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【ストップ!選択的夫婦別姓】新聞・TVが証明した「通称使用法整備」の民意 ―経団連の主張と現場の企業には明らかな温度差/宮田修一(ジャーナリスト)【「日本の息吹」令和6年11月号掲載】

内閣府の調査だけでなく最近のマスコミの世論調査はすべて、「同姓制度維持」を前提とした「通称使用拡大の法整備」が多数を占めています。9月の自民党総裁選で唐突に「1年以内の決着」を掲げた小泉進次郎氏の主張が、「社会の分断を生む」との批判に晒されたのは当然のことでした。それでも「賛成か反対か」の二者択一を迫って世論を誘導する動きがあります。そこには「通称使用の法整備」という圧倒的多数のニーズを隠すという不都合な真実があります。通信社の調査によって、経団連の前のめりの主張と現場の企業との齟齬も明らかになっています。国民の意思を無視して、選択的夫婦別姓に突き進むことに「大義」があるとは思えません。

 総裁選を振り返ると、小泉氏は告示前の出馬会見で、「自民党は、長年、議論ばかりしていて答えを出さずにいた」「私は1年以内に決着をつける」「一人ひとりの人生の選択肢を拡大する」などと述べ、「党議拘束を外して法案の賛否を問う」と主張しました。「長年」というのは、平成8年(1966)に法務省の法制審議会が選択的夫婦別姓に向けた民法の改正案を答申してから30年近く経っていることを示します。しかし、「議論ばかり」という民主主義の根底を否定するかのような表現や、経団連の間違った「旧姓の通称使用によるトラブル事例」からの孫引きもあって、小泉氏の主張は共感を得られませんでした。

「通称使用拡大の法整備」が圧倒的多数の世論調査

 内閣府が令和4年3月に公表した世論調査は、「夫婦同姓を維持した上で旧姓の通称使用の法制度を設けた方がよい」が全体の42.2%を占め、「現在の夫婦同姓の制度を維持した方がよい」が27%を合わせると、「同姓維持」は69%を超えました。対して「選択的夫婦別姓の制度を導入した方がよい」は28.9%でした。
 今年7月のTBS系列のネットワークJNNの調査でも、「同姓を維持しつつ旧姓を通称としてどこでも使えるように法制化すべき」が47%、「同じ名字を維持すべき」が21%、「別姓を導入すべき」が26%で、内閣府の調査とほぼ同じ数字でした。総裁選中の今年9月中旬に読売新聞やFNN・産経が実施した世論調査でもほぼ同じ結果が出ています。この結果は、通称使用の法制化こそ優先すべき課題であることを示しています。


二者択一の結果を「選択肢拡大」の根拠にする矛盾

 総裁選の討論では、これまで導入賛成の立場で来たという上川陽子氏(当時外相)でさえ、「意見が分かれたまま決定してしまうと日本の力を削ぐことにもつながりかねない」などと発言。林芳正氏(当時官房長官)も「○か×か(二択)で訊くと賛成が多いというのを聞いたことがあるが、3つ(三択)に分けると(通称使用の法制化が)42%だ。このまま(選択的夫婦別姓を)バシャッと決めていいのか」と疑問視しました。

 そうした中、読売新聞は総裁選中の9月13日付社説で、「親子の姓が分かれれば、家族の一体感が損なわれ、子供の成長過程に支障を来す恐れも否定できない。親の視点だけで判断していい問題なのだろうか」と書きました。

 ところが、別姓推進派は、各種の世論調査に抗するかのように恣意的な世論調査で世論を誘導しようとしています。例えば、9月末にはweb上に、神奈川県の不動産会社が実施したというインターネット調査が掲載され、「選択的夫婦別姓に賛成が57.4%」とされていました。しかし、「反対」「原則夫婦別姓」の選択肢はあっても、旧姓の通称使用に関する選択肢はありませんでした。選択肢を絞って意見を聴き、その結果を「選択肢を広げる」根拠にするというのは、明らかな自己矛盾です。

経団連の方針転換には別姓活動家の影響

 今や別姓推進派の拠り所ともなっている経団連ですが、十倉雅和会長は今年2月の記者会見で「一丁目一番地としてぜひ進めていただきたい」と述べ、6月には『選択肢のある社会の実現をめざして』と題する提言で政府に早期実現を求めました。

 しかし、経団連は元々「政府による旧姓の通称使用拡大」を支持し、平成29年(2017)には専務理事が「旧姓の通称としての使用の拡大に向けた内閣府の取り組みへのご協力のお願い」と題した通知を加盟企業に出しています。その経団連が別姓推進に方向転換したのはなぜか。日本政策センター研究部長の小坂実氏は、情報誌『明日への選択』(令和6年4月号)で、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」のチームリダーである井田奈穂氏とサイボウズ社長の青野慶久氏の2人の「活動家」による関与を指摘しています。

 2人は、経団連のダイバーシティ推進委企画部会に招かれ、それぞれ「改姓によって過去の研究や成果が同一人物のものとして認知されない」「旧姓の通称使用は国際社会では通用しない」などと発言。これらが十倉会長らの主張にそのまま採り入れられた経緯に言及しています。

共同通信が指摘する経団連と個別企業の「温度差」

 共同通信は今年8月、全国の企業111社に対して別姓制度導入について訊きました。その結果、「早期に実現すべきだ」と答えた企業はわずか17%で、さすがに「社会の在り方に大きく影響する問題だけに個別企業では慎重な姿勢が根強く、無回答も目立つ」と書かざるを得ませんでした。見出しには「導入推進の経団連と温度差」と掲げました。

 経団連のダイバーシティ推進委員会委員長で資生堂会長の魚谷雅彦氏は今年6月、日本記者クラブが開いた記者会見に出席しました。ある記者が、選択的夫婦別姓が「親子別姓ともなる」ことへの個人的な見解を訊いたところ、「非常に大変重要なことであろうと思っております」と述べました。しかし、「経団連としてそこのところをどうすべきだ、こうすべきだというようなスタンスをとっておりません」と答えをはぐらかしました。

 他の同様の質問にも「最も重要な論点ではないかと思ってはおります」と言いつつ、「いろいろな国のパターンはあるんですけれども、それによって家族間の絆が弱くなったとか、そういったことは特にないように私たちは聞いている」と伝聞で済ませました。これが、「姓」の問題をビジネスの視点からだけしか考えない経団連の実体なのでしょう。


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