【翻訳】Slavic Saturday:フィーンド
著者:DrDenuz 翻訳:nippongwent
この記事は「Team Bandit Gang」の記事「Slavic Saturday: Fiend (EP9)」の日本語訳です。元記事のURLは既にリンク切れとなっています。
URL:https://teambanditgang.com/slavic-saturday-fiend-ep9/
導入
昔のスラヴ人たちにとって、森とその中にある沼はどこにでもあるものでした。農場や村の周り、山でさえ、森に囲まれていました。それらの森には精霊が棲んでいました。
スラヴの神話に登場する精霊は、ほとんどが友好的な存在ではありません。夜の影に潜む悪魔の話は、スラヴの部族や国中に広まっていましたが、その中でも最も恐ろしい話の一つがビエス(bies)です。
ビエスは、スラヴ神話に登場する邪悪な精霊です。自然がもたらすあらゆる悪の力を擬人化した存在です。
訳注:フィーンド(fiend)は英語で「邪悪なもの」という意味です。これのポーランド語が「bies」です。「fiend」は理論上の言語であるインド・ヨーロッパ祖語(PIE)まで遡れられている言葉で、似たスペルで逆の意味の「friend」と対比される存在です。嫌うことを意味する接頭辞「pe」が愛することを意味する接頭辞「pri」とともに、ゲルマン祖語の段階で「pe → fijand(敵)」「pri → frijōjands(友)」となって、英語に受け継がれたようです。(参考:etymonline.com)
語源
「bies」または「bes」はリトアニア語で「恐ろしい」を意味する「baisus」と似ています。
この名のもう一つの由来は、スラヴ祖語の「bĕsъ」で「恐れや恐怖を引き起こすもの」です。
ポーランド語の「zbiesiony」という言葉は悪魔に支配された人を指しますが、「bies」という言葉に由来しています。
フィーンドの見た目と習性
この悪魔は様々な姿をしていると言われています。そのひとつが、角とひづめと尻尾を持った毛深い獣の姿です。足が不自由で片足を引きづっていると考えられています。これは、神々の一柱と喧嘩をした際に天から落とされて足を怪我した、という伝説に由来します。
その後、キリスト教徒たちがこの話を自分たちの神話に取り込み、このスラヴの原初の悪魔は天から地上に投げ落とされた天使に変えられました。
他の資料では、ビエスは角が生えた毛深い存在で、翼と尻尾があり、暗いマントを着て、煙の匂いがするとされています。
行動
伝説によれば、この悪魔は人の心を支配するほど強力で、人の意思を完全に支配し、犠牲者を最後には狂わせることができました。これが「zbiesiony」という言葉の由来で、ビエスの影響を受けた人は「zbiesiony」と呼ばれていました。かつては、精神障害をすべて非自然的な原因によるものとするのが一般的で、ビエスに憑依されたというのは、その理由の簡単な説明になっていました。
そのほかの能力として目から光を奪うこともできました。
ビエシー(ビエスの複数形)は人里離れた十字路にいて、普通の動物の姿に化けて、何も知らない旅人を待ち伏せしていることがよくありました。犬がニャーと鳴いていたり、猫がカーと鳴いているような、おかしな音を発する動物に十字路で遭遇したのなら、踵を返して逃げ出すのが最善の行動です。これは、その動物が実際には獰猛な悪魔であることを示しているからです。
ビエスたちは、古代の森や洞窟の奥深く、あるいは人の居住地から遠く離れた沼に住んでいたといわれています。また、この悪魔が好んで住んでいたのはとても深い峡谷であったとする資料もあります。迷子になって彼らの領域に近づきすぎたときには、身も凍るような叫び声と悪意のある笑い声が最後の警告となります。その先には確実で恐ろしい死が待っています。
ビエスたちは地下の財宝を守っているとも言われていました。今でも、いくつかの古城の財宝はビエスたちが長年守っていると噂されています。
結語:キリスト教の影響
この悪魔への迷信的な信仰は、それ自体はとくに中世においては人間にとって自然なことであったのですが、キリスト教による民間伝承の粛清を耐え抜き、ビエスの概念は若干修正されたものの生き残りました。キリスト教において、ビエスはこの世の説明可能なすべての悪の形をとることで、人々の不幸のスケープゴートにされました。
これは「Slavic Saturday」の9番目の記事です。ファンのみなさん、このほかにも多くの生き物たちについて語る予定です。これまでの記事はこちらで読めます。来週の土曜日に皆さんにお会いできることを楽しみにしています。
DrDenuz は Bandit Gang のゲストライターです。 彼についての情報はこちら:Twitter、Twitch、YouTube