪魔

キキモーラは金縛りの原因だと言われており、金縛りは悪夢を伴います。息ができなくなるのはキキモーラが胸に座っているからであり、悪夢や金縛りに苦しむ最中に見る悪魔もキキモーラの仕業と思われています。

キキモーラはどのように生まれるか

キキモーラは死んだ赤ん坊や死産した子から生まれると信じられています。出産中に亡くなった女性の体からキキモーラの霊体が出てくることもあるようです。この場合、キキモーラは生まれなかった子の母親や祖母に似た姿になります。

振る舞い

キキモーラが家に棲みつくと、暖炉の裏か地下室で過ごし、食料を得るためにネズミのような音を出します。
キキモーラはドアの鍵穴を通って部屋から部屋へ移動すると言われています。これを阻止するために夜になると鍵穴に紙を詰めたり、鍵を挿したままにしていたそうです。
キキモーラの目を見ることはとても危険なので、小さな子供たちは親から「キキモーラがいると感じたら枕や窓を見なさい」と教えられていました。どのような状況であっても、ドアやクローゼット、箪笥を見てはいけません。そこがキキモーラの隠れ場所だからです。
キキモーラは、ときにとても美しい若い女性に変身して既婚男性の夢に出てきます。この悪魔は男を欲望のままに狂わせ、妻との関係を壊してしまいます。キキモーラの被害者は男性だけではなく、女性の夢にも入り込んで嫉妬させたり、夫が他の女性に好意を寄せていると思わせたりします。

別の種類のキキモーラ

キキモーラには2つの種類が存在しています。ひとつは森からやってきてドモヴォーイと結婚しています。
もうひとつは沼からやってきてレーシーと結婚しているものです。このキキモーラは濡れた足跡で存在がわかるとされています。家を建てた人が、家を買う人に嫌がらせをするときにキキモーラを連れてきます。この悪魔が家に入ると、追い出すことは難しくなります。
沼のキキモーラは、小柄で醜く、背中が丸まっていて痩せている不潔な老婆と言われており、鼻が尖っていて乱れた髪をしています。衣服には苔や草を使っていると言われています。人々を怖がらせ、旅人を襲い、子供を誘拐すると信じられていました。

訳注:「ドモヴォーイ」は「ドモ」が家(英語の domestic などにもあるように、スラヴ語も含まれるインド・ヨーロッパ語族に共通する語幹 dom)を指すことからわかるように、家に居付く精霊で、家事などを手伝ったりする友好的な存在です。先祖の霊が家の守護者になっているという解釈もあるようです。
一方、「レーシー」は森の精霊です。ピンと来た人もいると思いますが、ゲームでは「レーシェン」という名で登場する《森の精霊》のことです。こちらはロシア語で「森の」という形容詞「Лесно́й」(Lesnoy)からきているようです。

結語

これは「Slavic Saturday」の3番目の記事です。ファンのみなさん、このほかにも多くの生き物たちについて語る予定です。2番目の記事を読み忘れた場合はこちらで読めます。来週の土曜日に皆さんにお会いできることを楽しみにしています。
DrDenuz は Bandit Gang のゲストライターです。 彼についての情報はこちら:TwitterTwitchYouTube

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